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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第四章 新婚冒険者の万能生活
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閑話 本当の仲間へ

 ドゥラレのダンジョン。

 二十五階層からなるそのダンジョンは、中央大陸で最も新しく発見されたダンジョンであり、そしてごく最近に完全攻略されたダンジョンだ。

 出現するモンスターはゴブリンなどの鬼人系のモンスターであり、知恵の回るモンスターを相手にしなければならないため、他のダンジョンの同階層と比べると難易度は高めといえる。


 その二十一階層から二十五階層は、拠点を攻略すれば必ず宝箱が得られるという珍しいフロアであり、それ目当てに高レベルの冒険者がやってくることも珍しくなかった。

 しかし攻略できる拠点には限りがあり、下手をすれば冒険者同士で取り合いになり争いの種になりかねない。それを回避するために冒険者ギルドが用意したのは……


「皆さん、食料を届けにきましたよ」

「ありがとうございます。ティモシーさん」


 二十一階層の階段付近に建てられたログハウスの扉を開け、依頼の食料が入ったマジックバッグをティモシーが差し出す。柔らかな笑みを浮かべながら受け取った男性エルフがティモシーに感謝の言葉を返した。


 その男性エルフの胸にはギルド職員の証であるバッチが輝いている。

 明らかに通常のものとは違う特別製のそれに目をやり、男性エルフの自然体でありながら隙を感じさせない姿にティモシーが内心苦笑する。


 一般的に壁と呼ばれる鉄級を超え、銀級に至ったティモシーの目には少なくともこの男性エルフは自分と同等、下手をするとそれ以上の実力者のように映っていた。それが冒険者ではなく、ただのギルド職員としてここに居る。そんな事実がそうさせていた。


(この場所の危険度と重要性を考えれば妥当と言えなくもないか)


 そんなことを考えながらティモシーは依頼書にサインをもらい、ログハウスの外へと出る。そこには彼の仲間である双子の姉妹とドワーフの男、そしてエルフの男が待っていた。

 談笑している仲間たちにティモシーが目を向け、声をかける。


「さて、次に行こうか」

「「ええ」」


 さっ、とティモシーに寄り添う双子の姉妹、レイラとサマンサに少し困惑しながら歩き出したティモシーの様子に、ドワーフのダリルとエルフのイグノールは顔を見合わせ、そして苦笑を浮かべながらその後に続いたのだった。





 ドゥラレのダンジョンの初攻略を目指し、一時的にパーティを組んでいたティモシーたちだったが、その後正式にパーティを組んでいた。

 オーガキングと大量の鬼人の兵士たちに囲まれるという絶体絶命のピンチを共に乗り越えたことや、その時に自らを犠牲にしてでも他の者を逃がそうとしたティモシーの行動に他の面々が惚れこんでしまったというのが最も大きな理由だ。

 しかしそれ以外の理由がないわけでもなかった。


 それは以前パーティに入っていたデリーが原因だった。

 デリーはギルド職員の家に押し入り、強盗するだけでなく、殺人未遂まで犯していた。その咎によりデリーは捕らえられ、財産没収の上で奴隷に落とされ、すでにこの町にはいない。

 もちろん彼らはその犯罪に一切手を貸していないし、それどころかそんな計画があることすら知らなかった。


 しかし運が悪いことにデリーが罪を犯した時、彼らはパーティを組んだままだった。公的には処罰は及ばなかったが、冒険者ギルドの規定でパーティメンバーが罰を受ければ、その影響はその他のメンバーにも及ぶ。

 信頼しあう仲間同士でパーティを組んでいるのであれば歯止めになるその規定が、臨時パーティの彼らに思わぬ被害を及ぼしてしまったという珍しい事例だった。


 もちろん情状酌量の余地はあるため被害者への賠償の他は、今受けているようないくつかの依頼を強制的に受けさせられるくらいではある。

 逆に言えば、その償いが済むまではパーティを解散できないということになるのだが。


 下層へと続く階段のある拠点を攻略していき、三日ほどかけて二十五階層に建てられたログハウスまで食料を送り届けたティモシーたちは休憩をとりつつ、目の前に広がる城下町を眺めていた。

