猫缶コーヒー(猫缶珈琲)
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作品です。キーワードは「缶コーヒー」です。文字数の合計994文字です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
さあ、朝の珈琲タイムの始まりだ。
僕は缶コーヒーを手に取り、蓋を開けて声をかけた。
「一杯よろしく」
「ミャーン」
可愛い鳴き声と共に、ニュッと缶の中からモフモフとした猫が顔を出した。
白い毛並みの額に浮かぶ茶色いブチ模様が、白いカップに入った珈琲みたいだ。
僕が指で額を撫でてやると、猫はゴロゴロと喉を鳴らして目を細めた。
これは「猫缶珈琲」。SNSでも最近話題の、新種の缶コーヒーだ。
まず、缶の中にいる猫の糞からとれた豆が、自動洗浄及び焙煎を経て香ばしい珈琲豆に仕上がる。
上質な珈琲豆がジャコウネコの糞からとれる生豆を乾燥させて出来るのと同じ仕組みだ。
珈琲豆を挽くのも猫の仕事。鋭い歯でコーヒーミルよりも細かく砕いてくれる。
猫独特の口臭もブレンドされるなんて、僕みたいな大の猫好きにはたまらない醍醐味だ。
あとは缶に湯を注いでよく振り、猫が漬かったまま飲む。
猫は特殊な遺伝子操作により、熱に強く潜水も得意なので問題は無い。
寿命が来るまで繰り返し飲める点は便利だし、茶柱のように浮かぶ猫毛もまた一興だ。
猫の腹を吸う「お吸い物」が癖になるとよく言われるように、猫自体にカフェインと似た中毒性があるのだろう。
メーカーの推奨する摂取目安量は1日2本までだったが、この味にやみつきになった僕は1日10本と大量に飲むようになった。
そんな生活が1年ほど続いて、ある日の朝のこと。
ベッドから起きた僕は、自分の体の異変に驚愕した。
全身フサフサの毛で覆われ、人間の耳は溶けて猫耳が生えて、両手両足の先が猫の肉球に変貌している。
「ニャ! ニャニャニャ!?」
これは一体どうしたんだと言ったつもりが、完全な猫語になっていた。
今まであまり読まずにいた猫缶珈琲のパッケージを見てみると、こう書いてあった。
『摂取目安量を大幅に上回って飲み続けた場合、お客様自身が猫缶珈琲の猫になってしまうことがあります。一度猫になると元には戻れませんのでご注意ください』
……なんてことだ。もう猫として生きていくしかないのか。
打ちひしがれた僕は、尻尾を巻いてカラの猫缶へともぐりこんだ。
*
「猫ちゃん、今日も一杯よろしくね♡」
「にゃあん!」
若い美人OLに頭を撫でられた僕は、機嫌良く鳴いて焙煎豆作りの準備を始めた。
僕の部屋に引っ越してきた猫好きの美女と同棲できる上に、眠りたいだけ眠って好きに暮らせる毎日。
猫缶珈琲の生活に、僕はすっかりやみつきになった。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。