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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第三章 悩める冒険者の万能生活
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第15話 ライオネルとの探索

 その翌朝、たまたま同じ時間に食堂に来たイセリアと一緒に朝食を食べ終えたアレンは、薬草採取のために森に向かって出発した。

 イセリアが、久しぶりに体を動かすために一緒に行こうかなどと言ったときは内心焦ったアレンだったがなんとかそれを断り、一人で村を出て森の中の集合場所付近で薬草探しを始める。


(イセリアがいたらライが意地を張るだろうしな)


 ライオネルの性格をよく知っているアレンには、そんな姿がありありと想像できてしまった。そして苦笑する。


 別にライオネルは人前で誰かに感謝を伝えることを嫌がるわけではない。ライオネルの性格はアレンに関することを除けばいたって素直なのだ。ありがたいと思えば感謝を伝えるし、自分が悪いことをしたと思えば人前であっても謝罪する。

 まあ色々とこじれてしまった結果、その素直さがアレンに発揮されることはないのではあるが。


 ゆっくりと森の中を歩きつつ、周囲を確認して薬草の生えている場所をアレンが記憶していく。

 別に依頼ではないためいつ採取しても別にギデオンは文句を言ったりはしないのだが、喜ばれるのは採取してからあまり時間が経っていないものということをアレンは把握している。ライオネルとのことがどの程度時間がかかるのかわからないので後で採取しようと考えたのだ。


「やっぱ森の浅い場所は少ないな。村人も採取に来てるだろうし、もうちょっと奥を探すか」


 そんなことを呟きながら集合予定場所から少し奥へと向かって進み、アレンは薬草を探していく。

 ときおりパキッと枝を踏んだような小さな音が響き、そのことに苦笑いしつつもアレンは捜索を続けた。


 そしてある程度の目星をつけた段階で集合場所付近へとアレンは戻った。

 そこにはまだライオネルたちの姿はなく、本当にここで大丈夫なんだよなと少し不安に思いつつも、アレンはその背を木に預けてしばらく待つことにした。


 そして十数分後……


「やっと来たか」


 小さく聞こえてきた足音や話し声にアレンが大きく息を吐き、そして腰を下ろしてその場にあった薬草の採取を始める。

 外見上、ただ薬草を採取しているだけに見えるアレンであったが、その内心は平常ではなかった。


 なにせ長い間こじれてしまっていたライオネルとの関係が変わるかもしれないのだ。

 アレン自身が望んでそうなった訳でもなく、変えられるものなら変えたいが仕方ないと諦めていたことが変わるかもしれない。

 そう考えるとどうしてもアレンの心はざわめき立ってしまった。


 薬草採取をしつつ何度か深呼吸を繰り返してアレンが心を落ち着けていると、徐々に近づいてきた足音がピタリと止まる。

 ライオネルがアレンを見つけたことは明らかだ。

 しばらく声をかけられるのを待っていたアレンだったのだが、いつまでたってもそれがないことに痺れを切らし、立ち上がって足音の聞こえてきた方を向いた。


 そこにはライオネルがなんとも言えない表情をしながら立っていた。

 ライオネルの背後には剣士のナジームと斥候兼弓士のピートが心配そうな顔をしながらライオネルの背中を見つめている。

 アレンとライオネルの間に気まずい沈黙がおりた。


(いや、なんか言えよ)


 内心でそんなことを思いながらアレンは頬がひきつりそうになるのを我慢していた。

 自分から声をかけようかとも思ったのだが、考えてみればこの数年間アレンが自分からライオネルに声をかけたことなどなかった。絡んでくるのはライオネルからばかりだったからだ。


 なんと声をかけるべきか? よう、とかだと軽すぎるし、どうしたんだ? っていうのも今後の展開を知っていると悟られるんじゃあなどと余計な事ばかりがアレンの頭の中には浮かんでしまっていた。


 そのまま時が過ぎ、もういっそのこと逃げちまっても良いんじゃねえかと現実逃避気味に考え始めたころ、後ろで2人の様子を窺っていたピートが我慢しきれなくなったのかアレンに声をかけてきた。


