表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第一章 雑用ギルド職員の万能生活
40/300

第40話 スタンピード阻止の報酬

 アレンの活躍? によりドラゴンダンジョンのスタンピードをダンジョン内で食い止める事に成功してから数日後、ライラックの街の中央にある領主の館の謁見室にはその戦いに参戦した者たちが集まっていた。


 平伏する冒険者たちから数段高い場所にある椅子へと座った領主であるナヴィーン・エル・ライラックが冒険者たちへ感謝の言葉を述べる。

 そして代表としてその前に進み出たケネスが褒賞の書かれた目録を使用人から受け取った。


 ケネスが元の位置へと下がった後、使用人たちによって褒賞の書かれた目録が冒険者たちへと渡されていく。それらは事前に金銭やダンジョン産の武器など、いくつかの候補から冒険者たちが選んだものであった。


 冒険者たちへの授与が終わり、使用人に促されて冒険者たちが謁見室から退室していく。

 ミスリル級の冒険者ともなれば貴族からの依頼を受ける事も多く、ある程度慣れているためその対応はスマートで何も問題は起きなかった。


 もちろん全てのミスリル級以上の冒険者がそういった対応が出来るわけではないし、そういったことに無頓着だが規格外の強さのために許されているといった例外もいないではないのだが、幸いにも戦いに参加した冒険者たちに関しては常識的な者ばかりだった。


 冒険者たちがいなくなり少しだけガランとした感じのする謁見室で、アレンはネラの格好をしながら、なんで俺はこんなところにいるんだろうな、と少し現実逃避気味に考えていた。

 色々な事を考えた上でアレン自らが決断してやってきた訳なのだが、こういう畏まった場に全く耐性の無いアレンには少々ハードルが高すぎたのだ。


 仮面で顔が隠れているためそんなアレンの感情を察する者はおらず、進行を告げる使用人により事態は進んでいく。


「兵士長、エリック。前へ」

「ハッ!」


 名前を呼ばれたエリックがきびきびとした仕草で前へと進んでいき、先ほどケネスが目録を授与されたのと同じ位置で立ち止まる。

 先ほどの冒険者たちよりも堂々としたその様に、そしてその腰に提げられた愛剣の姿にアレンの頬が思わず緩んだ。


 エリックはその剣を引き抜くと、それを両手で持ち頭を垂れたままナヴィーンへと差し出す。そしてそれをナヴィーンが受け取った事を察すると、静かに膝をついた。


「スタンピードを防ぐ戦いにおいて、獅子奮迅の活躍をしたと聞く。その武勇、その功績に報いるため騎士に任じ、士爵の地位を与える。以後、エリック・ゼム・ファルクスを名乗り、民を守る盾となれ」


 ナヴィーンが受け取った剣を立てるように構え、そしてそのうっすらと赤みを帯びたその刃をエリックの肩に置きながら騎士の叙勲を宣言する。

 そしてナヴィーンがその剣をエリックに向かって差し出し、それを受け取ったエリックが厳かに告げた。


「我が剣、我が命はライラックのために」


 そしてエリックは剣の柄へとキスをし、今ここに新たな騎士が誕生した。拍手や歓声といったものは無いものの、それを見る騎士や兵士達は柔らかな笑顔をしており、エリックを祝福する温かな雰囲気が謁見室に広がっていく。

 そんな光景を眺めながら、アレンは緩みそうな涙腺を我慢するので精一杯になっていた。


(良かったな、エリック。このためにずっと頑張ってきたんだもんな)


