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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第二章 ベテラン木級冒険者の万能生活
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第20話 レベッカとの夕食

 『ライオネル』の面々が無事帰ってきた事を確認できたアレンは足取り軽く自宅への道を歩いていた。

 一応最悪のケースとして、誰かが欠けているということもアレンは考えていたのだ。


 大岩に穴を開けたと思われるパーシーと出入り口でブルファングの進入を防いでいた近接系のライオネルかナジームどちらかは確実に生きているだろうとはアレンはわかっていた。

 しかしそれ以外の者についての生死は外からでは判断できなかったのだ。


 心配する気持ちはあるのにアレンが直接助けに行かなかったのは、正体がバレたくないということもあったが、一番の理由はアレンが行ったとしても意味がないからだった。


 アレンの回復手段としては基本的にポーションなどのアイテムしかない。それであれば、『ライオネル』もアレンより質の良い物を、毎回十分な量準備したうえでダンジョンに入っていることをアレンは知っていたし、神官のトリンがいれば神の奇跡による回復という方法もある。


 つまりアレンに出来る事など全くなかった。だからこそアレンは十分な量のブルファングを間引きするだけで止めて9階層へと向かったのだ。


 そういった事情もあり、気になっていた事がすっきりと解決したためアレンは上機嫌だった。

 そして自宅へとたどり着き、いつも通りにドアを開ける。


「あっ、レン兄おかえり。お腹空いたよー」

「……」


 テーブルにだらーんと体を預けながら、そう出迎えの声をかけてきたレベッカを見てアレンがしばし固まる。

 そしてアレンは頬を上げて目を細め、柔らかく微笑んだ。


「おう、ただいま。ちょっと待ってろ、今からうまい飯を食わせてやるから」


 料理の材料を抱えたアレンがキッチンへと向かって歩いていく。

 自分を迎えてくれる久しぶりに聞いた「おかえり」という言葉に、懐かしさと湧き上がってくる嬉しさを噛み締めながら。





「本当に料理がうまくなったよね、レン兄」

「おう、ギルド職員の時代にかなり時間に余裕が出来たからな。色々とやってみたんだ」

「あー、レン兄ってもともと小器用だもんね。うぅ、美味しかったけどお腹が重い」

「小器用って褒められてるのか、けなされてるのか、微妙な感じだな」


 アレンの作った歓迎用の料理を全く残すことなくぺろりと平らげたレベッカは、丸くなったお腹のせいで満足に動けなくなっていた。

 そんなレベッカの様子をアレンは笑いながら眺め、その片手間に食器などの片づけをしている。


「小器用は褒め言葉だよ。特に行商人として色々と巡っていると、ここにレン兄がいたら楽だったろうなーって思うこと多いもん」

「へー、やっぱ行商人は大変か?」

「まあね。行商中はモンスターや盗賊に襲われる可能性があるし、野営することも多いからその時は粗食になるし。街の中でも人との繋がりを作るために色々と努力と工夫をしないといけないし、なによりそこで情報収集を怠ると商品が全く売れなかったりするんだよ。別の行商人が直前に通ったルートを知らずに行っちゃった時は悲惨だったなぁ」


 遠い目をしだしたレベッカの様子に、その時は本気でヤバかったんだろうなとアレンが苦笑する。


 現状、無事で元気だし、苦い記憶ではあるのだろうがレベッカにとっても良い経験になったのだろうとアレンは考えていた。

 冒険者たちも自分の失敗や苦労話を笑い話として話すのが好きな者が多い。それと似たようなものだろうと思ったのだ。


 それはそうと、ちょうど話題が出たのでアレンは一番気になっていることを聞くことに決めた。


「で、モンスターとか盗賊とかの対策は大丈夫なのか?」

「うん。街でちゃんと情報を収集しているし、基本私は何人かでキャラバンを組んでいるから。キャラバンで雇う冒険者を見る目も自信があるよ。昔からレン兄見てたしね」

「役に立ったようで光栄だ」

「まあ、固定で私たちについてくれているパーティがいるってのも大きいんだけどね」


 ぺろっと舌を出して本当の理由をバラして笑うレベッカにアレンが笑い返す。


 街や村などを巡る行商人はリスクの高い仕事だ。先ほどレベッカ自身が言ったようにモンスターや盗賊に襲われるといった危険があるのはもちろんだが、下手な冒険者に当たった場合、その者に襲われる可能性さえあるのだ。

 特にレベッカのように若い女性の行商人は珍しい。金銭目的以外の理由で襲われる可能性もないとは言えなかった。


 だからこそレベッカの言った固定パーティがいるということにアレンは安堵していた。

 レベッカの話す様子から、その冒険者たちが信頼の置ける者であることは疑いようがない。アレンのように決まった街を拠点とする冒険者が多い中、行商人について巡ってくれる信頼の置ける冒険者と交誼を結ぶなどなかなかに出来る事ではないのだ。


