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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第四章 新婚冒険者の万能生活
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第11話 トレントの建材加工

 自分には受けなければならない依頼があるから無理だ、と言ってアレンはそれを断ろうとした。

 ニックとレベッカの姿から無茶な仕事量をふられる可能性が高いとわかっていたし、それに切り株を抜く依頼をアレンが受けなければ、それらの運搬の仕事を受けている新人の冒険者たちにも迷惑がかかる。そう考えたからだ。だが……


「大丈夫だよ。店が建つまでは私もイセリアさんも時間があるし、ディグで切り株を抜くぐらい出来るから。レン兄はなんの心配もせずに私の店を建てる礎になってくれていいよ」

「はぁー、秘策って俺を生贄にしただけじゃねえか」

「ちゃんと指名依頼するから。多少の実績にはなるはずだから安心して」


 ため息を吐くアレンの背中を気軽にぽんぽんとレベッカが叩く。若干イラッとしたアレンだったが、エミリーに愚痴られた対価と考えればマシだし、なによりレベッカが商人として初めて持つ店を建てる手伝いができるのだ。そう考えてみれば、これはこれで悪くないんじゃないかと気持ちを切り替えた。

 アレンは、ふっ、と短く息を吐きレベッカの両頬をムニーと軽く引っ張って事前説明をしなかったお仕置きをすると、涙目になっているレベッカから視線を外してイセリアへと向き合う。


「じゃあ、俺の代わりを頼むな。体力的には全くきつくないからリハビリだと考えてくれ」

「はい、わかりました。アレンさんも頑張ってくださいね」

「まっ、ぼちぼちやるさ。こわーい雇い主が許してくれればな」

「そんな訳ないでしょ。雇われたからにはキリキリ働かないとね」


 アレンに引っ張られ赤くなった頬をさすりながら、きっぱりとレベッカが宣言する。それに対してアレンは肩をすくめ、イセリアと笑いあったのだった。





 その後、戻ってきたニックと軽い打ち合わせを行い、そして冒険者ギルドに行きアレンがレベッカからの指名依頼を受けることでアレンの大工の下請け依頼の日々が始まった。

 現在村から町へと発展途中であるドゥラレには大量の材木が運ばれてきていた。もともとライラックのスラムの開発やドラゴンダンジョンの入り口を囲う砦の建築のために材木の流通が活発になっており、それで儲けた材木商が新たな需要でさらに一儲けしようと素早く動いたためだ。


 きこりたちが森で切り出した木もあるにはあるのだが、自然な状態で生えている木には水分が含まれているため、すぐに建築資材として活用することはできない。程よく水分が抜けるまで乾燥させる必要があるのだ。

 そういった理由もあり、使われる材木は他の場所から運ばれてきたものなのだが、そのほとんどはダンジョン内に生えていた木を伐採し、ダンジョン外へ持ち出して乾燥させたものだった。


 普通に木を育てるのには何十年と言う月日が必要だ。伐採するだけでは森は減少していき、そこから得られる恵みや清らかな水などが失われてしまうことを人々は歴史から学んでいた。

 ライラックにも街の外に森が広がっている場所があるが、領主によってしっかりと管理されており、そこを伐採できるのは許可を得た木こりのみなのだ。

 今回のようにダンジョンへと続く街道を造るといったことでもなければ、地上の木々を切り倒すことなどありえなかった。


 しかしダンジョン内であれば事情は異なる。いくら木を切り倒したとしても数日もすれば元通りに戻ってしまうのだ。

 使用するのに乾燥させる工程が必要ということは変わりないが、低階層に木々があるというだけでそれを建材として他の街などへ売却できる可能性がある、つまりダンジョンとしての価値があるといえた。

 新しく見つかったダンジョンも1階層に果実がなる木が生えていることから将来的にはそういったことも期待されていた。それも材木商がすぐに動いた動機の1つだった。


 そんな訳もあり、建築に使う材木に不足は起きていない。しかし不足ではない、別の事象は起こっていた。それは……


「いや、お前。いくらなんでもこれは……」

「別にいいだろ。普通の材木の値段が上がってる現状、それにちょっと足せばトレントが買えるんだ。耐久性とかを考えればそっちを選ぶだろ」

「確かにそうかもしれんが」


 ニックに案内されたブラント工房の材木置き場に並ぶトレントの丸太を眺め、アレンが呆れた表情をする。しかしそれを仕入れると決めた張本人であるニックは当然といったばかりの自信満々の表情でうなずいていた。