「やあ、アレン。ギデオンさんへの薬草採取かい?」

「ああ。そっちは3人でどうしたんだ?」

「訓練を兼ねて森の探索かな。普段ダンジョンばかりに入っているからたまにはこういう自然の森で訓練しないとこっちの腕が鈍るからね」


 自然な感じでアレンに返事をしながら、ライオネルに見えないようにピートが肘をナジームの脇へと突き刺す。

 心配そうにライオネルの様子を見ていたナジームがその痛みに少しだけ顔をしかめ、そしてなんでもない風を装いながら口を開いた。


「ライラック側にダンジョンがあっただろ。カミアノールが見つけてくれたから大事にはならなかったが、下手をすれば護衛任務に支障が出ていたかもしれねえからな。その反省の意味も込めてってやつだ」

「事前情報がない状態じゃあ仕方ないと思うけどな」


 アレンのフォローの言葉に、ナジームがちらっと視線をライオネルに送る。それだけで、このことを言い出したのはライオネルだとアレンは察した。


 ギデオンから準備資金を十分すぎるほどもらっていたアレンは、旅の前に冒険者ギルド、商人ギルドを回り集められるだけの情報を集めていた。

 それなのにモンスターの襲撃が増えているなどという情報は全くなかったのだ。はっきり言って未発見のダンジョンがあるなど想定のしようがない。


 そんなことを考えたアレンはふと違和感を覚えたが、それが判明する前にパンと手を打ち鳴らしたピートに気をもっていかれる。


「そうだ、アレン。一緒に探索をしてみないか。せっかく一緒の依頼を受けたんだし最初の斥候の師匠と久しぶりに探索するのもいいだろ?」

「斥候の師匠って……そこまで大したこと教えてねえだろ」


 ピートの提案を受け、アレンがちらりとライオネルに視線をやる。ここまで一言も発していないライオネルは、色々な感情が混じったなんともいえない表情のままアレンを見つめ続けていた。

 そのことに心の中で嘆息しつつ、明確に反対しているわけではなさそうだと判断したアレンは軽く頭をかきながら小さくうなずいた。


「俺も一応護衛だからな。しかも俺は向こうで森に入っていたのにダンジョンのことを見逃したし。わかった、反省の意味でも少しだけ付き合うわ」

「ならさっそく行こう。どちらが早くモンスターを見つけるか競争でもするかい?」

「やらねえよ。そもそも俺は斥候専門じゃねえっての」


 少しだけ挑発するようなピートの言葉を、アレンがすげなく一蹴する。

 そしてアレンとピートが斥候として索敵と先導を行い、それにライオネルとナジームが続くというなんとも奇妙な組み合わせの森の探索が始まったのだった。





 そして数時間後……


「おい、どうなってんだよ。っていうかいつまでこれ続けるんだよ」

「うーん、ここまでライがこじらせてるとは僕も予想外だね」


 もうすぐ昼になりそうな時間になったのにもかかわらず、アレンはライオネルから感謝を伝えられていなかった。それどころか一言の言葉さえかけられていなかったのだ。

 本当ならば森の浅い部分を適度に歩き回るくらいの探索の予定だったのだが、特にモンスターなども見当たらなかったため、アレンたちはずいぶんと奥の方まで来てしまっていた。


 ライオネルとナジームから見えない程度の距離まで先行する形をとり、アレンが小さな声でピートに問い詰めるが、それに対してピートは苦笑いを浮かべて返すしかできなかった。


 ピートの想定では、この時間にはライオネルが感謝を伝えて完全ではないが関係が修復しており、アレンが作った昼食でも食べながら昔話に花を咲かせることでそれを加速させているはずだったのだ。

