第1話 ベテラン木級冒険者と建築依頼
プロットがある程度できたので続きの話を書き始めました。
世界で最も大きな大陸と言われる中央大陸。その中に存在する国の中でも3本の指に入る大きさを誇るエリアルド王国の南西に位置するライラックの街は交易の中継都市としても栄える国有数の大都市である。
また周囲を4つのダンジョンに囲まれているという恵まれた立地条件もあり、そこから得られる魔石や資源などを求めて商人や職人が自然と集まり、そしてその需要に応えるためにモンスターと戦う冒険者たちの数も多い。つまり活気に満ちた都市といえる。
しかしそういった都市とは言え、いや、そうであるからこそ存在してしまうのがスラムという場所だった。人が集まれば、そのぶんだけ落ちこぼれるものも出る。落ちてしまった者が再び這い上がるには並大抵の努力では足らないのだ。
そうした者達は自然と集まり、そして恨み、辛みなど鬱憤を溜めていく。そんなじめじめとした感情が渦巻く場所に、本当の犯罪者などが根城を作りそれはさらに混沌としていく。
ライラックの西の防壁付近にはそんなスラムが広がっていた……はずだった。
「おーい、アレン。さっさと木材運んでくれよ」
「てめえ、人使いが荒らすぎんだよ!」
自分の身長を明らかに超える木材を担いだアレンをニックがからかい半分に呼ぶ。思わず担いだ木材を投げてやろうかと考えたアレンだったが、さすがに周囲に人も多いため実行に移すことはなかった。
ニックの指定の場所へ木材を運んだアレンが、ぐんと背伸びをして腰を伸ばす。ここもだいぶ変わったな、そんなことを思い周囲を眺めながら。
以前は柱が腐り傾いて今にも崩落しそうな家や、無計画に増築を繰り返したために前衛芸術のような形になってしまっているような家などが林立していたその場所には、既にそんな建物など見る影もなく整地された土地に大量の資材が積まれ、一部では既に新しい家の建築が始まっていた。
よどんだ空気などどこにもなく、そこは人々の活気に満ちた声が広がる空間へと変貌していたのだ。
もちろんスラムの全てがそんな空間に変わったわけではなく、あくまでその入り口の一部分、孤児院の周辺に存在していた地区だけであるのだが、その変化にアレンが少しだけ笑みを浮かべる。
そんなアレンの肩を抱くように、がしっと腕を回したのはアレンの親友で大工のニックだ。赤い短髪を立たせ、男くさい笑みを浮かべてニックもまた嬉しそうにしていた。
「これでちょっとはスラムの奴らも変わると良いな」
「そうだな」
ニックがかけてきた言葉に、アレンもうなずきながら同意する。
アレンもニックもスラムではないがこの付近に住んでおり、共に貧乏な生活を送ってきたのだ。一歩間違えば自分たちもスラムの住人だったかもしれない、そんな共通の認識が2人の間にはあったのだ。
スラムにいる人間もすき好んでその場所にいる訳ではない。その事を十分に知っている2人だからこそ、これをきっかけに救われる人がいれば良いと考えていたからこその笑顔だった。
「おい、ニック。いつまで遊んでやがる!」
「うわっ、親方! 今行きます。じゃあ、後でなアレン」
「おう、頑張ってこいよ」
所属するブラント工房の親方に怒鳴られ、飛び上がるようにして走り去っていったニックの後姿にアレンが声をかける。それに対して振り返りもせずに片腕を曲げて力こぶしを見せて返したその姿に、アレンは苦笑いを浮かべた。
「さて、じゃあ俺も続きを始めるか。っていうか、これって明らかに普通の木級の冒険者には荷が重いだろ。それをわかってて俺に振りやがったな、あのギルド長め」
自らのノルマとして積まれた大量の木材を遠くに眺めながらアレンがため息を吐く。
スラムの一部とはいえ広さにしてみれば100人以上の人間が住んでいたくらいに広い場所に、スラムの人間を仮に住まわせるための簡易住宅を建てていくのだ。その建材が半端な量ではないことは明らかだった。
アレンが半ば強制的に受けた依頼はその建材の運搬だ。もちろん他の冒険者たちの中にも同様の依頼を受けている者もいたが、アレンのノルマとして割り当てられていたのは住宅の大黒柱になるような太く重たいものばかりである。
そこに誰かの意図が含まれていることは明白だった。
「くっそー。またこの手の時間がかかる依頼かよ」
ぶつくさと頭の中に浮かんだ、ニヤニヤとした笑みをしたガマ蛙のように太った冒険者ギルドのギルド長であるオルランドに文句を言いながらも、アレンは順調すぎるほど順調にその重量級の建材を運んでいった。
レベルダウンの罠を踏んだ上でスライムを倒すとステータスがランダムの数値で一律に上がる事を発見したアレンは、スライムダンジョンの改変で現れたレベルダウンの罠とレベルアップの罠を使用することによりレベル500になっていた。
しかも攻撃力、防御力、生命力、魔力、知力、素早さ、器用さの全ての数値が5000を超えるという人間離れしたステータスを得ていた。
普通の成人男性の平均ステータスはレベル1で50~100程度であることを考えれば、いかにアレンのステータスの数値が馬鹿げたものであるかが良くわかる。
はっきり言って運んでいる建材など、アレンにとってはただの小枝を持つ程度の感覚でしかなかったのだから当然の結果とも言えるだろう。
自分のノルマをこなしつつ、遠目にニックやその同僚たちが他の職人とは隔絶したスピードで家を建てていく姿を眺め、アレンが微笑む。
「やっぱレベルが上がってる奴は動きが違うな。これなら思ったよりも早く依頼が終わるかもしれねえが……これって結局廻り廻ってるだけだよな?」
薄々と感じてはいたのだが、改めてその考えに至ったアレンが表情を崩して大きなため息を吐く。
アレンがこの依頼を達成する事で得られる報酬は1日につき2万ゼニー。木級のかけだし冒険者にしては破格の報酬だ。
その分、重い建材を運び続けるというきつい重労働にはなるのだが、人間離れしたステータスを持つアレンには当てはまらない。つまりその報酬の金額についてアレンに不満はなかった。
それでもなおアレンがその表情を崩したのは……
(なんで俺が領主に託した金で行われたこの工事で、俺自身が働いて金もらってんだ?)
そんなもやもやとした気持ちを抱きながらアレンが首を傾げる。誰にも言えるはずのないその気持ちを少しだけ持て余しながら、それでもアレンは懸命に働くのだった。
続きが読みたいと言うお話をいただきましたので、完結をとりやめ投稿を再開しました。
ただ、一度完結ブーストをいただいているお話になりますので、次回完結時にはランキング除外を行った上で完結させていただく予定です。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければこれからもよろしくお願いいたします。