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1.前世を思い出したのは男の首を絞めている時でした


 頭が痛い。目の前が暗い。

 ここはどこ。私は、誰。


 私は、アラフォー独身会社員・綾瀬 芹奈(せりな)

 芹奈……のようなそうじゃないような。あれ? 何かおかしい。どうも記憶が混乱している。

 えっと、私、一人暮らしの部屋でひどい頭痛に襲われて、倒れた? んだっけ?

 そして今。

 後ろ手に縛られベッドの上にうつ伏せる見知らぬ男性の背中に乗って、その太い首を絞めている。


 ――え。

 なななななにこの状況。

 私、人をこっ殺……。


「く……」


 男性が苦しそうなうめき声をあげる。

 私はあわてて彼の上から飛び降りた。


「だ、大丈夫ですか! 生きて……はいますよね! なんで私に首を絞められてたんですか!」


 混乱してとんでもないことを聞く。

 男性は私をギロリと睨んだ。


「この期に及んでふざけてるのか」


 うん、自分の首を絞めてた女にそんなこと聞かれたらそれは腹が立つよね!

 えーとえーと。

 とりあえず状況を整理してみよう。


 まずはこの部屋。殺風景な十畳くらいの部屋。窓は天井付近に小さなものが二つ。地下だろうか。

 部屋の中にあるものといえば、粗末なベッドとその隣に簡易的に仕切られたトイレくらい。

 そのベッドにうつ伏せになっている男性の両足には鉄の足輪がはめられていて、そこからのびている鎖が壁に固定されている。たぶん、ベッドとトイレにギリギリ行けるくらいの長さ。

 男性の首には銀色の……首輪のような金属。真ん中に宝石のようなものがはまっている。

 上半身裸の彼の背中には、裂傷のような傷があった。

 それにしても、すごく逞しい体。

 浅黒い肌に、暗めの金色の髪、赤い瞳。男らしい外国のイケメン。二十代前半くらい?

 で。私は、そのイケメンさんの首を絞めてた、と。

 なんで!? ますます状況がわからない!


 ふっと、自分の手を見る。

 ……見慣れた手と違う。

 もっと色が白いし、何より若い。なんかちょっとむちっとしてるし。

 あれ? あれ?


「すみません、ちょっと……失礼します」


 ふらふらとドアに向かう。

 ひとまずここを出よう。

 男性は……なんで捕らえられてるかわからないし、とりあえずこのままで。

 危険な凶悪犯とかだったら困るし、そもそもあの鎖の外し方もわからない。


「なんなんだ一体」


 男性の不快そうな声が聞こえたけど、それに答える余裕もなく部屋を出た。

 部屋を出て狭い廊下を少し歩くと、重そうな鉄扉の前にたどりつく。それを開けると、廊下の突き当りの左側に上へと続く階段を見つけた。

 そこを登りきって引き戸を引くと、その先に長い廊下が現れた。

 明らかに豪邸とわかるつくり。

 どこ、ここ。

 とりあえず引き戸を閉めようと振り返ると、引き戸だと思っていたものはこちら側からみると鏡だった。

 隠し部屋?

 それよりも。

 鏡に映るこの子は、誰。

 年齢は十代後半くらい。ゆるくウェーブがかかった濃紺の髪。たぶん欧米人。

 きつそうな釣り上がり気味の目が長い前髪の間から見える。瞳の色は……すみれ色!?

 なんでこんなに前髪が長いの。おしゃれで長くしているというより、モッサリしている。白いお肌にも吹き出物が……。

 服装はドレスとワンピースの中間のような赤い服。

 胸は大きく、ウエストも大きい。というかくびれがない。デブとまではいかないけど、いわゆるポッチャリさん。


 ――あ。

 思い出した。


 私の名前は、セレナ・ウィンスフォード。十七歳。

 カルクーア伯爵ダグラス・ウィンスフォードの唯一の実子。


 名前を思い出すと、子供のころの記憶から徐々によみがえってくる。

 庭師の息子に犬をけしかけたこと。

 メイドを引っぱたいたこと。

 お父様の大事な壺を割ったのを弟のせいにしたこと。

 弟がお父様に褒められた翌早朝に、寝ている弟の部屋に忍び込んでコップの水をシーツにこぼし、目を覚まして愕然とする弟におねしょしたと指さして笑ったこと。

 その他悪行の数々。


 ……あれ?