 しかしそれは最初の一歩の段階でつまずいてしまっていた。


「なんか気まずいし、帰りたくなってきたんだが」

「いや、ライのためにもうちょっと頼むよ。マチルダさんの好きな花とかデザインの情報を教えるから」

「ぐっ、なんでそんなことを知ってるのか……ってこういう時のためか。相変わらず黒いなお前」

「有効だからね。まさかアレンがマチルダさんと本当に付き合うとは……」


 そこまで言ってアレンに口を塞がれて言葉を止められたピートは、からかわれて照れているんだろうと顔をにやつかせてアレンを見た。

 しかしアレンの表情は先ほどまでの気楽な雰囲気とは全く違い、真剣な瞳をある方へと向けていた。ピートはすぐさま意識を切り替え、アレンの視線の先を探る。


 ピートにはまだなにも見えていなかった。しかし『ライオネル』の斥候として長く冒険者をしてきたピートには、アレンが示した先に確かになにかがあることを察した。


 アレンの手を口から外したピートが無言のまま、手でなにかがあるであろう方向を指差し、それを続けて背後へと向ける。

 それにアレンが無言のままうなずき返した。


 アレンがその場に残り監視を続ける中、ピートが静かに後ろへと下がっていきライオネルとナジームと合流して情報の共有を図る。

 とは言え、なにかがあるかもしれないというあいまいなものではあったが。


 足音を殺しながら近づいてきた3人へとアレンが自分を指差し、そして先へと向ける仕草で確認を取り、3人がうなずいた様子を見てから慎重に歩き始めた。そしてその後に3人が続いていく。

 しばらく歩き、そしてアレンが2メートルほどの高さのある大岩の陰に身を潜め、うつぶせになりながら少しだけ顔を出し、すぐに引っ込めた。


 アレンに続いて大岩の陰にたどり着いていたライオネルたちに見つめられながら、アレンはしばし考えた。自分の見た異様な光景をどう伝えるべきかを。


 ダンジョンこそないものの、数十名の冒険者らしき者たちに囲まれたゴブリンの集落という、つい先日見たのと同じようなその姿を。

 アレンが黙考したのはほんの数秒だった。しかしそれは事態が変わるには十分すぎる時間だった。


「んぐっ、んっ……助けてー!!」


 絹を裂くような女の悲鳴に即座に反応したのはライオネルだった。躊躇なく剣を引き抜き大岩から飛び出していく。


「この馬鹿っ!」


 それを追うようにアレンも飛び出し、そして集落の半ばほどのところに、紐で縛られて身動きがとれないようにされ、半ばとれてはいるがさるぐつわまでされた美しい女性がゴブリンたちに運ばれている姿を見つける。


 異様なのは、周囲の冒険者らしき者たちがそれを見ているのに全く止めようとしていないことだった。

 明らかに普通の冒険者ではない。それは誰の目から見ても明らかだった。


「どけっ!」


 ライオネルが目の前に立ちふさがった男へと剣を振るう。その剣は鋭く、普通の者であれば避けようはずがないほどの速度であったのにもかかわらず、その男は傷を負い、完全ではないもののそれを避けてみせた。


 ライオネルも道を開けさせるのが目的であったため、深追いはせずに女性のもとへと真っ直ぐに走っていく。

 道中でゴブリンたちを切り倒しながら。


 無防備な背中を見せるライオネルに、先ほど攻撃を避けた男がニヤリと笑いながら抜き放ったナイフを向けた。

 その刃は薄く緑に染まっており、それがただのナイフであるはずがなかった。


「させねえよ!」


 ライオネルへと意識を向け、背後がおろそかになっていた男の背中を通り抜けざまにアレンが蹴りつける。

 オークぐらいであれば身動きの取れないくらいの威力で蹴りつけたのにもかかわらず、地面を転がった男が起き上がろうとするのを察し、これは本格的にまずいとアレンが悟る。


 アレンがフォローするライオネルはともかく、残ったナジームとピートを放置すれば最悪の事態になりかねない。

 そう考えたアレンは、即座に決断する。


「イセリア、いるのはわかってる。ナジームたちをフォローしろ! つけたのはそれでチャラにしてやる!」


 そう叫んだアレンは、その返事を聞くどころか背後を振り向くことすらなく、ライオネルの後を追って走り続けた。

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