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真実を知る時

 


「え……」



 告げられた事実に、私は衝撃を隠せなかった。

 人間と…魔族の子供?そんな事ってあるの?人間と魔族はお互いにいつでも睨み合っていて、もうずっと険悪な関係の筈だ。

 そんな中で人間ーーましてや勇者と恋仲になった魔族が居たなんて、そんな話全然知らない。


 お父様からも聞いた事が無いし、あまり王族に近い魔族では無かったのだろうか?でも、王族から離れれば離れるほど姿形は人間のようなものからは遠ざかる。そんな状態の魔族が人間と愛し合えるとは正直あまり考えられないんだけどな…。



「…母さんは優しい人だよ。怒るとこえーけどさ。自分が父さんを愛してしまったばかりに俺が産まれて、勇者の子なのに魔族の血が混ざった歪な子だって罵られるんだってよく夜な夜なひとりで泣いてた。

 ガキの頃、近所の奴らに化け物の子だって喧嘩売られて買った時も、散々叱られたよ。


 “誰が何と言おうと貴方は決して醜くなんて無い、それを証明する為にも、人に優しくありなさい”ってな」



 正直、私の見てきた小さな世界の魔族達は、そんなに器が広くないと思う。もし自分の大切な人がいじめられていたら、やり返す事を咎めたりしないし、何なら自分も喧嘩売りに行くだろうなって感じ。

 でも、ラルクのお母様は違うんだ。なんて温かい心の持ち主なんだろう。そんなお母様の夢だから、ラルクは。


 そしてラルクはそんなお母様の事が。



「…大好きなんだね」


「まぁな。優しくて太陽みたいな人だよ。母さんがもっと冷たい人だったら、俺はもっと曲がって育ってたんだろうな、きっと」



 そう呟きながら微笑む彼の横顔は、とても優しいものだった。

 出会って間もない私達だけれど、随分とよく彼の事を理解出来た気がする。


 最初は只なんか失礼で掴みどころが無くて、ドSで。本当に勇者?ていう感じだったのに。パーティの二人からとっても信頼されてたり、こんな風にお母様の事が好きで大事で、優しく笑える。


 この人は、お母様と同じで心根の温かい人なんだ。

 そんな事を思うと、自然と頬が緩むのを感じた。



「…何ニヤニヤしてんだ気持ち悪ぃ」


「ニヤ…!?別にニヤニヤなんて…それより気持ち悪いはちょっと酷い気がする!」


「おー怒った怒った」



 他愛も無い時間が流れる。今ここにあるのは只どこまでも穏やかな時間。


 こうしている今もとても不思議な気分だ。

 私達二人はお互いを滅ぼすべく出会った筈なのに。


 正直今でも、やっぱりお父様は理不尽に殺されただけと言われたら人間への憎しみは止められなくなると思う。

 それくらい私にとってお父様は大事な存在。でもあの時のラルクの目は、真剣だった。真っ直ぐに私を見据えて。そこに“嘘”なんて見えなかった。

 だから信じてみようと思った。委ねてみようと思った。


 そうして、今この時間がある。


 私にとっての世界はお城の中だけで、小さな箱庭の世界しか知らない。そこに居る者たちはみんな私を“魔王様の娘”とか、“次期魔王”とか、そういう扱いで接してきた。

 だから私と対等な立場で話してくれる相手が新鮮で。こんなふわふわした感覚になるのも初めてで。そんなくすぐったい時間が楽しくて。もう少し、もう少しこのまま居たいとも思う。


 けれど私は聞かなければいけない。約束したから。はぐらかしたりしない、すぐに教えて貰うと。私の知らない真実(ほんとう)の事を。



「…そろそろ、教えてくれるかな。約束した事」


「……お前の父親と、俺の父さんの話だな」



 私が問いかけると、ラルクの顔から今までの穏やかな笑みが消える。代わりにあの時と同じ、真剣な()で真っ直ぐ見つめられる。

 私は無言で小さく頷く。少しの()

 静寂に呼吸音だけが微かに聞こえる。ヒヤリとした風が頬を撫でたのと同時に、ふぅ、とラルクが軽く息を吐く。そしてゆっくりと口を開いた。



「まず手始めに簡潔に言うと、俺の父さんはお前の親父を殺しちゃいない。確かに勇者として魔王の元へは出向いた。

 ーーが、切り伏せるのはどうしても話にならなかった場合だけ、まずは話をする為に行ったんだ」


「…話?」


「そう。お前には散々人間は醜いとか説いてたかもしれねーけど、そもそもお前の親父に魔王が代替わりしてから、人間と魔族はお互いの領地に踏み入れず、干渉しないという誓いを交わして上手くやってたくらい、お前の親父は平和主義で、人間の事を少しは信じてたんだ。

 そんな奴がいきなり侵攻するのはおかしい、何かあるってな。そうやって話をつけに行った結果ーー」



 そこまで言ってラルクは、少し躊躇うような表情で黙り込む。何か言いづらい事が言葉の続きに控えているんだろう。大丈夫。どんな事でも受け入れる覚悟は出来ている。



「……大丈夫だよ」



 きゅっとラルクの手を両手で包み、真っ直ぐに見つめる。そんな私を見て、ラルクは再び話し始めた。



「お前の親父はな、自ら命を絶つ選択をした。俺の父さんの剣に、わざと刺されにいってな」



 どんな言葉が来ても、

 どんな真実が飛び出しても。

 冷静に聞くつもりだった。

 落ち着いていられると思ってた。


 なのに、何て?お父様が、自ら命を?何で?どうしてそうなったの?

 訳が分からなくて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 いつの間にか呼吸は荒く、冷たい汗も流れている。動揺する私の両肩に、温かい手が添えられる。



「…落ち着け。ちゃんとどうしてそうなったのか、今から全部話してやる。知りたいならしっかり聞け」




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