 駆け寄って褒めてやりたいという気持ちを押し殺し、アレンは必死に平静を装う。しかしそれはとても難しい事だった。


 よちよちとアレンの後をついて歩く姿。

 弟妹たちへアレンの代わりに本を読んでやっている姿。

 アレンを助けるために冒険者になるといって剣術道場に通い懸命に剣を振る姿。

 兵士になってから少ない自由時間を削ってまで家の様子を見に来て、まだ少ない俸給でお土産を買ってきて、アレンの感謝の言葉に、はにかんで笑った姿。


 幼いころからのエリックの思い出がアレンの頭を駆け巡っていたのだ。


 それに加えて愛しい妻であるジュリアに貴族籍を捨てさせてしまった事へのエリックの苦悩をアレンは十分すぎるほど理解していた。


 エリックが表に出した訳でも、悩みをアレンに打ち明けた訳でもないが、幼いころから見守ってきたアレンには全て筒抜けだったのだ。

 もっともアレンにはどうしようもない事であったし、助けを求められた訳でもないので何も出来なかったのだが、それでも心配はずっとしていたのだ。


 貴族としては最低位である士爵ではあるが、その扱いは平民とは一線を画すものである。

 貴族としての身分が保障される事に始まり、そこまで大きくはないが屋敷が与えられるし、騎士としての俸給に加えて、貴族として年金が入るのだ。

 とは言え貴族としての年金は屋敷の維持管理を行う使用人などを雇うことの出来る程度の金額であり、そこまで大金とは言えないのであるが。


 もちろんメリットだけでなく貴族になった事によるデメリットも存在する。戦争時の従軍義務などが代表的なものだが、ただそのデメリットは戦いに身を置く騎士にはあまり変わりの無いものであった。

 つまり騎士に関しては圧倒的にメリットの方が上回るのだ。


 しかし逆に領主からしてみれば貴族が増えるだけその支出は増えることに他ならない。また代々続く貴族家の中には平民から貴族になるのを嫌う者も一定数いた。


 それでもなお今回エリックが士爵となる事が出来たのは、今回のスタンピードを防いだという手柄が大きかったということもあるが、その実力の高さと日ごろのエリックの働きが文句のつけようのないものであった事の証左であったといえる。


 万感の想いを抱くアレンが見守る中、アレンが譲った愛剣を鞘に納めてエリックが下がっていく。

 その途上一瞬だけアレンの方を見たエリックが、心配そうに視線を送ったのに気づいた者は誰もいなかった。


 エリックは心配していた。ネラを招待したいというナヴィーンの命令に従い、アレンに今日の事をそれとなく伝えたのはエリック本人ではあるのだが、実際にネラとしてやってくるとは考えてもいなかったからだ。

 もしかして、自分がその場で騎士として叙勲されることを伝えたせいではないか、そんな不安がエリックの胸の内に渦巻いていた。


 そのエリックの予想は半分正解である。

 騎士として叙勲されるなど一生に一度あるかどうかという晴れ舞台なのだ。しかも一般人には決して見られない類いのものである。

 そんな弟の晴れ舞台を合法的に見ることが出来るというのは、アレンの中でもとても大きなウエイトを占めていた。


 しかし、アレンがわざわざここへとやってきたのはそれだけが理由ではなかった。


「英雄ネラ、前へ」


 使用人が告げた予想外のその言葉に、内心ぐふっ、とダメージを負いながらもアレンが前へと進み出る。

 アレンが動いた瞬間、先ほどまでのお祝いムードが嘘であったかのように謁見室が緊張感に包まれる。


(おいおい、剣の柄に手がいきそうになってんじゃねえよ)


 ナヴィーンの周囲を固める騎士の手がピクリと動いたことを視認したアレンが頬を引きつらせる。

 さすがにそれ以上は自制したようだが、アレンが不審な挙動を見せればどう行動するかは明らかだった。


(こんな状態で本当に大丈夫なんだろうな。なんか自信満々だったから信じちまったが、不安になってきたぞ)


 アレンはこの場にいないイセリアへと心の中で文句を言いながら進み、そしてケネスやエリックと同様の場で立ち止まった。

 誰かが漏らした安堵の息を聞きつつ、アレンは頭を垂れて片膝をついた。


「英雄ネラよ。貴殿の活躍によりライラックの街の平穏は保たれた。感謝する」


 そう言って礼の姿勢をアレンへと向けたナヴィーンの姿に周囲の者たちがざわつく。

 頭を垂れているアレンにはその姿は見えなかったが、なにか面倒くさそうなことになっているのだけははっきりとわかった。


「褒美はできうる限り貴殿の望みのままにこちらは応えるつもりだったのだが……本当に(・・・)良いのだな?」


 その突然の問いかけにアレンが動揺する。


(膝をついて待っていれば終わるんじゃねえのかよ)


 事前に聞いていた話と食い違っていたからだ。どうすれば良いか考えるとアレンの周りに気まずい沈黙と共に不穏な空気が広がっていく。

 そのことを察したアレンは意を決し、その首を小さく縦に振った。その返事にナヴィーンはほんの少しだけその頬を緩めた。


「わかった。我が領民(・・・・)の願い、確かに叶えよう。どこかになくしたという市民証は冒険者ギルドを通じて必ず届けさせよう」


 その言葉に、なんとか当初のもくろみ通りに行きそうだとアレンはこっそりと胸をなで下ろしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