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その色の意味は

 


 はぁ…疲れた。とても疲れた。

 と言うのも、あの後お父様の側近で、私の世話役だった魔族のシンディに散々咎められたからだ。

 そりゃそうだよね、勇者を倒すどころか一緒に旅してきますなんて…。しかも一晩泊めろと…。


 それでも最後には頭を抱えながらも私の意志を汲んでくれた。



「…お嬢様が意外と頑固なのは、お父様譲りですからね。わかりました、他の者には私から上手く言っておきます」


「ありがとうシンディ…」



 小言は沢山言われて疲れたけど、どうにかなって本当に良かった。シンディが居てくれて本当に良かった…。


 今日はもう寝よう、色々な事があり過ぎて頭がぐるぐるするし、明日からは世界を巡らないといけないのだから。

 そう思い、私は客間のベッドの一つへと潜り込んだ。

 今日は皆でこの客間で寝る事になっている。


 布団の温かさに微睡んでいると、私の意識は直ぐに眠りへと落ちていった。



 眠りについてどれくらいだろう。そんなに経っていない気がする。ふと誰かが部屋を出る音がして目が覚める。周りを見渡す、みんな寝ているーーけど、ラルクだけが居ない。

 そっと出て行った人影を追い掛けると、その人は広間の奥のバルコニーに佇んでいた。月明かりに照らされた整った横顔。夜の闇に映える綺麗な深紅の瞳…。



「悪い、起こしたか?」


「へっ、あ…ごめんなさい…」


「なんでお前が謝ってんだ」



 見とれているうちに気付かれていたらしい。不意に声を掛けられ反射的に謝罪してしまう。そんな私を見てラルクは笑っていた。



「…来るか?」



 自分の隣に目線をやり、そう問い掛けてくる。そっと隣に並ぶと、気持ちの良い夜風が頬をくすぐる。虫の音だけが響く静かな夜。

 何を話す訳でも無く、私達の間にも只沈黙が流れている。少し気まずくて、何か話題は無いかと模索していると、ラルクの方が先に口を開いた。



「…お前の髪色って、魔族にしては珍しいよな。あんま白って見掛けない気がするんだけど」


「えっと…そう、だね…」


「俺さー、目赤いじゃん?お前らからしたら何も珍しくないかもしんないけど、俺ら人間は青や緑、茶色…様々な色のヤツが居るけど、赤って居ないんだよな。だから初めて会うヤツはみんな、俺の事を最初は気味悪がるんだよなー」



 まるで独り言のように淡々と言葉を紡ぐ彼に、私は何も言えなかった。

 外の世界を知らない私は、ラルクの目はとても綺麗な色だとしか思わなかった。

 私達魔族からしたら何も珍しい事などそこには無かったから。

 でも、彼の生きる世界ではそうでは無かった。


 それにーー。



「お前はさ、その髪で何も言われたりしなかったワケ?」


「珍しいーーとは言われたけど、だからって変な風に言われた事は…無いよ」



(魔王の娘だったからかもしれないけど…)


 と、心の中で付け加える。でもその理屈でいくなら彼も勇者の子だ。勇者は人間達にとって偉大な存在の筈。それなのに何故…。



「それが人間なんだよ。自分達とは違う恐怖の対象はそうやって遠ざける。それに、人にだって善悪色んなヤツが居てさ、場合によっちゃ魔族なんかよりタチ悪いヤツらだってゴロゴロ居るんだよ。

 その逆で、お前らにだって善の心を持つヤツは居るだろうって俺は思う。


 結局さ、一緒なんだよ。人も魔族も。だから俺は、人と魔族は一緒に生きていけるんじゃねーかって思うのさ」



 なるほど、そうか。確かに見た目も違うし種族も違う。私は魔族の中でも位が高くて比較的人に近い見た目をしているけど、もっとかけ離れた見た目の魔族も沢山居る。

 けど見た目が違っても、根底にあるものは一緒。人か魔族かじゃない。善か悪か。それが彼の考え方なんだ。


 でもそれだけ?それだけで人類と魔族が共存出来る世界を目指しているの?

 何だかもっと別の何かがあってそれを志しているような。憶測でしか無いけど、そんな気がする。

 そんな事をぐるぐると考え続けていたら、顔に出てしまったらしい。彼が続けて口を開いた。



「…夢なんだ。俺の母さんの」


「お母様の夢…?」


「俺すっげー面倒くさがりでさ、魔王討伐って言われた時も正直行きたくなくてさ。目の前で助けを求めてるヤツが居るなら助けるさ、でもそういう訳でもねーし。俺はそういう奴なの。

 そんな俺でもいつか叶えてやりてぇって思うんだ、母さんの夢だけは」



 そう話す彼の目は、とても暖かなもので。心の底からお母様の事が好きなんだろうなって思えるものだった。


 でもどうしてラルクのお母様は人類と魔族の共存を夢見るんだろう?いくらお母様の事が好きでも、どうしてラルクもそんな事を受け入れられるんだろうか。



「…お前ほんとわかりやすいよな、さっきから全部顔に出てら」


「えっ!?や…あの…えと、ごめんなさい…」


「そんでもってすぐ謝る。別に怒っちゃいねーだろ、そんな人の顔色伺うなよな」



 ぽんぽん、と頭を撫でられる。頭を撫でられるのなんて、小さな頃にお父様にしてもらって以来だ。

 懐かしさに心地良さを覚えながら、疑問をぶつけてみる事にした。



「…どうして、お母様のそんな突拍子も無い夢を、叶えようと思うの…?」



 沈黙。只真っ直ぐに、二つの深紅の瞳は私の事を見つめている。

 怒っている様子は無い。多分、どう伝えるべきかを悩んでいるのだろう。

 彼の言葉を受け止める為に、私も真っ直ぐと見返す。


 一際強い風が私達二人の間を通り過ぎた後、フッと小さく笑い、ラルクは言った。



「俺、人間と魔族の子供なんだ。母さんは魔族でさ、母さん譲りな訳よ、この瞳の色は」



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