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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第二章 ベテラン木級冒険者の万能生活
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第15話 ライオネル

 岩陰に隠れながらアレンはライラック出身の同年代の者たちで組まれた金級パーティである『ライオネル』の戦いを眺めていた。


「あー、久々に見たけどさすがに安定してんな」


 アレンがそんな感想をもらすくらいに、全く危なげなく『ライオネル』は20階層を進んでいく。


『ライオネル』はリーダーであるライオネルを中心とした5人の冒険者パーティだ。構成としては剣士2名に斥候兼弓士が1名、魔法使い1名に神官が1名という非常にバランスの取れたパーティである。

 特に中級魔法の使える魔法使いがいるので大物狙いも可能で、回復の奇跡を使える神官も入っているため安定した戦いが望めるということが強みだった。


 現在はもっと下の階層へと行く途中であるためか、アラームバードを倒すだけに留めているので斥候兼弓士の男が弓を放っているだけなのだがそれが外れることはなかったし、それ以外の面々もただ歩いているだけではなく、リラックスしながらも周囲の警戒は怠っていなかった。

 少し笑顔を見せつつ会話を交わしている様子からも、その実力の高さはうかがえた。


 はぁー、とため息を吐き、アレンが体を軽く動かしてほぐす。


 実際、『ライオネル』の実力は誰しもが認めるところだったし、アレン自身もそれを認めていた。地元の出身である『ライオネル』のことは、アレンも十分に知っていた。かつては一緒にパーティを組んだことさえあるのだ。

 ある一件があって関係がこじれてしまってからは面倒この上ない存在になってしまったのだが。


「ちゃきちゃき歩いてくんねえかな。さっさと帰りたいんだが」


 そんなことをぼやきながらアレンは隠れていた大岩へと背中を預ける。周囲には身を隠すような場所はここしかないため、見つからないように迂回して避けるという手段をアレンはとれなかったのだ。


 若干イライラしながら監視を続けていたアレンだったが、しばらくしてかすかに聞こえた異音にその方向を見て異常事態に気づいた。

 『ライオネル』の右方向、少し離れた上空に大量のアラームバードが舞い、そして声をあげていたのだ。


 そしてそれに『ライオネル』の面々も気づいたようでにわかに動きがあわただしくなる。

 『ライオネル』全員の視線がそちらへと向かった事を確認し、アレンは隠れていた大岩へと駆け上りその頂上で身を伏せ、その方向を眺めた。


「マジかよ」


 アラームバードの真下では6人組の冒険者パーティが必死の形相で駆けていた。その装備はボロボロであり、無傷のものなど誰もいない。酷い者など、頭から血を流し、顔半分を染めながらもその足を動かし続けていた。

 それもそのはず、足を止めれば後ろで広範囲にうごめく黒い塊に飲み込まれると全員が理解しているからだ。


 その黒い塊はこの階層に出現するモンスターであるブルファングの群れだ。

 ブルファングは3メートル近い体長と1トンを超す巨体を誇る牛型のモンスターであり、頭についている2本の鋭利な角と名前の一部となるほどの長く鋭い牙を使い、冒険者に襲い掛かってくる。

