六話おたずねもの
予定のパン屋前。
「これは驚いたなぁ。まさかドロイト家のトップが裏社会に飛び込んでいるとは…」
盗賊は予定の時間通りやってきた。
「情報はがいるとは本当か?」
「本当だ。こう言うやつは高くつくからな」
人身売買。そんな言葉に俺は悲しむが、すぐに切り替える。
「100万ある。頼む。そいつを…譲ってくれ…」
俺は頭を下げた。
「あんた、この男を探すためだけに飛び込んだんだってなあ。この世界に。その勇気を称え、こいつを譲ってやる。だが、俺のことをバラしたらお前の情報もバラす。いいな?」
「ああ。ありがとう」
やった!やったぞ!
荷物を俺は密かに邸へ運んだ。
インタビューを、開始しよう。
「こんにちはオーラン君」
優しく俺は話しかける。
「なんだよ!俺は何もしていない!」
「じゃあこれはなんだ!」
俺はトランプの束を見せる。
「ここからは以前のポーカーで使われたトランプカードが抜かれている」
青ざめるオーラン。
「一つお前が助かる条件を出そ…
「ロイド!」
開かれるドアと共に聞こえたのはマークの声だった。また何かあったのか。
「警察が押し寄せている!俺たちが裏社会に金を積んだのがバレた!」
な…
「例の手紙はバレることはない!そのオーランを速く隠してくれ!」
……。
オーラン・ボロットは貧民街「ディア」の出身であった。
貧民街は汚れており、もう二度と社会復帰は不可能であると思われていた。
そんな世界に生きて欲しくないと子供を産む女はごまんといた。そんな中で生まれたのがオーランであった。
オーランは成り上がりを決意した。泥水を啜ろうと、見せしめにされても、それをバネに乗り越えようとしたのだ。
オーランはギャンブルで大儲けをしたり、相手を騙し討ちすることによって利益を得ていた。
憎まれはしただろう。
だが、その相手は完膚なきまでにやられている。
手を出すことは出来ない。
ある日、それを気に食わない宗教団体、「正しき光」にであった。
オーランを付け回し、オーランに執拗な暴力を振るった。
オーランがある日、瀕死の状態で殴られていたのをオーランの母が発見する。
老いていた体でも懸命にオーランを守り抜いた彼女は、もう、オーランが目覚める頃には死ぬ直前であった。
「仁義をとうして…生きるのよ…。こんな世界に産んで…ごめんなさい」
母親の最期の言葉だった。
オーランは涙を流した。
母が死んだこと、俺のせいで死んだこと、もう自分は母の遺言を叶えられないこと。
オーランは母親の死というものを記憶の奥深くにしまった。
そして悪に染まり続けた。
「正義」で、記憶が蘇るのをふせぐために。