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勇者と魔王のご対面

 


 世界って、どんな光景なんだろう。

 醜くて酷い生き物の人間達が作る世界なのだから、やはり醜い世界なのだろうか?



「ソフィア様!もうじきに勇者一行がこの魔王城へ到着致します!」


「…報告ありがとう。私もそろそろ迎える用意をするね」



 気分のせいだろうか。鉛のように重たい上半身を起こし、ベッドの縁に腰掛ける。


 ふと棚の上の写真に視線を移す。十年前、最後にお父様と撮った写真。私の大事な宝物。



「…行ってきます、お父様。必ず無念を晴らします」



 先代勇者に討たれてしまった大好きなお父様。

 偉大なる先代魔王のお父様。

 必ず仇を、勇者を討ち取る。


 そう気合いを入れて、私は魔王の間へと向かったーー。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「ーーで?お前が魔王なわけ?いやいや何の冗談だっつーの」



 目の前で腹を抱えて笑う青年。何処までも広がる闇のように深い黒髪に、吸い込まれそうなルビーの瞳。



「…何を笑ってるのか理解し兼ねるけど…貴方が先代勇者の子…今の勇者なのね?」


「そ。俺はラルク。一応勇者やってる。まぁ見えないけどお前が魔王らしいから、俺はお前を今から倒す」


「…私はソフィア。先代魔王の娘です。私は…大好きなお父様を奪った人間が許せない。だから、ここで倒れる訳にはいかないの」



 お互いに剣先を相手へと向ける。緊迫した空気がこの場に漂っている。

 その静寂を破り、勇者がボソッと一言。



「敵討ちねぇ…」



 意味深げに口元を手で覆いながら、勇者は一点に私を見つめている。暖かな色とは対照的に、その視線は鋭い氷の刃のようだ。思わずその雰囲気に気圧され、首を伝う汗を右手で拭い、キッと睨み返す。すると、勇者は口を開いた。



「あのさ、魔王のお嬢さん。お前ってどこまでこの世界の事理解してるわけ?」


「…は…?」



 この男は急に何を言っているんだろうか。一体どうして今そんな話になるんだろうか。



「どうもお前からは無知の臭いがプンプンするんだよ。例えば、魔族と人間の関係が悪化した理由とか、知ってんの?」


「馬鹿にしないで!人間とは違う見た目の魔族を、異形のものだと、災いだと!貴方達人間が迫害したからよ!!!」



 そうだ。魔族と人間の不仲は全て人間のせい。そこに何も間違いは無いはずなのだ。

 なのに、この胸のざわめきは、違和感は、なんだと言うのーー?



「あー、あー、よくわかった。お前あれだ、こっから出た事ねーだろ」


「…?そう、だけど…」


「お前はこの箱庭の世界で大事に大事に守られてきた箱入り娘って訳だ。本当の世界の事なんざ何も知らねぇ」



 何。何なの、この男は。

 何でこんなにこの男の言葉に私の呼吸は、鼓動は、反応して早くなるの?一体、どうして?



「そこでだ、俺は鬼でも悪魔でもねぇ。何にも知らなさそうな可哀想なお嬢様をまぁ仕方ねーかで切る趣味もねぇ。


  ーー教えてやる、変えてやるよ。間違ったお前の知識の全て。お前が持つイメージの全て。本当の世界の事を、全部な」


「……は?」



 思わずすっとぼけた声を出してしまう。そりゃそうだろう。だって何を言っているの?この男は。

 私と彼は魔王と勇者。戦い、どちらかが敗れ、消えていく。それだけの関係。なのに、なのに。



「…教えるって、何する気なの」


「お前さ、俺と旅しようぜ?世界一周」


「…いや…は?何で私が勇者なんかと…」


「お前の父親と俺の父親。お前は只残虐な人間の親父がお前の親を魔王ってだけで殺しに来た。それだけだと思ってるだろうよ。でも、違う。本当の事、知りたくねぇの?」


「何それ…そんなの…ハッタリでしょ…!!」


「そう、見えんの?」



 …まただ。この、冷たい目。この目で見つめられると、動けない…何も言い返せない。


 只、最初の時とは違う。今の彼の瞳には、冷たいだけではなくて、奥の方から別の何かを感じる。

 そう、まるで、〝俺を信じろ〟と。そう、言っているような。



「…嘘だったら、どうなっても知らないし、いつまでも教えないも、無し。真っ先にお父様達の間にあった事を…話して」



 気が付けば自然と口が動いていた。どうして私は彼の誘いに乗ろうとしているのか。自分でもよくわからない。


 けれど、何か、何かーー。この男を信じてみても良いんじゃないかと、そう、直感したのだ。



「交渉成立だな、魔王のお嬢さん。これからみっちり俺がお前の間違った知識と価値観を全部書き換えて、世界征服だの何のって考え、無くしてやるよ」


「ま、改めてよろしくな?」



 差し出される手。そっとその手を取り、軽く握ってみる。お父様ともまた違う、温かくて、大きくて、ゴツゴツした手…。



「…よろしく、ラルク…だっけ。そこまで自信満々に言うんだから、最後に私の考えが変わらなかったら、貴方だいぶ恥ずかしいからね?」



 ニッと笑ってそう答えた私に、少し驚いたような表情を一瞬だけ見せた後、すぐに元通りの涼しい笑みを浮かべ、私の手を握り返す。



「…そういう事も言えるんだな、お前。ま、その方が面白味があっていいけどよ」



 強く握り合った私達の手は、夕日のオレンジ色に照らされ染まっていた。


 こうしていざ対面してみた勇者の子は、何だか随分イメージとは違ってて。こうして微笑みあっている今でも、どうして彼の誘いに乗ったのか全然わからなくって。でも確かに、心の奥にある想いは。



 〝一度人を信じてみたい〟


 〝彼なら信じてみても良いかもしれない〟


 〝確かに私は知らない事が多過ぎる〟


 〝真実(ほんとう)の事が知りたい〟


 〝自分の目で、この世界を見てみたい!〟



 そんな想い達が、私を突き動かしたのだろう。そんな気がする。


 こうして、本来憎しみあい、戦う運命のはずの魔王と勇者は、何故か手を取り、共に世界を旅する事となった。

 これから始まる私の社会勉強。その響きに少し心を弾ませ、一歩を踏み出す。


  まだ見た事のない、世界を知る為にーー!




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