Episode-4
執務に追われながらも気になるのは踊り子のこと。
ディルクは毎日、騎士団の報告を受ける度に進捗を確認していた。
「ディルク様、なにか進展がございましたら早急に連絡をさせていただきますので、こう毎日のように確認されるようなことはお控え下さい。我々も精一杯調べておりますので」
「…わかった」
そうして何の手がかりもないまま数週間が経過。
いつものように執務していると、定例報告の時間とは異なる時間にバーメラが訪れた。
「ディルク殿下、取り急ぎの用件がございます」
「入れ」
「失礼いたします」
「何かあったか」
「はっ。ディルク様がお探しの令嬢についてです」
「どこの令嬢だ」
「ユーベルト侯爵家の者かと」
「爵位はあるんだな」
「それと、気になることが1点…」
バーメルから聞かされた内容は、ディルクが誕生した後すぐに1人の踊り子が暗殺された件だった。
その暗殺された人は――。
「そんな事があったのか…」
「はい」
「バーメル、頼みがある」
穏やかな日差しが降り注ぐある日。
ディルクとバーメルはそれぞれの愛馬に跨り、ある邸へと向かっていた。
事前に訪問は伝えていたが、こうして実際に足を運ぶと緊張感が増してきていた。
「殿下、間もなく到着します」
「ああ」
「緊張、されているのですか」
「ああ」
邸の前へと到着すると、年老いた執事がこちらに向かって歩いてきた。
「ディルク殿下、バーメル様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
案内されたリビングには、1人の男性がいた。
だが、ディルクが逢いたいと思っていた人は、その場にはいなかった。
「ディルク殿下。わざわざ足を運んでいただきましたにも関わらず、申し訳ありません」
「いや…それより、ユーベルト卿、ルナ嬢はどちらに」
「娘は…この邸にはおりません」
「どういう…ことだ」
「殿下もご存知なのでしょう。私の妻のことを」
「ああ」
「娘も、妻と同じ道を歩みました。踊り子として生きていきたい、自分の命は自分で守ると言って、護身術も身につけてこの邸を出ました」
「ここには、戻って来ないのか…」
気落ちする一国の王太子を見兼ねた邸の主であり、ルナの父親はあることを伝えた。
「殿下、お時間が許すようでしたら、夜更け間近に、私の妻が命を奪われた王国の景色が一望できる高台へと足を運んでみてください。…娘に会えるはずです」
「わかった。貴重な情報提供をありがとう」
どこかほっとした表情のディルクに、バーメルも一安心したのだった。
◆⁺◆⁺◆
その日の夜遅く――。
ディルクとバーメルは、踊り子が暗殺された高台へと足を運んだ。
すると、目の前では1人の女性らしき人が舞踏していた。
近づこうとしたが、先に彼女の方がこちらの気配を察知した。
「誰っ?」
身構えるようにこちらの様子を窺う女性に対し、ディルクは声をかけた。
「夜分遅くにすまない。私の名はディルク・ルーカス。隣にいるのは側近のバーメルだ」
「デイルク殿下…?殿下がどうして…こちらに?」
「貴女と話がしたくて」
「私のような身分が低い者にどういうご用件でしょうか」
「あ…っと…」
言葉が見つからないディルクを見兼ねたバーメルが答えた。
「今度、貴女様の踊りを我が城でご披露いただきたい」
「…どうして私なのでしょうか」
バーメルが答えようとしたのをディルクは制した。
「隣国で貴女の踊りに魅了された…からでしょう。我が城でも魅力的な舞踏を披露してほしい」
「…わかりました」
王太子の依頼は断ることができないと思い、ルナは城で行われる夜会へと招かれることとなった。
虎娘『今宵はあなたとともに Episode-4』
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