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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第三章 悩める冒険者の万能生活
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第12話 新たな同行者

 マシューの話を聞きながら進む中で、アレンの危惧のとおり数体のゴブリンによる襲撃があった。

 しかしそれらはすぐに『ライオネル』の面々によって対処され、結局アレンは戦うことなく昼の休憩地点へとたどり着いていた。


 ドゥル山脈の所々にはある程度の広さを持った休憩用の場所が整備されており、今アレンたちがいるのもその1つだった。


「私までご相伴にあずかってしまってすみません」

「気にするなって。家族の世話で大変そうだと前から思っていたんだ。むしろ職業的なことで本当はダメとかあるのか?」

「2名以上で御者を務めるときはそれぞれ別の物を食べるようにということは推奨されていますね」


 アレンが作った昼食のスープをマシューのためによそって渡す。それを受け取りながらマシューがアレンの質問ににこやかに答えた。


 これまでの旅路においてマシューは休憩時間ごとに馬の世話を行っており、そして昼食も馬のそばで一緒になにかを食べていた。

 調理などをしている様子はなかったため、なにかしらの携帯食料であることは明らかであったのだが、アレン自身、自分たちがちゃんと調理したものを食べているのにと気にはなっていたのだ。


 それでも声をかけなかったのはマシュー自身がそれを気にした様子もなく、そしてなにより職業上、依頼主と同じものを食べないなどの決まりがあるのではと考えていたからだ。

 馬たちの話を聞いてある程度交流を持つことができたため、アレンがだめもとで昼食を作ろうかと提案してみると普通に喜ばれたので、アレン自身少し驚いたくらいだった。


「ありがとうございます。では」

「おう。家族によろしくな」

「うらやましがられそうですね。さすがにあげられませんけれど」


 ニッと笑みを浮かべ、マシューは受け取った食事をもって馬たちのもとへと戻っていった。

 それを見送り、アレンも自身の器へとスープをよそうとギデオンとイセリアが食事をとっている簡素なテーブルと椅子へと向かう。


「先にいただいておるぞ」

「毎回、食べるばかりですみません」

「いや、気にすんな。誰しも得意、不得意はあるもんだからな。お茶を淹れるのはイセリアも得意だろ」


 横並びになって座っていた2人の対面へとアレンは腰をおろし、そんなことを話しながら自分の食事を始める。


 出発前にふもとの村で新鮮な野菜などを仕入れたばかりなので、アレンが作った食事は街で食べるようなものとそん色のない出来だった。

 仕入れができない期間が長く続くと日持ちのするものばかりのメニューになってしまうので作れる料理の選択肢も狭くなってしまうのだが、今のところ今回の旅路ではそんなことにはなっていなかった。


 3人が軽い会話を交わしつつ食事に舌鼓をうち、そしてそのほとんどを食べ終えた頃、ギデオンがふと視線を上げて別の方向を見つめた。その視線を追ってアレンもそちらを眺める。

 そこでは『ライオネル』の面々が3人は警戒、残りの2人が食事といったように役割をわけて動いている姿があった。


「ふむ、やはり冒険者も色々じゃな。儂がライラックに来る時に雇った冒険者はここまで警戒はしておらんかった。食事も同じものを食べておったしな」

「そうなのですか?」

「あー、確かに冒険者によるところはあるな。まあ警戒しているのはこの辺りはモンスターなんかに襲撃される可能性が高いってこともあるんだろうが。まあ俺もそこまで詳しいわけじゃねえけど、ダンジョンでも食事する奴と警戒する奴は分けるのが鉄則だろ」

「ああ、そういえばそうですね」


 アレンの言葉にイセリアが素直に納得する。

 実際、このことはイセリアに冒険者としての心構えを教えるとなった初期の頃にアレンが伝えたことだった。


 食事を取るときはどうしても気が緩みやすいため、パーティを組んでいるのであれば全員が一緒に食べるなど言語道断。

 いつモンスターの襲撃があったとしても対処できるようにするというのがダンジョン探索をする冒険者としての鉄則なのだ。


 他にも食事関連に関しては、かなり細かくアレンはイセリアに教えていた。実際にそれ関係で失敗した経験がアレンにもあったし、特に見目麗しい女性であるイセリアには別の意味での危険もあると簡単に予想がついたからだ。

