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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第四章 新婚冒険者の万能生活
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第21話 特殊な階層

 20階層までの探索を終えて作製した地図を冒険者ギルドへと提出してから1週間後、アレンとイセリアは再びダンジョンの探索に向かっていた。

 既に探索は3回目であり、罠を踏みそうになることも、出現するモンスターに苦戦するようなこともなく2人は悠々とその歩を進めていき、1日で前回地図の作成を終えた20階層に存在する21階層へと続く階段にたどり着いた。


「んじゃ、行くかね」

「はい」


 下る階段の手前で振り向いて軽い感じで声をかけたアレンに、気負う様子もなくイセリアが応える。そして2人は21階層へ向かって降りていった。

 実は2人がこの階段を降りるのは初めてではない。前回の探索の最後に、次の階層の様子をうかがうために一度確認に降りていたのだ。そしてその様子見の結果、2日の予定だった休息を1週間に変更していた。

 それだけの準備が、21階層からの探索には必要になる、そう考えたからだ。


 階段を降りきった2人が警戒しつつ周囲を見回す。先ほどまで2人がいたようなうっそうとした木々などは姿を消し、不快さをあおるようなむっとした空気も消えうせていた。

 アレンとイセリアの目の前に広がっているのは一面の原っぱだ。しかも生えている草は高くても20センチ程度であり、視界を遮ることも足を取られるようなこともないくらいのものだった。

 どこかライラックのダンジョンの1階層を思い出させるような光景に、ほんの少しアレンは頬を緩める。


「さて、イセリア。もちろん予習はしてきたよな」

「もちろんです。というよりギルドの資料室で会いましたよね」

「ははっ、そうだな。俺自身初めて経験する階層になるから基本的に資料の知識以上のことはわかんねえんだ。一応話には聞いていて一度は行ってみたいとは思ってたんだけどな」


 おかしそうに笑うイセリアに、若干テンション高めにアレンが返す。確実に普段とは違うとわかる反応だったが、それを見てもイセリアは笑顔を浮かべたままだった。イセリア自身も心の内がわくわくと弾んでいるのを自覚していたからだ。


 一面の原っぱで見通しは悪くないのだが、周囲にモンスターの姿は全く見えない。その代わり、2人の正面、ほぼ緑色の景色の中にぽつんと茶色の点が見えていた。

 今はただの点にしか見えないが、既に前回の探索で2人はあれがなにかを知っている。


「じゃあまず、今後の方針を決めるためにも正面突破で攻略してみるか。俺が突っ込むからイセリアは援護を頼む」

「はい。大丈夫だとは思いますが無理はしないでくださいね。ただでさえ多勢に無勢なんですから」

「おう。もちろんだ」


 軽く打ち合わせを行い、2人は笑みを交わすとその茶色の点に向かって歩き始めた。

 その茶色の点は原っぱに造られた集落を守る木製の防壁の色。そこで待ち受けるのは、その防壁を利用し集落を守る幾多の鬼人系のモンスターの集団だった。





 ダンジョンの階層には様々な環境の場所がある。アレンとイセリアが前回の探索時に地図を造った密林や森など緑溢れる環境もあれば、草一本生えていないような砂漠や、それに近い荒野、ひどい場所ではマグマが噴出していたり、雪の吹き荒れる階層さえある。

 モンスターだけでなく、そういった環境の変化にどれだけ対処できるかというのも冒険者としての重要な資質なのだが、今回2人が探索するドゥラレのダンジョンの21階層の環境は特殊なものだった。


 一見すれば草原であり、暑くも寒くもないため攻略のしやすい環境と言える。1階層手前の密林などに比べれば雲泥の差だ。

 しかし21階層はただの草原ではなかった。そこにはモンスターたちが立てこもる集落がいくつもあり、その中の1つに次の階層へと続く階段が隠されているという特殊な攻略をする必要がある階層だったのだ。


 これは鬼人などの知能が比較的高く、野生化した場合に集落などを造る習性があるモンスターが出現するダンジョンにしか現れない階層だ。

 アレン自身ももちろん経験したことはなく、ライラックの鬼人のダンジョンを昔世話になった勇者の卵がリーダーのパーティが攻略していた時に、こういった階層がないことを残念そうにしていたことを覚えているくらいだった。


 もちろんそういった知能の高いモンスターたちが、防壁などを利用して迎撃しようとしてくるため、当然普通にモンスターを相手取るよりもはるかに手間がかかるし、危険も大きい。