 1体でもそれなりに脅威ではあるのだが、彼らは集団で行動している事が多いため一度戦うとなれば群れ単位で相手取る必要があるという厄介なモンスターだった。


 ただアレンの視線の先に映っているのはもはや群れなどという言葉では言い表せないほどの数であった。

 あえて群れという言葉を使うのであれば大群であろうか。それでさえ現況を表すのには足りないのかもしれなかったが。


 アレンは『ライオネル』へと視線をやった。今逃げているパーティがなにかしらのへまをやらかしたのは明らかだ。

 冒険者はなるべく助け合うということとなっているものの、それは自らの安全が確保できる範囲でという話だ。


 自身に非はなく、そしてこの大群を相手取ればさすがの『ライオネル』でも死ぬ確率が高い現状、彼らが取るべき最良の手段は逃げる事だった。

 非情なようではあるが、それが冒険者として生きる者として正しい判断なのだから。


 しかし、『ライオネル』はそうはしなかった。付近にあった大岩へと駆け寄り、そして大声で逃げる冒険者たちに呼びかけると戦いの準備を始めたのだ。

 その様子にギリッとアレンが歯を鳴らす。


「ちっ、やっぱそうなるかよ。あの馬鹿やろう。昔から全然変わってねえ」


 逃げていた冒険者たちが助かったと言わんばかりの顔で『ライオネル』に向かって走る方向を変え、それを追うようにブルファングの群れも向きを変える。

 その黒い塊が『ライオネル』を飲み込むまであと数十秒といったところだ。


 アレンは立ち上がり、そして大岩から飛び降りた。もう『ライオネル』の面々が関係のないアレンの方向を気にしている余裕などないことは明らかであり、ここで隠れる必要はなくなっていた。


 地面へと着地したアレンは一度大きく息を吐き、そして先頭に立って指示を飛ばしているライオネルの姿を見て少しだけ笑う。


「レベッカの歓迎用の肉も必要だったしちょうど良いか。そのついでに昔の借りを返させてもらうぞ、ライ」


 かつて呼んでいたその名を口にし、アレンは『ライオネル』の面々の視界から外れるように大きく迂回して、ブルファングの大群に向かって突き進んでいったのだった。





『ライオネル』の面々がライラックのダンジョンの20階層へと到達したころに時は少し遡る。


 ライラック出身の冒険者のみで構成されたパーティであり、その中でも唯一の金級冒険者である『ライオネル』にとってライラックのダンジョンはかって知ったる場所だった。


 そもそも冒険者ギルドの依頼のほとんどがこのライラックのダンジョンに関するものであったし、依頼主から地元で実績のある『ライオネル』へ指名依頼される時であってもそれは同様だったからだ。

 もちろん護衛依頼などで街を離れる事など全くない、という訳ではなかったが。


 今回、『ライオネル』が受けた仕事もご多分にもれずライラックの25階層に出現するモンスターを討伐し、その素材を採取する事という依頼だ。

 難易度はなかなかに高く、このライラックのダンジョンに詳しくなければ金級の冒険者の中でもこなせない者も出てくるかもしれないほどの依頼なのだが、そのぶん報酬は並みの依頼よりよほど良かった。


 現在、『ライオネル』が自らの安全を確保した上でこなせる依頼の上限が今回の依頼で行く25階層だった。

 26階層からは明らかに雰囲気が変わり、モンスターの強さも格段に強くなるからだ。


 26層以降であってもパーティで戦えば数体のモンスターと戦う程度の事は可能なのだが、安定して戦えるかと言われればそうではなく、『ライオネル』にとって、それは長年の悩みだった。


「なあライ。今回の報酬が手に入ったら装備を更新して再挑戦するのか?」

「ああ、25階層は安定して狩れるが、レベルアップするためには強いモンスターと戦った方が効率が良いからな。不満か?」

「いや、このパーティのリーダーはお前だ。俺はお前のケツをどこまでも追っていくさ」

「その表現はやめろ。マジで別の意味で受け取る奴がいるんだぞ」


 自分の尻を手で隠し、嫌そうな顔をしたライオネルの姿に、話しかけた剣士の男、ナジームだけでなく周囲の仲間たちからも笑い声が漏れる。

 実際以前に酒場でライオネルが男にナンパされた姿を皆が目撃しているので、こらえきれなかったのだ。


 ライオネルもそんな仲間たちの反応を見ながら柔らかく笑う。

 ひとしきり笑って落ち着いた頃、パーティの真ん中を歩いていた魔法使いの男が真剣な表情でライオネルへと声をかけた。


「階層を上げることには賛成だが、装備を整えるだけではなく私が出したもう1つの提案も検討してくれないか?」

「パーシー」


 その落ち着いた声音から覚悟の意思を感じ取ったライオネルが一瞬だけ眉根を寄せて考える。パーシーの提案がライオネル個人にとっては恩恵のあるものなのだから、揺れる気持ちが全くないと言ってしまえば嘘だった。