 なにも敵はモンスターばかりとは限らないのだから。


「食事を一緒にしないってのは護衛としてのプロ意識だろうな。というかパーティ内でも食事を分けているようだし」

「それは気づきませんでした。つまり食事にあたって一部が動けなくなったとしても、誰かは動けるようにということですか」

「ふむ、さすが一流の冒険者ということかのぅ」


 感心した目で『ライオネル』を見つめるイセリアとギデオンの姿に、アレンが小さく微笑む。

 一応アレンも旅が始まったその日に、食事についてこちらで用意するか『ライオネル』に聞いてみていた。

 作る手間としては大差ないし、材料費もギデオンからもらっているので全員分を作ったとしてもアレンとしては良かったからだ。


 もちろん現状からわかるとおり断られたわけだが、それが『ライオネル』の護衛としての覚悟からくるものだとアレンもわかっていたのでそれ以降は食事についてなにか言うことはなかった。





 そして食事も終わり、そろそろ出発というころにそれは起こった。


「誰だ!?」


 ライオネルから飛んだ鋭い誰何の声に、馬車に乗り込もうとしていたギデオンがビクッとしながら振り向く。

 アレン自身は少し前から何かが近づいてきている音に気づいており、その音が単独で規則正しいものであったことからもそこまで危険なことではないだろうと予想しつつも、一応馬車をカバーできる位置で待機していた。


「攻撃はしないでもらえるか。少し用があって森に入っていただけだ。そちらへと危害を加えるつもりはない」


 まだ森の中におり姿は見えなかったが、その声に聞き覚えがあったアレンが警戒を続けているライオネルへと声をかける。


「ライオネル。今の声はおそらく『流れ雲』のカールだ。警戒は緩めなくても良いが、下手に攻撃すんなよ」

「なぜそんなことをお前が知っている?」

「昨日、薬草採取の途中で偶然会ったんだよ。ギルド証も確認した」

「あぁ、アレン、だったか。君がいてくれて助かったよ。さて、出ていってもいいか?」


 相手がアレンの名前を知っていたことで、ある程度は信頼したのかライオネルが出てきてもいいと許可する。

 しかしその手は自らの腰にさげられた剣のそばへと置かれており、その警戒態勢が解かれていないことは明白だった。


 草や木の葉を踏む音が近づき、そして木々の間からエルフの男が姿を現す。

 まるで芸術品のように完成された美貌を持つその男はカミアノールに間違いなかった。


 チラッと視線を送ってきたライオネルに、アレンがうなずいて返す。ライオネルの手が腰から離れ自然な状態へと戻った。

 かなり離れた位置で止まり、カミアノールがアレンたちを見回す。


「警戒させてしまったようですまない。先ほどアレンが言ったように、わたしはミスリル級冒険者のカミアノールだ。『流れ雲』とも呼ばれているが」

「金級冒険者のライオネルです。あなたのご高名はかねがね。3つの未発見ダンジョンを見つけたと聞いています」


 礼儀正しくライオネルが応答するのを見て、アレンが感心する。

 だいたいアレンと会うときには、ライオネルは突っかかってくるばかりでその口調も荒く昔のままだった。

 しかし今、しっかりと上位の者を立てるような口調で話している姿を見ると、アレンの知らないところでそういった経験を積んできたことがよくわかった。


「つい昨日4つ目を見つけたから、それは正確じゃないな」

「昨日!?」


 肩をすくめながらそう言ったカミアノールの言葉に、『ライオネル』の面々がざわつく。

 その言葉が示しているのはこの付近にそのダンジョンがあるということに他ならないからだ。そんな『ライオネル』たちの反応を見てカミアノールは笑っている。


 アレンとしてはこの展開は予想済みだったので、あらかじめ驚く用意はしており自然な感じでリアクションができていた。

 カミアノールは昨日アレンがゴブリンを一掃したダンジョンのことを秘匿することなく報告するだろうと考えていたからだ。


「あんたが追っていたゴブリンはそのダンジョンから出てきていたってことか?」

「そうだね。拠点もできていたから、ついでに知り合いと一緒に潰しておいたよ。ただ、はぐれが出るかもしれないから注意はした方が良いだろう」

「忠告はありがたいが既に何度か襲撃を受けてるな。『ライオネル』が対応してくれたから俺はなにもしてねえけど。しかし予想よりゴブリンの襲撃が多いのはそのせいだったんだな」



