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それでは行ってきます

 


「…これが、俺が父さんから聞いた話だ。そして、人間と魔族はわかりあえる。それがお前の親父が残した最期の言葉だ」


「そんな…でも…じゃあ、どうして私の耳には…お城のみんなには、お父様は勇者に討たれたとだけ入ってきたの…?」


「大方その時あの場に居た魔族が出任せを言ったんだろ。魔族全員がお前の親父みたいに人間を思ってるわけじゃねーからな」



 出任せを言った魔族は、今も生きているのだろうか。今も人間を滅ぼそうと息を潜めているんだろうか?だとしても、それが誰なのかは私にはわからない。

 ラルクにも、たまたま居合わせた魔族にそう伝えたらしいとしかわからないと言われた。

 もし生きていたら、全てを見ていたら。人間を知ろうと世界を巡る私の前に、きっといつか立ちはだかるんだろう。


 でも、そんな事よりも、今は只、只ーー。



「おい…大丈夫かよ」


「…悔しいの…今の今まで十年も…正体のわからない誰かに踊らされて…お父様の本当の言葉を聞けなかった事が…たまらなく悔しいの…っ」



 気付けばボロボロと。私の瞳からは大粒の涙が次から次へと溢れ出していた。

 偽物の情報を信じていた自分が情けなくて、恥ずかしくて、悔しくて。

 顔は見えないけれど、きっと目の前の彼を困らせているとわかっていても、それを止める事は出来なかった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



(…参ったな)


 目の前の小さな体は小刻みに震え、地面にはボタボタと水滴が落ちている。つまりボロ泣き。

 泣いてる女ほどめんどくせぇもんはねぇ、と常日頃思っている俺だが鬼では無い。ある意味俺が泣かしたとこもあるし。だが俺に女の扱いはわからん。


 途方に暮れかけた時、ふとユリの言葉を思い出す。確か、あれだ。『泣いてる女の子が目の前に居たら抱き締めるか頭撫でるかするでしょ!?』て、言ってたな。

 抱き締め…はちょっと距離感近過ぎるな。



「…泣くなよな」



 そっと蹲る彼女の頭に手を伸ばし、軽く撫でてみる。

 目の前の少女は少しぴくっと体を震わせてから、そっと潤んだ瞳で俺を見上げる。

 暫しお互い無言で見つめ合う。

 少女は目尻に溜まる雫を指で拭い、フーっと深呼吸を挟んでから立ち上がった。



「ありがとう…そしてごめんなさい。もう大丈夫だから」


「そうか…んなら良かった」



 その後、もう明日に備えようと客間に戻り、お互い寝床についた。

 …にしてもやたら良い匂いしたし柔らかい髪だったな。とまあ余計な事も考えつつ。

 気付けば俺も夢の世界へと落ちていたーー。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「…ん…」



 小鳥のさえずりが聞こえる。気持ちの良いそよ風が部屋を通り抜ける。

 朝だ。とても気持ちの良い朝。まるで、私の、私達の旅立ちを自然が祝福しているかのような。


 皆を起こし、朝食をとり、それぞれ支度を済ませる。

 思えばたった一日の話なのに、なんだか色々あったな、なんて思う。


 敵として相対した筈なのに、真実を、なんて言葉に踊らされて。

 この人の独特な雰囲気に呑まれて。

 何故か一緒に旅をする事を受け入れ、2人きりで話を聞いて、目の前で涙まで見せてしまった。


 つくづく生きていたら何があるかわからないな、と思う。



「さー、行くぞお前らー。準備は出来てるか?」


「勿論ですよ」


「バッチリね。早く行きましょ」



 ラルクの声に、二人が続いた。ラルクの視線が私へと流れてくる。



「…お前は?」



 そっと目を閉じ、色々な事を思い出す。

 大丈夫。お父様がきっとついている。怖くない。

 それに、この人達となら。



「…行こう…!」



 私のその声に、ラルクはニッと笑った。一歩、また一歩と外の世界へ踏み出して行く。


 少しの不安と好奇心。そして、お父様の事。

 様々な想いを抱えて今、私はここから旅立つーー!




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