表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

やっぱり彼は真の勇者だった

 



「ーーなるほどね、大体わかったわ」



 私達二人(主にラルク)は事の顛末を包み隠さず全て話した。私が魔王である事。ラルクから世界を知る為の旅をしようと言われた事。私はそれを承諾した事。


 そして私もこの二人について教えて貰った。

 オレンジボブのこの女性はユリアさん。魔道士で、ラルクとは家が隣同士の幼なじみらしい。

 緑髪のニコニコとした青年、彼はヨアンさん。ここへ来る旅の途中、世界の為に魔王を討つという志に惹かれ、仲間になった神官だという(ラルクにそんな素敵な志がちゃんとあったかはさておき)。



「で、何となく想像はつくけど、角に興味を示したラルクが触って遊んでた。それが私達が遭遇した状況で間違いないわね?」


「は、はい…私も…もっとちゃんと止めるべきでした…」


「いやまぁそこについては別に貴女が謝る事じゃないわ。むしろこのバカが迷惑掛けて悪かったわね。コイツ昔から魔族の角に興味があってね」


「おいユリ、余計な事言うなよ」


「………?」



 昔から魔族の角に興味がある…?どういう意味なんだろう。少し気になったがラルクは()()()()()と言った。多分、今は聞くべきでは無いのだろう。余計な詮索はよそう…。



「まぁ、それは置いといて。貴女が私達と旅をする事についてだけど、私は反対だわ」



 それはもうあっさりと。ユリアさんの口からは反対の意見が出た。

 まぁそりゃそうだ。そうなんだ、いいね行こう!なんて快くひとつ返事で言う人間、滅多に居ないんだろうなとは思う。魔王城のみんなにだって何て説明しようと思ってる所なのに。


 だからといって私も一度は決めた事。簡単にそうですよねやめときますね!とは引き下がれない。でも私にはユリアさんを納得させられる気もしない。

 どうすればいいのか…ちらっとラルクに助けを求め、目線をやってみる。バチッと目が合う。ラルクの整った目が、少し細まる。同時に口角が少し上がった。


 どうやら〝任せとけ〟という事らしい。



「ユリ、納得いかない理由は?」


「理由って、そもそも人間と魔族の確執は何千、何万年も前からのものよ。その魔族を総べる王なのよ?

 確かに、この子からそんな禍々しいオーラは感じない。けど、猫被ってるだけかもしれないじゃない」


「…あとは?」


「この子が本当に害が無くて、純粋に世界を知る為に私達と行きたいと思ってたとして、世間の目があるわ。

 勇者一行が魔王と旅してるなんてバレたら、私達全員まとめてお縄行きよ。リスクが大きすぎる」



 彼女の言っている事はもっともだ。こんな正論に、言い返す言葉なんてあるのだろうか。心配する私をよそに、涼し気な顔でラルクが口を開く。



「まず、少し話して確信したがこいつは只の箱入り娘だ。世間を知らないお嬢様。んでもって多分根は人畜無害な奴。

 俺の人を見る目に狂いはねぇ、それは知ってるな?」


「…そうね」


「次に、リスクの話。もちろん角は極力隠して動く。そんでもって、幼なじみのお前は知ってるはずだが、俺の最終目標は人類と魔族の和解だ。

 万が一バレた時、こいつもお前らもまとめて必ず俺が守る。必ず世間に納得させる。だから俺を信じろ」



 人類と魔族の和解。何だか今とんでもない台詞が聞こえたような。それに、結局の所信じろってそれしか言ってない。根拠なんて何処にも無いじゃないか。これじゃきっと納得なんて…。



「この半月程の短い時間ですが、間近で彼を見続けてきた私にはわかります。彼は出来ない事を出来るとは言いません。そうでしょう、ユリア」



 今までずっと見ているだけだったヨアンさんが唐突に口を開く。優しい、けど何処か少し恐ろしさすら感じる瞳とゆったりとした口調で。



「有言実行。彼はやると言ったら本当に何でもやってしまう。人類と魔族の和解なんて夢物語だって、彼がやると言うから出来てしまう気がするんです。

 それだけの力、知恵、カリスマ性がある人ですよ、ラルクは」


「…そんなの、私が一番知ってるわ…」



 少しの沈黙。難しい事は置いておいて、二人が随分とラルクを評価している事はわかった。確かに、よくわからないけれど直感的に、出会ってすぐの私も彼を信じようと思ってしまった。

 きっとこの人には自然と人を惹きつける才能があるのだろう。それだけの魅力が、長所が、備わっているんだ。


 なるほど。これが勇者か。人々から一目置かれ、信頼され、世界を守る。

 この一見だるそうでドSで悪魔みたいな所もあって、無邪気な子供のような面もある彼も、ちゃんと()()なんだ。

 そんな事を考えていると、沈黙を破ってユリアさんが口を開いた。



「…私の負けね。わかった、ラルクの好きなようにして。私は、ずっと隣で見てきたアンタを信じる」


「ユリアさん…」


「ありがとう、ユリ、ヨアン。これからもよろしく。んで、新しい仲間の事もよろしくな」



 ラルクがポンと私の頭に手を置く。その温かさに安心感を覚えながら、ユリアさんとヨアンさんに目線を向ける。



「「よろしく」」



 二人は一斉にそう私に言った。綺麗な微笑みのユリアさんと、ずっとニコニコのヨアンさん。何だか少し照れ臭くなってしまって、顔を俯かせて二人に返した。



「これから…よろしくお願いします…」


「さーてと、今日は明日からの作戦会議と休憩だな。このままここに泊まるかー」


「…え。泊まってくの?」



 安心したのもつかの間、今度はまた新たな問題が。人間と世界を知る為に旅をしてくるって言うだけでも絶対みんなに反対されるのに。まさか人間を泊めるなんて。


 そんなこんなでオロオロしながらラルクの顔を見上げてみる。そこには人がオロオロしてる様を明らかに楽しんでいる、ニヤニヤとした顔があった。

 ずっと掌の上でコロコロと転がされてる感じ。

 すっかりこの男の玩具になっている気がして、悔しさと恥ずかしさに顔が赤面しだした次の瞬間ーー。



「ラルク、悪い癖出てる」


「いってぇ!?」



 ユリアさんがラルクの耳を思いっきり抓っていた。さっきまではあんなにも頼もしくて、嗚呼やっぱりこの人は勇者なんだって思えたのに、それが今は幼なじみの女の子に耳を抓られて悶えているなんて。



「ふふ…あはは…っ」



 そんな光景に、思わず笑いがこぼれた。


 まったく、これから私どうなっちゃうのかな。

 胸にあるのは少しの不安と、ワクワクした気持ち。

 何だかくすぐったい感情。

 今まで知らなかった感情。

 それらを抱えて私は、目の前の温かでくすぐったい時間を只微笑みながら見つめていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