 一度礼を言っておいても良いかもな、そんな事を考えたアレンだったが、ふとここである考えが浮かぶ。


「なあ、レベッカ。その固定の冒険者って6人パーティで男5人、女1人の銀級だったりしないよな?」

「んっ? なんでそんなことを聞くの?」

「いや、ちょっとな」


 もしかして『ライオネル』をはめようとしたパーティじゃねえだろうな、という不安から聞いてみたのだが、さすがにその理由を口に出すのははばかられた。

 言葉を濁したアレンの様子に首を傾げていたレベッカだったが、まあいいか、と考えたのかしばらくして首を横に振った。


「ううん、違うよ。私たちについてくれているのは『さまよう牙』っていう鉄級のパーティで男女2人ずつだから。というか銀級なんて高すぎて雇えないよ」

「それもそうか。それでその『さまよう牙』って奴らは今どうしてるんだ?」

「私たちが街にいる間はギルドで依頼を受けているみたいだから、今回もそうだと思うよ」

「ふーん、そっか」


 何気なく返事をしたアレンの様子に、さっと顔色を変えたレベッカが慌てて口を開く。


「まさか、レン兄。挨拶に行こうとか考えてないよね?」

「いや、ギルドで会ったら妹がお世話になってます程度の話はしようかと思っていたが」

「ダメだからね!」

「じゃあ観察は?」

「禁止!」


 手をクロスさせて拒否の姿勢をあらわにするレベッカの様子に、少しだけ肩を落としながらアレンがわかったことを示すためにうなずいて返す。


(仕方ねえ。マチルダに情報収集を頼むか。大事な妹を預かってくれているパーティの事だしな)


 自らの手ではなく、人の手を借りるのであればセーフだろうと考えたアレンは、明日にでも頼みに行こうと決意する。


「レン兄、まだなにかしようと考えてるよね?」

「いや、俺はなにもしないぞ」

「ふーん」


 完全に疑いの目を向けてくるレベッカにぶるぶると首を横に振ってアレンは返したが、その疑いが完全に晴れる様子はなかった。


 しばらくレベッカの苦労話などを楽しく聞きつつ、食事の片づけをしていたアレンだったが、レベッカに笑顔で「家計簿を出して」と言われて表情を凍りつかせた。

 ついにこの時が来たかと。


 なるべく自然を心がけ、それでも少しギクシャクしてしまいながらもアレンが用意しておいた家計簿などをレベッカに渡す。

 ぺらぺらとレベッカがそれをめくる音だけが響く部屋の中で、その対面に座ったアレンはその緊張感にごくりと喉を鳴らして待つくらいしか出来なかった。

 しばらくしてレベッカが顔を上げ、アレンを見つめる。


「レン兄」

「はい」

「すごい依頼を受けてるね」

「はぁ?」


 完全に想定外の言葉にアレンが思わず間抜けな声を出してしまう。そしてレベッカが差し出してきた依頼書の控えを見ると、それは今受けている薬草採取の依頼だった。


「これ、日当3万なんだけど」

「ああ、ちょっと特殊な採取方法で結構苦労するんだぞ。依頼主が偏屈なじいさんでな、最初は何度つき返された事か」

「うん、それは大変そうだけどこれ、ちゃんと見て。依頼受注中はずっと日当3万なんだよ。たとえ依頼をこなしてなくても3万入ってくるの。例えば明日私に付き合って1日街を巡るだけでダンジョンに行かなくても3万もらえちゃうんだよ」


 レベッカにそう言われて改めてアレンが依頼書を確認する。確かに薬草採取の条件や場所、そして採取から納品までの時間についてはそこに書かれていたが、それ以外に報酬の支払い条件はなく、1日のノルマのようなものも書かれていなかった。

 読んだ限りではレベッカの解釈が正しいとアレンにも理解できた。


「でも流石にそれはもらえねえわ。仕事もしてねえのに金だけもらうって、それはダメだろ」


 あっさりとそう言い切ったアレンの姿に、レベッカが柔らかく笑う。

 その視線の中にはどこか、仕方ないなぁという我が子に向ける母性のようなものさえ感じられた。


「だよねぇ。レン兄ならそう言うと思った。でもこんな穴のある依頼、商人だったらむしりとれるだけむしりとると思うよ」

「商人、怖っ!」

「お金の大切さを誰より知ってるからね。ありがと、レン兄。家計簿についてはもう少し頑張りましょうって感じで及第点ね。支出がちょっと多くなりがちかな」


 そう言ってアレンが集めていた書類の束をレベッカが返してくる。そしてそのままレベッカは立ち上がるとうーん、と手を上へ上げて背伸びをした。


「じゃ、明日は私に付き合ってね。おやすみ、レン兄」

「さっきのは例え話じゃなかったのか。了解、予定しとく。あっ、ちょっとこの後出かけるから戸締りはしっかりしとけよ」

「うん。もしかして彼女? やっぱりマチルダさん?」

「ばーか、違えよ。腐れ縁って奴だ」


 興味津々といった感じで返してきたレベッカの頭を軽くはたき、頭を押さえてうずくまるレベッカに苦笑しながらアレンが家から出て行く。

 そして日の落ちた薄暗い通りを街の中心へと歩いている途中でアレンは気づいた。


(そういえば、部屋の中の事聞かれなかったな。なんでだ?)


 そんな疑問にアレンは首を傾げ、その理由を考えてみたが結局何も思いつかなかった。

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[一言] 地下室ばれてるのかな?
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