 しかしライオネルはすぐにそんな考えを頭から追い出し、首を横へ振った。


「俺だけが特別になっても意味がない。俺達は『ライオネル』。俺たち全員で『ライオネル』なんだ」

「そうか」

「さっすが、リーダーだね、っと!」


 ライオネルの言葉に、パーシーは静かに返し、そしてその後に続いて斥候兼弓士のピートが上空のアラームバードに矢を放ちながら同意する。

 その矢はアラームバードの胴体を正確に貫いてその命を奪った。


 相変わらず良い腕だ、と感心するライオネルに、周囲を警戒していた神官の男、トリンが慌てた様子で声をかけた。


「ライオネル、変です。アラームバードがあんなに密集を……」

「なに?」


 トリンが指し示した方向に全員が視線をやり、そして何人かの口から舌うちが聞こえた。

 目の良いライオネル、ナジーム、ピートの3人には地面にうごめくそれが何であるかはっきりと見えていた。残りの2人も経験上、それが何であるかは察していたが。


「ピート?」

「うん、大量も大量。一面ブルファングの絨毯って感じ。そして残念ながら馬鹿は生きてるよ。ちょっと方向は違うけど、こっちに向かって走ってる」

「生きてんのかよ」


 ピートの報告にナジームが顔をしかめながらライオネルの様子をうかがう。そしてその瞳に微塵も揺れがないことを確認すると、ふぅー、と大きく息を吐いて覚悟を決めた。


「大岩の前で逃げている冒険者を回収してその場で防衛、トリンがそいつらを回復させ次第、隙を見て大岩を越えて離脱する。ピートは先のことを考えて最優先でアラームバードを始末しろ。大岩を超えるときはタイミングを合わせろよ。こっちが地面にいる間は奴らも大人しいからな」

「相変わらず見捨てて逃げるという選択肢がない」

「それがライオネルの良いところであり、悪いところでもありますね」

「うるさい、行くぞ」


 パーシーとトリンの言葉に、少し顔をゆがめながらライオネルが先頭をきって走っていく。そしてその後には当然のように4人が続いていった。

 その4人全員が、これから始まる戦いが自分の最期になるかもしれないとわかっていながらも、先頭を走るその背中を裏切る事など彼らは欠片も考えていなかった。

お読みいただきありがとうございます。


ちょっとお知らせです。


かなり昔に書いたお話をどうせなら世に出しておこうと投稿を開始した今作ですが、皆様のおかげでこのように望外の評価をいただくことが出来ました。

改めてありがとうございます。


ただ、説明不足だったり、矛盾だったりが度々あり感想欄で教えていただいては修正していたのですがちょっと本格的に見直しを計画しています。


肝心のレベルダウンとレベルアップの仕組みがわかりにくいというのは致命的でしたしね。今は一応補足済みですが。


毎日更新は続ける予定ですし、大筋は変えないので読み直す必要はありません。


さて、まずはエクセル管理から始めましょうかね。一応修正が完了したらまたお知らせします。


以上、お知らせでした。


(現在第一章第9話まで修正済み)

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― 新着の感想 ―
[一言] 落とし穴の位置把握してて、逃げてるパーティーごと誘い込んでモンスターの自重と後続の飛び込みで圧殺させる外道戦法かと思ったら、自分の命を秤にかけられない熱血バカの道徳的には良いやつじゃないです…
[一言] > 肝心のレベルダウンとレベルアップの仕組みがわかりにくい 「リセットマラソン」を1レベルアップ毎に最高値が出るまで やり遂げたという話でしょ?主人公の心が折れそうになるシーンと、 それで…
[一言] もしかして、ライオネルと昔の余裕が無かった主人公の考え方が合わずに衝突してたからライオネル側も主人公のこと嫌ってるだけで、ライオネル実はめっちゃ良いやつなのか。 ギルド長も普段は絶妙にウザい…
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