 アレンも知らなかったことだが、ニックの言うとおり普通の材木の価格が高騰していた。

 ダンジョンから木々を伐採するといっても、無限にそれを行うことはない。材木を保管する場所が必要だし、在庫を抱えすぎて値崩れを起こしては意味がないため調整が行われているのだ。

 しかしそれは逆に言えば今回のような急な需要に簡単には対応できないということの裏返しでもある。乾燥が必要であるため使える材木を急に増やすことは出来ないからだ。


 その結果、需要に供給が追いつかずに普通の材木の価格が高騰した。もちろん材木商も様々な場所から仕入れてはいるが、遠くから仕入れれば輸送コストは増えるし、なによりその価格でも売れるのだからわざわざ安くすることなど商人としてありえなかった。


 その点、トレントは倒せば水分が抜けて建材として使える状態になるし、もともと砦の建築のために大量に仕入れられていたため、仕入れルートの太い現状ではその価格変動はほとんどなかった。

 そのため普段なら明らかにトレント材の方が高いはずなのだが、通常の木材の価格とあまり変わらないという変な情況になっていたのだ。


 もちろんトレント材の加工には手間がかかるため扱える職人が少ないという根本的な問題がある。

 しかしレベルを上げ、砦の建築でさんざんトレント材を扱ってきたブラント工房の職人たちにとってはそこまで苦じゃねえから妥当な選択なのか、とアレンは無理矢理自分を納得させた。


「いやー、トレントの丸太が安かったから買ったんだが、建材に加工するのが結構手間で工期に影響が出るかもってちょっと悩んでたんだよな。アレンが来てくれて助かったぜ」


 笑ってばしばしとアレンの肩を叩きながら、あっけらかんと言い放ったニックにアレンがじとっとした目を向ける。

 その発言の半分は冗談だと付き合いの長いアレンはわかっている。ブラント工房を代表してニックはここにやって来たのだから、本当に切羽詰っているのであれば早朝から作業に入ったり、それこそアレンに助けを求めるなり、なりふり構わずに動いているはずなのだ。

 それをしなかったということは、まだ多少は余裕があるとニックが考えていた証拠といえた。


「はぁー、レベッカの商店を建て終えるまでだからな」

「おう、頼りにしてるぜ。お兄ちゃん」

「うぜえ」


 茶化してきたニックを早く行けとばかりに軽く蹴り、アレンがさっそく作業に入るために準備を始める。

 蹴られた尻をさすりながら部下たちの元へと向かい、先ほどまでとは違う真剣な表情で指示を飛ばしていく親友の姿を横目に眺め、こっそりと微笑みながら。


 今回、アレンに任せられたのはトレントの丸太を建材へ加工することだ。それは以前、レベッカやイセリアと共に行ったことと似た作業であり、アレンにとってはもはや考えなくても勝手に体が動くレベルのものだった。

 ある程度の速度を維持しつつ、アレンは加工を続けていく。もちろん家を建てる建材として使うためなので事前にニックからいくつかの種類を指定されているためその通りに仕上げていった。


 最初の頃はただ大きさだけを意識して作製していたのだが、ある程度できたものを現場へと持っていった時、今日使用する分としては必要な量を確保できていると知ったアレンは考え始めた。

 実際の最後の調整は現場で行われるため、アレンの手が及ぶところではない。しかしただ指定された形へと切り出すだけでは時間が余ってしまう。

 レベッカの商店の建築が早く出来るように、なるべく現場の手間を省いて短時間で家を建てさせるためにはどうしたらよいか、そう考えるとやるべきことは簡単にわかった。


「よし、仕上げ直前くらいまでしっかり加工した建材にするか。そうすると現地確認してどうなるか確かめねえと。あとニックにも聞いておくか」


 そんなことを呟きながら、アレンは建材造りを一旦とりやめ、完成時にあるべき姿を確認するために建築現場へと再び歩を進めるのだった。

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[気になる点] この妹、私はなんか、好きになれない 上手くやりすぎてる
[気になる点] 「~ため」の重複表現が多くて気になる
[良い点] これは一家に一台のドラあれんですね。 高い知力は最適化プロセスに真価発揮! [一言] アレンとマチルダはまさに私が憧れる理想の夫婦です。
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