 ライオネルたちにマシューが呼ばれ、警戒する2人を残して他の全員で今後の旅程をどうするかが話し合われる中、声をかけられなかったアレンがカミアノールへと話しかける。


 アレンとしては、去った後にどうなったのかが気になっていたのだ。ここにカミアノールがいることから考えてエルフ側が制圧したのだろうということはわかった。

 しかしあの冒険者らしき者たちがどうなったのかについては闇の中だ。

 もちろんその場にいなかったアレンとしてそのことを聞くことなどできるはずがなかった。


「ゴブリンが出るということはライラックの鬼人のダンジョンのような場所ということでしょうか?」

「そうだな。可能性としてはその通りだろう。君は……」

「あぁ、俺の鉄級昇格の試験官である金級冒険者イセリアだ。で、そっちのじいさんが依頼人のギデオンだな」

「じいさんは余計じゃわい!」

「いや、見た目じいさんじゃねえか。自分でも儂とか言ってるし」


 アレンの紹介にカミアノールへ微笑むイセリアと、ふんっとアレンから顔を背けて不機嫌そうに見つめるギデオンを数秒見つめ、そして胸に手を当てて気取った仕草をしながらカミアノールが少し頭を下げた。


「ウェルダナムカ大樹林のエルフ、カミアノールと申します」

「さっきとか俺の時とかとずいぶん態度が違うようだが……」

「美しい女性に対する礼儀だ」

「いや、なんというかそこまではっきり言われると逆にすげえと思うわ」


 まるで天使のような微笑をイセリアに向け、そしてアレンの突っ込みにきっぱりとそう言いきったカミアノールにアレンが苦笑いする。

 美しいと言われたイセリアもまんざらではないようでその表情を緩めていた。

 まあ、ほぼ全員が美男美女であるエルフに美しいなんて言われればそうなるわな、と思いつつアレンは警告をイセリアにしておく。


「イセリア。こいつあらゆるところで色んな女を引っ掛ける奴って噂だから、それだけは知っておけよ」

「それは誤解だ。既婚者や恋人がいる者などには手を出したことはない。なぜなら既婚者が独身だと嘘をついていたことがあってね。一度それで殺されそうになってからそこはしっかりと調べているんだ。それに強引に私から迫ったことも一度もないよ」

「それってそれ以外の相手から迫られれば拒まないってことですよね」

「儂の知り合いのエルフとは大違いじゃな。奴は研究一筋じゃったぞ」


 呆れた目をするイセリアとギデオンに突っ込まれながらも、カミアノールは気にした様子もなく、口の端を上げて肩をすくめるだけでそれに応えた。

 そしてカミアノールはアレンの方を向いて腕を組みながらしばらく考えるような仕草をし、そして一度首を縦に振って笑みを浮かべた。


「よし。山越えの間、護衛につこう。アレンへの恩返しにもなりそうだしな」

「はぁ!?」

「なに、気にするな。それなりの実力はあるつもりだし、金も不要だ。どちらにせよ私も辺境伯にダンジョンのことについて報告するつもりだから大して大回りにもならないしな。ギデオン殿、それでもいいか?」

「儂としてはどちらでも構わん。護衛をしているのは『ライオネル』じゃから許可をもらうなら聞いてくるといい」

「わかった」


 ギデオンの回答を聞き、くるりと背を向けてカミアノールが話し合っている『ライオネル』とマシューのもとへとゆうゆうと向かっていく。

 その表情は、断られることなど全く考えていないような余裕のあるものだった。


 そして残された3人の中で、ぽつりとアレンが呟く。


「いや、じいさん。俺も護衛なんだが」

「あぁ、すまん。すっかり忘れとった」

「だと思った」


 ギデオンらしいその言葉にアレンは一度大きくため息を吐き、ギデオンとイセリアを中へと促して周囲の警戒を始めた。

 ギデオンがどちらでも良いと言ったので、カミアノールが断られることはまずないだろうな、とそんなことを考えながら。

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