第3話
現在、深刻な食糧危機に陥っている。
いや食べられそうなものは目の前にある。
先程、壁に衝突して死んだ肉食系の牛さん。
ほどよく肉がついていてとても食べごたえありそう。
個人的にお肉はミディアムレアが好みです。
問.
目の前にお肉があってお腹が空いているのになぜ食べないのでしょうか。
答え.
素手で牛を解体する方法を知らないんです。
ついでに素手で火を起こす方法も知らない。
転生時に神様から支給されたのは粗末な服のみ。
ポケットなどついてないから間違いようがない。
無人島に一つ持っていくなら何?の答えが今わかった。ナイフだよナイフ。
当然マジカルな手段で解決できないか試してみた。
具体的には土魔法でナイフを作ろうと。
試してみたが当方のマジカル、全くもって融通がきかない。
まず手のひらにナイフを作れないか試してみたが不発。
ナイフに限らずちょっとした土の塊すら作り出せなかった。
ストーンバレット!とか言って手から銃弾のように土を連射するの、楽しみにしていたのだけど。
では地面からならどうか。
壁をはじめとして槍を生やしたりナイフを生やしたり、割と自由に作成可能だった。
いけると思ったのだけれど、いくら引っ張ってもまるで地面から抜けない。却下。
それではこれならどうかと地面から生えたナイフに土魔法を追加行使してねじ切れないか試してみた。
結果、一度作成したものは追加で変更を加えることができないようで、こちらもうまくいかなかった。却下。
これはあれだ。
社内のリソースが足りないからと海外ベンダーに受託開発を依頼したときを思い出すよ。
契約を盾に一切の仕様変更に応じない強気の姿勢は、同じ開発者として憧れたものだ。
魔法ってもっとこう便利なものだと思っていたよ。
あれこれ試してはみたものの、これといった成果はあがらなかった。
かわりにあたりには現代アートよろしく、様々な形のオブジェが地面からニョッキしている。
たとえ異世界であろうとも、景観を著しく損なうとして周辺住民からのクレームは必死だろう。
幸いあたりは見渡す限り草原。人の姿はない。
この際、多少の不手際は見なかったことにしよう。
「お腹は減ったし喉も乾いた。これは発想を変えたほうがよいかもわからんね」
35歳のおっさんにサバイバル技術など皆無。
このままではすぐ死ぬよ。
せっかく人生リセットされたのだから、早々にバッドエンドは避けたい。
「そういえばさっき遠くに馬車が見えたな。つまり街が近くにあるということ。そうであってほしい。そうに違いない。」
ここにいても死ぬだけだ。
一か八か街を目指そうじゃないか。
…ちなみに馬車ってどっちから来てどっちに向かってましたかね?
生存できる可能性はそんなに高くない予感。