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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
最終章 レベルダウンの罠から始まる×××の万能生活
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第28話 王都アルドナ

 ライオネルを抜きにしたアレンたちの馬車の旅は非常に順調だった。

 五人とも破格のステータスをしているし、ライラックのダンジョンを何度も攻略し、そこで得たドラゴンの素材や宝箱から得た不要な物品を売却することで『ライオネル』は破格の報酬を得ている。

 その資金にあかして購入された機能性の高い荷馬車を使い、それを選りすぐりの馬たちにひかせているのだ。早々に問題など起こるはずがなかった。


 現在アレンたちは王都まであと二日くらいの距離にある草原を馬車で進んでいた。

 さすが王都と南の大都市であるライラックを結ぶ主要街道だけあり、きちんと整備された道はでこぼこもあまりなく、所々に馬車を止めることのできる休憩所も備え付けられている。

 森などを抜けることもあったが道の両脇はかなりの広さが確保されており、視界が遮られ不意打ちされるような危険な場所も少なかった。


「平和だねぇ。南に逃げていく人は多いけど」


 操車するアレンの横で、ピートがすれ違う馬車や人々を眺めながらぽつりと呟く。

 アレンも確かに多いなとは思っていたが、王都に向かった経験がないためそれが普通なのかどうか判断に迷っていた。

 護衛依頼などでそれなりに王都との行き来をしていたピートが言うならそうなんだろうとアレンは納得する。


「北に向かうのは冒険者か商人ばっかりだな」

「ある意味稼ぎ時だしね。自分の命を賭ける気概があれば、の話だけど」

「違いない」


 周囲に警戒の目を向けながら、おどけた顔で肩をすくめるピートにアレンが苦笑いを返す。

 確かに魔王が現れたとなれば、そのための物資の需要は跳ね上がる。比較的安全と言われている南で安く買い付け、それを危険な北に運べばそれだけで利益を出すことができるだろう。


「さて、そろそろ次の町が見えてくるころか?」

「そうだね。いつもの宿が空いてればいいけど」


 アレンが前方を見据えるが、その視界にはまだ町の姿は見えない。少し先に広がった森で視界が遮られているからだろう。

 主要街道らしく馬車で一日の距離ごとにそれなりの大きさの村や町が存在しているため、ここまでアレンたちは野宿することなく旅をすることができた。

 しかしいつも『ライオネル』として使っていた宿が満杯で泊まれず、しかたなく空いている高級宿に宿泊するといったことはしばしば起きていたのだ。


「もうすぐ王都か」


 そんな呟きをアレンは漏らし、そして馬車はごろごろとその車輪を鳴らしながら進んでいったのだった。


 その夜、走って追いかけてきたライオネルと合流を果たしたアレンたちは、どことなく幸せそうに顔を緩ませるライオネルをからかったりしながら旅を続け、ついに王都にたどり着いた。

 初めて王都を見るアレンはその巨大な防壁に驚き、そしてその奥に見える強固そうな城壁という二重の守りにさすが王都と感心していた。


「貴族街と分ける防壁もあるから実際には三重の守りだけどな」

「へー」


 王都に入る列に並びつつ、御者台の隣に座るライオネルからアレンが情報を仕入れていく。

 今回の旅の目的地は王都ではないのだが、馬の休息と情報収集を兼ねて2日間は滞在することになっていた。


 情報収集といっても王都の冒険者ギルドに行く程度で、本格的になにかを探るようなことはない。

 アレンたちが目指す、過去に壊滅した領都を砦として再生したソドモ砦の現状を確認するくらいでそれ以外の予定は全くない。


 本来であれば王都を通り過ぎても良いのであるが、ライオネルたちがアレンに配慮した結果、ここで休息をとることに決めたのだ。

 聖女となったエミリーにアレンが一目でも会える機会を作るために。


 門番による検査を終え、アレンたちは王都アルドナに足を踏み入れる。

 門のすぐそばにいくつもの宿屋が軒を連ねているのはライラックと同様であるのだが、その規模と数の多さはさすが王都と思わせるほどのものだった。

 ライオネルに促され、アレンはその中の一軒の宿に馬車を向かわせる。そして従業員の誘導に従い馬車を止めると、宿の手続きをライオネルたちに任せて馬の世話を始めた。


 手持ち無沙汰気味にアレンを見守る従業員に水などの用意を頼み、荷馬車から外した四頭の馬たちをアレンがマッサージしていく。

 宿に泊まるのであればそれらは従業員がしてくれる仕事ではあるのだが、凄腕の御者であるマシューに、アレンはそういった細々とした触れ合いが馬との信頼関係を深めることになり、いざというときにきっと役に立つと教えられていた。