 私って子供のころからすっごく性格悪くない?

 ああだめだ、どんどんセレナとしての記憶が広がっていって頭が痛い。


 っていうか芹奈は?

 芹奈、芹奈……は、なんとなく死んだ気がする。

 部屋で倒れたのはうっすら覚えてる。その後の記憶が一切ない。

 もしかして、芹奈として生きたのは前世だった? それとも芹奈は生きていて、病院で夢を見ている? もしくは芹奈が別人に憑依している?

 わからない。


 頭が爆発しそうになりながら、自室へと向かう。

 道のりは足が覚えていて、少なくとも今は「セレナ・ウィンスフォード」という人間なのだと自覚する。

 すれ違うメイドたちは、どことなくビクビクしていたり嫌悪感をにじませているように見える。

 記憶によると、使用人を色々いじめてたみたいだもんね。セレナ性格悪っ! って私か。

 それにしても、体が重い……。

 食べすぎなのか運動不足なのかその両方なのかわからないけど、若い女の子なんだからもうちょっと頑張ろうよセレナ。って私か。


「相変わらず重そうですね、姉上」


 嘲笑を含んだ声に振り返ると、黒髪に鮮やかな紫色の瞳の少年が口元に手をあてて立っていた。

 鋭いその瞳に浮かぶ嫌悪と侮蔑を隠そうともしないこの少年は、弟のギルバート。といっても、実際はお父様の甥、つまり私の従弟(いとこ)で、両親を事故で失って幼い頃この家の養子になった。

 まあ、この子から恨まれるのも無理はない。

 まだ全部を思い出したわけじゃないけど、この子にも結構ひどいことしてたもんね、セレナ。

 こんなにきれいな子なのに、なんでいじめちゃうかなー。

 ちっちゃい頃なんて天使みたいにかわいかったのに。


 ……ところで、このギルバートの左胸の上にうっすら浮かんでる黒い横長の棒みたいなものはなんだろう? 小さくてよく見えないけど、棒グラフみたいな。

 服の模様ではなさそう。なんだか浮き上がって見えてるし。

 そんなことを考えていると、ギルバートがじろじろ見るな気持ち悪いと言わんばかりの嫌悪感たっぷりの顔で私の視線を避けて、壁にかかっている絵を見上げる。


「この絵を見るたびに、なぜ姉上のような人がこの母上から生まれたか本当に疑問に思います」


 私も絵を見上げる。

 金色の髪に私と同じすみれ色の瞳の美しい女性が描かれていた。


「幼い頃にわずかな時間を一緒に過ごしただけですが、母上は美しく、そして優しい方でした。花のようにはかなげで可憐な方だった。毒にまみれた姉上は毒の花……というにも程遠い。せいぜい毒まんじゅうといったところでしょう」


「……」


 毒まんじゅうって。

 いや、ぽっちゃりしてるけどさ。君をいじめたけどさ……。


「たいした才覚もない上に性格も悪いのですから、せめてもう少しお痩せになって女性としての魅力を磨いてはいかがですか」


「そうね。体も重いし、あなたの言う通り少し減量してみるわ」


 そう言うと、ギルバートは目を見開いた。

 なんで?


「何を考えているんですか」


「何が?」


「毒舌だけは人並み以上の毒まんじゅうの姉上が、嫌味ひとつ返さないどころか僕の言う通りにする? 何を企んでいるんですか」


 めんどくさー。

 かなりひねくれた子だわ。

 っていうか何回毒まんじゅうって言うのさ。


「さあ?」


 にっこり笑うと、ギルは眉根を寄せた。

 ん? ギルの胸の黒い棒が、ちょっと縮んだ……気がする。

 気のせいかな?


「じゃあ私はこれで」


 ギルに向かって優雅に手を振ると、私は部屋の中に入った。

 はあ……疲れた。

 それにしても、この状況は一体なんなの……!?


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