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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第一章 雑用ギルド職員の万能生活
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第7話 鬼人のダンジョン探索

 鬼人のダンジョンはその名のとおりゴブリンやオーガなどの一般的に鬼人とも呼ばれる角の生えた人型のモンスターばかりが出てくるダンジョンである。

 人型であるところからも察せられるかもしれないが、鬼人は他のモンスターに比べて知恵が回るモンスターだ。倒した冒険者から奪った武器を使ったり、集団で待ち伏せをしたりするなかなか厄介なモンスターばかりが生息するのがこのダンジョンの特徴だった。


 そういったわけもあり、このダンジョンに挑むのであれば少なくとも数人でパーティを組むことが望ましいのだが、絶賛正体を隠している最中のアレンにそんなことが出来ようはずもない。

 しかしアレンの目的は自分の力を確かめることであるので、そういった相手に対してどこまで自分の力が通用するのかと逆に楽しみにしていた。


 洞窟のような土がむき出しの通路が続く一階層で、さっそく襲ってきたゴブリンの集団に向けてアレンは小さくしたファイヤーボールを同時に発射させ、その脳天を貫いて倒していく。


「低い階層は今まででも倒せたんだし、さっさと下の階層へ行くか」


 ぶつくさとそんなことを呟きながら地図と記憶を頼りに下へ向かう階段を目指して進んでいく。

 アレン自身、この鬼人のダンジョンに入るのは初めてではない。むしろソロでダンジョンに行くという時はこのダンジョンへ来ることが多かった。

 本音ではライラックの街の一番人気のダンジョンに行きたかったのだが、アレンのステータスのことを知っている冒険者に絡まれることが多々あったため避けていたのだ。


 という訳でアレンはあっさりと十階層まで最短経路を進んでいった。

 道中ではホブゴブリンやレッサーオーガなども出てきたが、アレンが意識的に威力を抑えたファイヤーボールやストーンボールでも当然一撃で倒せてしまっていた。

 そんなモンスターでは腕試しにさえならないのは明白だ。


「よし、そろそろ真面目に戦っていくか。どれだけ強くなったのか試してみたいしな」


 アレンはそう言うと今までのように小走りではなく慎重に歩いて探索を始める。


 鬼人のダンジョンは十階層からガラリと攻略のレベルが変わることで有名だった。

 九階層までで調子に乗った冒険者たちを容赦なく叩きのめしていく。それが鬼人のダンジョンの十階層だ。別名、初心者卒業試験のフロアと呼ばれているほどにその世界は違っていた。

 その所以は……


「ウガァァア!!」

「おっ、来た来た」


 アレンが進む通路の先からやってきたのは、身長二メートルほどで筋骨隆々の緑色の体躯をしたモンスター、いわゆるオーガだ。

 その迫力に初めてここに来た時は圧倒されたな、と懐かしく思い出しながらアレンはオーガが近づいてくるのを待っていた。

 しかし……


「やっぱり遅いな。オーガじゃこの程度か」


 半ば予想はついていたとはいえ、その通りの状況にアレンは落胆する。

 普段の気を抜いているときには気にならないのだが、こと戦闘などで集中している時には今までよりも数倍遅く敵の動きを感じるようになっていたからだ。

 むしろ遅すぎてどういう状況ならこの攻撃に当たってしまうのか、そんなことを考えてしまうほどの余裕がアレンにはあった。


 まるでわざとゆっくりと動いているかのようなオーガの突進をひょいっとかわし、そのがら空きの後頭部へと拳を振り下ろす。

 その瞬間オーガは地面に縫い付けられたかのように顔面を床へとめり込ませ、そしてピクリとも動かなくなってしまった。


「うわっ、この程度で一撃かよ。オーガはもうちょっと弱くか~。変装せずに人前で戦う時はかなり加減した方が良さそうだな。よし、次だ、次」


 アレンは出会う端からオーガを蹂躙していく。オーガから採れる魔石や素材はもちろんあり、それなりの値段になるのだが解体する方が面倒なのでそのまま放置していった。

 そんな時間があるのだったらもっと自分の力を試してみたいとアレン自身思っていたし、その他にもいくつかの理由から放置した方が良いだろうと前々から決めていたからだ。


 続けて数体のモンスターを相手にし、十階層では意味がないと悟ったアレンはより強い敵を求めて本人にとっては小走りで、他の冒険者からしたら全力疾走よりも速くどんどん下の階層へと潜っていった。