 それにこの馬たちはこれから魔王の元に一緒に向かう仲間でもある。それをおざなりに扱うことはアレンにはできなかった。


 一通りの世話を終え、満足げな馬たちの背中をぽんぽんと叩いたアレンは後のことを従業員に任せて宿に向かう。

 宿泊する部屋の鍵をもらおうとカウンターに向かったアレンに、ヒュンと音を立てて何かが飛んでくる。アレンは危なげなくそれをキャッチすると、それが飛んできた方に目を向けた。


「ライは出かけなかったのか?」

「ナジームたちはパーッと遊びに行くらしいからな。さすがに、それはな。かといってトリンのように教会に顔を出すのもな」

「確かに」


 そう言いながらライオネルが苦笑を浮かべ、それにアレンも同意した。

 ナジームたち三人が向かったのは言うまでもなく歓楽街だ。兵士や冒険者たちという血の気の多い者たちが集まることになるソドモ砦にもきっとそういった場所はあるのだろうが、その質は王都と比べれば格が落ちることだろう。

 それならここで思いっきり遊んでやろうという三人の気持ちはアレンにもわからないでもなかった。


 教会に向かうトリンについていけば良かったか? とアレンは思わないでもなかったが、きっとトリンはアレンのためにエミリーの情報を集めることも目的に教会に向かったんだろうと思い直す。

 それならばその話を聞いてから明日以降に行動すればいいだけだ。そう考えたアレンはライオネルに近づくと、その肩に腕を回した。


「じゃあ既婚者と婚約者持ちの俺たちは男だけで寂しく食事でも食べにいこうぜ。おすすめの店ぐらいあるだろ?」

「ふっ、そうだな」


 肩を組んだまま強引に歩き始めたアレンに、ライオネルは小さく笑い返した。そして二人は王都で人気の食堂で楽しい会話と食事をして過ごし、酔いつぶれたライオネルを背負ってアレンは宿へと戻ることになった。

 こんな風にライオネルを背負って帰るのはいつぶりだろう。そんなことを考えながら、アレンは魔道具の灯りの照らす大通りを機嫌よさげに歩いたのだった。





 翌日の昼。

 冒険者ギルドでの情報収集をライオネルたちに任せたアレンは、一人で貴族街の近くにある大きな教会にやってきていた。


 エリアルド王国の教会の総本山であるその場所は、長い歴史を受け継いでいることを証するように周りの建物とは違う古風な造りをしているのだが、そこにみすぼらしさは全く感じられない。

 むしろそこからは連綿と続く歴史と威光を感じられるものとなっていた。


 建物の出入り口を囲むように人々が集まっており、その中にアレンは紛れ込みながらその時を待っていた。

 そして創造神ユエルの神話をかたどった彫刻のされた木製の巨大な扉が、ゆっくりと開いていく。

 そこから姿を見せたのは、神々しい純白の法衣に身を包んだエミリーだった。


「聖女様だ」


 そんな声がざわざわと広がり、そして自然に辺りが静寂に包まれていく。

 そんな人々を優しい微笑みを浮かべて見つめていたエミリーが、皆に語りかけるようにゆっくりと話し出す。


「みなさま、ユエル様はおっしゃられました。困難の先にこそ、本当の幸せがあるのだと。いま私たちは魔王という悪しき存在と相対しています。その脅威に心を乱し、不安になるのは当然です。しかし忘れないでください。あなたのそばには私たち教会がいることを。そしてユエル様が見守ってくださっていることを」


 人々の視線が集まる中、エミリーは決して笑みを乱すことなく堂々と振舞っていた。その姿は正に人々が理想とする聖女そのものであり、人々は誰に言われたわけでもないのに祈りを捧げ始める。

 アレンはそんなエミリーの姿を見つめながら、その背後に立つ豪華な法衣を纏った初老の男を気にかけていた。


「私はいつか聖女として魔王と戦うことでしょう。人々を守るために立ち上がった勇者を少しでも助けるために。それは困難な道なのかもしれません。しかし私は諦めないとここに誓います。私をこの場所に導いてくれたユエル様に恥じない自分であるために」


 そう言いおえたエミリーは天に視線を向けると、胸の前でゆっくりと円を描くように手を動かして祈り始める。

 その場に集まった人々は全て同じように祈りを捧げており、そしてそれを終えたエミリーは頬を緩ませた。


「教会は、いつでも迷える信徒の味方です。少しでも不安があれば私たちに相談してください。皆様の毎日が、少しでも良き日々になりますように」


 そう言ってニコリとした笑みを残し、エミリーが扉の奥に戻っていく。しばらく閉じられた扉を眺めていた人々だったが、満足げな表情を浮かべながらその場から姿を消していった。

 アレンも目立たぬようにその流れに乗って宿に向かいながら、小さく首をひねる。


「なんでスタンリーがあの場所にいるんだ?」


 昔アレンたちが世話になったテッサたちの勇者の卵のパーティに神父として所属していたスタンリーがエミリーの背後にいたことに、アレンは言いようのない不安を覚えていた。

お読みいただきありがとうございました。

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