 それに加えて普段なら階層中にばらけているモンスターたちが、集中して配置されているのだ。生半可な実力のものでは近づくことさえ出来ないだろう。


 こうして見ると不利な点ばかりに思えてしまうが、アレンやイセリアの様子からもわかるとおり当然メリットがある。次の階層へと向かう階段のない集落には、必ず宝箱が配置されているのだ。

 もちろんその数は1つか2つであり、中身もアレンが鬼人のダンジョンの攻略で得たネラの衣装や杖などといったものとは比べ物にならないほどの性能のものではあるのだが、冒険者にとって宝箱が夢であることには変わりはなかった。


「さてと」


 アレンは2メートルほどの木の柵によって守られた集落を、少し離れた位置で立ち止まって腕を組みながら眺めていた。

 一面の原っぱで普通にしていれば身を隠す場所などあるわけがなく、集落の内部から聞こえるざわめきは、アレンとイセリアの接近に気づいていることを如実に表していた。

 それ自体は想定どおりのことであり、特に2人とも気にしてはいなかったが。


「こういう時って突っ込む前に射手や魔法使いを先に狙うってのが定石らしいんだが、とりあえず本の通りに進めてみるか」

「そうですね」


 アレンもイセリアも経験がなく、同じギルドの資料を読んで知識を得ただけであるため認識にほとんどずれはなく、深く相談することもないのにすれ違うことなく行動を開始した。


「よいしょっと」


 アレンが道中で拾ってきた拳大の石をマジックバッグから取り出し、そしてそれを防壁の上からひょこっと顔を出しこちらの様子をうかがっていたオーガレンジャーに向けて投擲する。

 それは狙い違わずその頭へと命中し、オーガレンジャーは手に持っていた弓から矢を1射もすることなく地へ倒れ伏した。


「クイックバースト」


 一方、イセリアもアレンの攻撃に慌てて迎撃に入ろうとしたオーガメイジに向けて魔法を放ち、その直撃を受けたオーガメイジのみならず、その周辺にいたモンスターまで巻き込み被害を拡大させる。

 さすがに直撃はしていないため巻き込まれた者たちはまだまだ生きていたが、血を流しながらぎこちなく動く姿はその重傷さがわかるものだった。


「うーん、クイックバーストが効率的すぎるな。石でも十分に対処できるが、倒せるのは一体だけだしな」

「そうですね。的中後に範囲を広げる魔法の方が向いているようですね。クイックバースト」


 投石と魔法を淡々と、まるで作業でもしているかのように繰り返しながらアレンとイセリアは攻略方法を話し合っていく。

 一応、アレンとしては本に記載のあった弓矢による射撃も試してみようと思っていたのだが、イセリアが現状で行っているクイックバーストによる効果を見てしまった今、それは不必要だろうと考えを切り替えていた。

 投石であろうと矢であろうとよほど運が良くない限り、倒せるのは単体になってしまうことに変わりはないのだから。


「問題は複合魔法のクイックバーストを使える奴が少ないってことだな。他の冒険者の参考にはならなさそうだ」

「そうですね。次は違う魔法に切り替えてみます。木ですし火系統の魔法で燃やす感じでしょうか?」

「うーん、宝箱も燃えちまうんじゃねえか?」

「どうなんでしょう?」


 そうこう話している間にも、投石と魔法により着々とモンスターは数を減らしていき、そしてついには防壁越しに2人を狙おうとするモンスターの気配は完全に消えていた。

 そして集落から無数に響くうめき声を聞きながら、アレンが腰に提げた剣をすらりと引き抜く。


「んじゃ、行くか」

「はい、援護は任せてください」

「もう壊滅しているような気もするけどな」


 改めて気合を入れて返事をするイセリアに苦笑いを浮かべて返し、アレンが集落に向かって走っていく。不意の攻撃にも備えて走るアレンだったが、そんなことは全く無く、入り口の木製の扉を蹴破って中へと入った。

 そこにはまだまだ生き残ったモンスターがおり、進入してきたアレンを取り囲むようにして粗末な武器を向けてくる。数はもちろん多かったが、明らかに満身創痍な様子の者も少なくない。

 そんな彼らにアレンは自らの打った剣を向け、ニヤリと笑った。


「怪我してるところ悪いが、まあこっちも数が少ないんだ。それでおあいこってことでいいよな」


 その言葉の意図をモンスターが理解したわけではないだろうが、声をいっせいにあげたモンスターに向け、一瞬で接近したアレンはその剣を振り下ろしていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くだぐたから最近ペース戻ってきた! 面白いから頑張って下さい~
[一言] イセリアとの探索デート、楽しいですか?
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