 鬼人のダンジョンは地下三十層まである。そしてアレンが来たことがあるのは二十四階層までだった。

 もちろんアレン一人で来たわけではなく、パーティを組んで、しかも戦闘要員としてではなく運搬人として来たことのある最も深い階層が二十四階層なのだ。

 二十五階層以降は一流と呼ばれる冒険者でも危険を伴う場所であり、以前のアレンに行くことが出来るような生半可な場所ではなかった。


「うーん、どうするかな。さすがにいきなりはまずい気がするが。しかし今までの感じからして問題無さそうでもあるんだよな」


 その二十五階層へと続く階段を見つめながら座り、もしゃもしゃと、まずいが栄養満点で持ち運びも簡単なスティック状の携帯食料をアレンは顔をしかめながら食べていた。

 当初の予定ではおよそ二日かけて鬼人のダンジョンの二十階層辺りまで単独で探索してみようと考えていたのだが、思いのほか敵が弱すぎて半日程度でここまで来てしまったのだ。


 ずっとモンスターと戦ったり、小走りで移動してきたわりにはアレンは疲れたという感じがまるでしなかった。

 戦いで興奮すると疲れを感じにくくなるということはアレン自身経験があるのでもちろん知っている。しかし今までの階層でははっきり言って興奮するようなことも無かったので、本当に疲れていないのだろうとアレンは判断した。


 立ち上がり、そして食べかすを落とすかのように手をパンパンと払ったアレンが小さくうなずく。


「よし、疲れも無いし眠くもない。とりあえず少し入ってみて危なさそうならちょっと色々考えてみよう」


 そう自分自身に言い聞かせるように呟くと口に残っていた携帯食料のカスを水で流し込み、アレンは二十五階層へと続く階段を降りていったのだった。





 二十五階層以降の鬼人のダンジョンは大きく様相を変える。今までの洞窟のような姿から煉瓦で作られた通路に変わり、そしてその通路の高さは十メートルを超えるのだ。

 今までとのあまりの違いに、まるで自分の方が小さくなってしまったかのような違和感を覚えながらも、アレンはその初めて見る光景に圧倒されていた。


「本当にギルドの資料通りなんだな。ということは出てくるモンスターも……」


 アレンが続けようとした言葉がドシン、ドシンという床を揺らす震動によって止まる。

 その震動が近づくにつれ、それ以外にガガガガという何かを引きずるような音も聞こえてきた。アレンは少し緊張しながら、その足音の主が近づいてくるのを待つ。


 しばらくしてアレンの前方三十メートルほどの曲がり角から姿を現したのは、体長四メートルを超える一つ目の巨人、サイクロプスであった。


「ははっ、マジででかいな」


 人間では考えられないほどの巨体を見上げながらアレンが呟く。その呟きが聞こえたのかは定かではないが、サイクロプスはその一つ目をぎょろりとアレンの方へと向けた。

 そしてアレン程度ならば丸呑みできそうなほど口を大きく開け、そのとがった牙をサイクロプスが見せつける。

 その大きな目は獲物を見つけた喜びに満ち溢れていた。


 ダンっという音と共にサイクロプスが、引きずっていた三メートルはあろうかという木の幹のような太さの棍棒を振りかぶりながらアレンへと迫る。

 その迫力はアレンが今まで見たどのモンスターをも上回っていた。


「うおぉ、ファイヤーボール!」


 思わず全力でアレンはファイヤーボールを唱えた。一メートルほどの火の玉がアレンの眼前に現れると、ヒュゴっという音を残してサイクロプスへと飛んでいき、そしてその半身を黒こげにして背後の壁へとぶつかっていく。


 サイクロプスは自身に起きたことが理解できないように半分になってしまった胴体を見るとそのまま瞳を反転させ崩れ落ちた。

 持っていた巨大な棍棒が床で跳ね、カンッという金属音に近い高い音を鳴らし転がっていく。


「はっ?」


 あっけなさすぎる幕切れにアレンが自身の目を疑う。しかし目の前に広がる光景が変わるはずもない。

 一応警戒してアレンは足でサイクロプスを軽く蹴ってみたが動く様子は全くなかった。


「マジでか」


 アレンの冒険者としての知識では、サイクロプスは単体でもレベル200を超える一流の冒険者たちが協力して相手をする必要がある強敵という認識だった。しかしふたを開けてみればファイヤーボール一発で倒せてしまう程度の敵でしかなかったのだ。

 自身の常識がガラガラと音を立てながら崩れていくのをアレンは感じていた。


「いや、今のはとっさに全力で撃っちまったからだよな。さすがにそんな弱いわけがない」


 なぜか自分自身に言い訳をしつつ、アレンはこの階層に出没するサイクロプスを相手していったのだが、それは結局、自身の常識がまるで変わってしまったことを証明する結果になるだけだった。

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― 新着の感想 ―
なんで一般冒険者でいう1000レベルに匹敵する値になってんのに苦戦すると思うんだ?足踏んだら勝てるやろ
[一言] これはレベル500の人間が巷に溢れるほど一般的な存在になるまでずっと潜伏かな〜本来レベル上げで乗り越える障害がないから、特にカタルシスもなくて停滞するな
[気になる点] ギルド辞めて他の街へ行けば良いだけなんだけど、なんでバレないための練習してるんだろ? そういう設定だから仕方ないけど気になるのも仕方ないよね
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