距離感の近い勇者と幼なじみ
「わぁ…っ」
街の入口にある小さな門をくぐり抜けると、そこには眩い世界が広がっていた。
もう辺りは闇に包まれている時間だというのに、沢山の人で賑わい、街頭に照らされてキラキラと街全体がイルミネーションのように輝いている。
とても活気的な場所。陰鬱な空気の漂う魔族達の住処とは全然違う。
道も建物も暖かさを感じるレンガ調で、何だかほっとする街並みだ。
見慣れない景色にキョロキョロと辺りを見回し続けていると、不意に横から頬をつままれる。
「ぶぇ?」
「…フッ。ぶっさいくな反応。
お前、物珍しい物を目にした時の子供みてぇだな」
面と向かってラルクに笑われ、急に羞恥心が込み上げる。
私そんなに子供みたいな反応してたかな…。
「…イチャついてるとこ悪いんだけど、私もうお腹空いたし疲れたし。
早いとこ今夜の宿を探しましょう」
「別にイチャついてねぇだろユリ。悪かったな、行こうぜ」
ユリアさんの声に一気に引き戻され、なんだか余計に恥ずかしい気分になる。
あれってはたから見たらイチャついてるように見えるのだろうか。
別にそんなんじゃないのに…。
(そんなんじゃない…けど)
色んな事をぐるぐると考えているうちに、気付けば宿屋に辿り着いていて、あっという間にチェックインし、男女別々の部屋で泊まることとなった。
部屋に荷物を運んだ後、再度四人で集まり、宿屋の中に入っているこじんまりとした食堂で夕食をとる。
無料では無いが、宿屋の利用者は割安で食べれるらしい。
ラルクはカットステーキ。
ユリアさんはミートソーススパゲティ。
ヨアンさんはお魚の定食。
こうして見ると、食べ物にそれぞれの性格が出ている気もする。
私はハンバーグを頼んだ。
お肉という意味では一緒なんだけど、ラルクの食べているステーキはソースがとってもいい匂いで美味しそうだ。
じっと横目で隣のステーキを見つめながらハンバーグを口へと運ぶ。
(意外に綺麗な食べ方するんだな…)
そんな事を思っていると、ふと視線を感じた。
目線をステーキから少し上げると、ばっちりラルクと目が合う。
恥ずかしい。いつから気付かれていたのか。
顔を合わせる事無く、横目で見ていた視線を自分の皿に戻す。
恥ずかしい、食い意地張ってるとか思われたらどうしようか。
恥ずかしさを誤魔化すように、パクパクと自分のハンバーグを次々に口に入れる。
すると突然、目の前に一口サイズにカットされたステーキが突き出された。
「…へ?」
「食いたいんじゃねぇの。ありがたい最後の一口、やるよ」
確かに隣のお皿はいつの間にやら空っぽだった。
ラルクは左手で頬杖をつき、反対の手でステーキを差し出している。
食べれるのは嬉しい。嬉しい、けど。
「あの…置いといてもらえれば…」
「別にこんまま食えばいいだろ、ほら」
容赦なく口元に運ばれてくるお肉。
とってもいい香りにかぶりつきたい気持ちとちょっと待てという気持ちがぐるぐると渦巻く。
このままって、だってそれ、いわゆる…。
「はい、あーん♪」
「あ…むぐ……美味しい…」
急な掛け声に反応し、おもわず口を開いてしまった。
とりあえず、お肉は美味しい。とっても。
で、今の声の主はラルクじゃない。
自分の正面の席に目を向けると、ニコニコと微笑むヨアンさんが居た。
「いやぁすみません。とっても微笑ましい光景だったものですから、つい」
「ラルク。そのくらいならまだいいけど、アンタあんまり距離感間違えるとそのうちセクハラって言われるわよ」
「セク…つーかそんなん言われるような事は別にしねぇよ…」
三人は普通に会話を交わしているが、私は自分の顔面がみるみるうちに熱くなっていくのを感じていた。
ただでさえ「あーん」をされたという恥ずかしい事実に、見ている人がいるというこの状況。
これが平常心で居られるわけが無い。
そこからはあんまりみんなが何を話していたかは記憶に残っていない。
とにかく急いで残った食事を片付け、早くラルクと別れる事に必死だった。
部屋に戻り、やっとなんとか思考が落ち着く。
ラルクはどうしてあんなに距離感が近いのか。
ずっと彼に振り回されている気がしてならない。
小さく溜息をついた時、ふと後ろから声を掛けられた。
「ソフィアちゃん…でいいかな。
早いとこお風呂に入ろうと思うんだけど、一緒に行く?」
「あ、は、はい…!」
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宿屋の中には共同スペースの浴場があった。
物凄く豪華!とかそんな感じでは無いけれど、落ち着いてゆったり出来る空間になっていた。
「大丈夫。今は私達以外に誰も居ないわ。
今のうちに早いとこ済ませましょ」
「ありがとう、ございます…」
他に誰も居ないか確認してもらい、脱衣場で衣服を脱ぎ、浴場の中へと入る。
途中で誰かが来てもすぐ角を隠せるよう、少し大きめなタオルは持っておく。
お互い一通り洗い終わり、ゆっくりと湯船に浸かる。
じんわりと温かくて、疲れが和らいでいく気がする。
にしても、やっぱりユリアさんって綺麗だ。
肌も白くて、髪もサラサラ。
横顔までしっかり画になるくらい、綺麗な顔立ちをしていて。
(…大きくて、綺麗…)
いや、よくわからないけど多分、私もそこまで無いわけでは無いはず。
下着のサイズだってBはある、ぺたんこってわけではない。ないんだけれど。
羨ましい。切実に。
「…あのさ」
「ひゃい!?」
変な事を考えていただけに、急に声を掛けられ実にすっとぼけた声が出る。
ユリアさんは一瞬「なんなの」って顔をしたが、すぐにいつもの飄々とした態度で話を続けた。
「ラルクの事だけどさ、アイツ、あんな感じで割と誰にでも距離感近いのよね。
嫌だったらハッキリ言っても良いんだよ?」
「べ、別に嫌とかは…無いけど…びっくりは…したというか…」
「そっか、まあ、嫌いにならないであげてね。
お節介だし距離感も近いし俺様な所もあるけどさ、根はいい奴だから」
「は、はい…嫌いになんて、ならないです…」
「ーーーー」
「え?」
「ううん、なんでもない。さ、上がろうか」
最後に、ユリアさんはとても小さな声で呟いていた。
聞き取りづらくはあったけど、聞こえなくはなかった。
『好きにもならなくて良いけど』て。
そしてその時の声は、とても冷たく感じた。
まるで、何かの牽制のような。
もしかすると、ユリアさんはラルクの事が好きなのだろうか。
私は、本で見た事しか知らないから、「あーん」だの、他にも恋人達がするような事とかは知っている。
だからちゃんと自分がされる事に恥ずかしいという気持ちも湧く。
けれど、“好き”という気持ちの事はあまりよくわからない。
わからないから、なんとも言えないけれど。
ユリアさんから見て、私はもしかすると、邪魔だったりするのかな…。
その後部屋に戻ってからのユリアさんは、いつも通りだった。
あれは一体何だったのだろう。
魔物の森での戦闘のこと。
神子になったこと。
「あーん」のこと。
距離感のこと。
ユリアさんのこと。
今日あった色々な事を思い出しながら、私は眠りについた。