 その中央にそびえる城で彼らは命の危機に瀕し、そしてたった二人の冒険者に救われたのだ。現在ではミスリル級と金級であるが、当時は金級と鉄級の冒険者であった二人に。


「攻略者はいないようだし、予約してくるよ。休憩が終わったら行くだろ?」


 先ほど二十四階層の拠点を攻略したばかりだというのに疲れなど感じさせない声で皆に問いかけたイグノールに、全員が肯定の返事をする。それを確認したイグノールは軽やかな足取りでログハウスへと向かっていった。


 拠点を攻略したければ階層に設置されたログハウスで、常駐するエルフのギルド職員に予約をした上で行わなければならない、というのがギルドの規定だった。

 当初は地上にて予約窓口を設置することが検討されていたのだが、それだけでは実情と乖離する可能性が高く、マジックバッグが比較的多く発見されるこのダンジョンの有用性を損ないかねないとして現地に専用窓口が設置される運びとなったのだ。


 もちろんそんなことが可能になったのは、ギルド長であるカミアノールがエルフの実力者たちをギルド職員として雇用し、それを配置したおかげである。

 実力もさることながら時間の感覚が人間とエルフでは大きく違う。

 拠点外はモンスターが出ないので安全とはいえ、人間にとっては苦痛ともなりかねない長期間のダンジョンの滞在であっても、エルフにとってはさほど気にならない程度の期間ということもこの体制をとることが出来た要因でもあった。


 ログハウスへと入っていったイグノールの背中から、再び城下町へと視線を戻したティモシーが大きく息を吐く。


「不安か?」

「いや、そうではない。そうではないんだが……」


 ダリルの言葉にティモシーが首を横に振る。しかしそれは正直な気持ちではなかった。

 たしかにこれから始まる城下町の攻略に関して不安はない。信頼できる仲間としてパーティを組んだ彼らは、一人抜けてしまった穴があるのにもかかわらず以前よりもはるかに安定した戦いができているからだ。

 それは後方から戦闘全体を把握し、指示を出すティモシー自身がよくわかっていた。しかしティモシーの胸の内には不安と呼べなくも無い気持ちがくすぶっていた。


「安心しろ。俺たちは運が良い。なにせ莫大な賠償金を払わんで済んだくらいだしな」

「本当にね。ティモシーがいなければあっちになびいてしまったかも」

「私はティモシー一筋よ」

「あっ、姉さん、ずるい!」


 ティモシーの気持ちをまぎらわせるためか、おどけた様子でレイラとサマンサがかしましいやり取りを始め、それを眺めながらダリルが豪快に笑う。以前は戦闘に関することなど必要最低限のことしか話さなかったはずなのに、こうして冗談を話すまでに変わった皆を眺めてティモシーも笑みを浮かべる。


「なんにせよ、アレンさんには感謝しないと。命を救われたこともそうだし、僕たちに責任はないからって賠償金を断ってくれたのだから。ああいうのが本当の冒険者なのだろうな」


 デリーのしでかしたことを知り、顔面を蒼白にしてティモシーたちはすぐに謝罪に向かった。アレンは命を救ってくれた恩人だ。そんな彼に、臨時とは言えパーティの仲間が牙をむいたのだから当たり前だ。

 そして地面に頭をつける勢いで謝り、全てを差し出す覚悟をしていた彼らに、アレンはそれ以上を求めなかった。いや、ただ一つ求めたものはあったがそれは具体的な金品ではなかった。

 そのことに頭をめぐらせて感慨にふけるティモシーとは違い、ダリルがくくっ、と笑いをもらす。


「本当の冒険者の当人は今、大工の真似事をしとるがな。がっはっは」

「なんの話をしているんだい?」


 ダリルが大声で笑い始め、ログハウスから手続きを終えて出てきたイグノールが首を傾げながら近づいてくる。レイラとサマンサも痴話げんかをやめ、本当に楽しそうに笑っていた。

 ティモシーはそんな仲間たちを眺め、そして天を見上げる。


「仲間を信じて、もっと冒険を楽しめ、か。ごめん、少し皆のところへ行くのが遅くなりそうだけど、許してくれるかい? 恩人の言葉を、新しい仲間と共に果たしたいんだ。そして、いつか……」


 ダンジョン内で風など吹かないはずなのに、ティモシーの髪がわずかに揺れる。それを感じたティモシーは柔らかく微笑むと、決意と共にその拳を握り締めたのだった。

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