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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第三章 悩める冒険者の万能生活
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第33話 検証も一段落して

 イセリアが去り、ジーンと2人きりになったアレンだったが、部屋に引きこもって研究に入ってしまったジーンに対して出来ることといえば食事など生活面でのフォローしかない。

 それがなければジーンは食事さえとらずに研究を続けてしまうだろうことを考えれば大切なことだとわかっているが、それ以外の時間はぽっかりと空いてしまっていた。

 椅子に座り、自分で淹れたお茶を飲みながらアレンがゆったりと体を休めながら考える。


「図書館に行くって気分でもないし、ジーンが外に行くこともないからそっちの必要もねえんだよな。となると適当に散歩とか雑事でも片付けるくらいか。あー、そういや一応片付ける必要がある物はあるな」


 適当になにかないかと部屋を見回しながらそんなことを考えていたアレンが、床に置かれた自らのマジックバッグを見つけて苦笑いを浮かべる。

 アレンが思いついた片付ける必要がある物とは、モンスターハウスのトラップを利用した時に倒した大量のモンスターたちだった。もちろん速度を重視していたため解体など行われておらず、素材となる部位もそれ以外もごちゃ混ぜの状態になってしまっている。

 22階層というそれなりに深い階層のモンスターであるため、ちゃんと解体などを行えばお金にはなるのだが、その量を考えたアレンはげんなりと表情を歪めた。


「1回につき50体近くいたよな。300回繰り返したし1万は軽く超えてるな。小型のモンスターばっかりだったとはいえ、さすがに手でやるのは面倒だし、ダンジョンで廃棄しようにもジーンがいねえと入れねえんだよな。うーん、とりあえず放置か?」


 むしろダンジョンから出る前に捨ててくるべきだったかと少し後悔しながらアレンが悩んでいると、玄関のドアが控えめにノックされた。

 イセリアが戻ってきたのか、とそんなことを考えながら立ち上がったアレンが玄関のドアを開けると、そこにいたのは思ってもいない人物だった。


「おはようございます。お義兄さん。ジーン君いますか?」

「おっ、フーノか。いるにはいるが、会えるかどうかは微妙だぞ。ついさっきまでダンジョンで検証してきたんだが、その結果を考察してる最中なんだ」


 ジーンの婚約者であり、同じ学生でもあるエルフのフルナゼーノに対し、部屋の奥の扉を指差しながらアレンが伝える。アレンの体越しに覗きこむような仕草でその扉を見つめたフルナゼーノは残念そうにしながらも、柔らかく微笑んだ。


「なら仕方ありませんね。ここ2日、ジーン君を見かけなかったので大丈夫かなと思ってたんです」

「あー、それはすまん。ダンジョンに行くことをフーノには伝えておくべきだったな。もしかして待たせちまったりしたか?」

「ちょっとだけですけどね。研究にのめりこんだジーン君が来ないことはたまにあるんで」

「ははっ、あいつらしいな」


 フルナゼーノのいかにも慣れたその答えにアレンは思わず笑みをこぼしたのだが、一方でフルナゼーノ自身は首をかしげて不思議そうにアレンを見つめていた。

 そしてその違いにアレンが気づく前に、フルナゼーノがその口を開く。


「なんでお義兄さんは、私が待ってたことを知ってるんですか?」

「えっ?」


 その問いかけにアレンが一瞬固まる。そしてすぐに自分の発言の拙さに気づいた。

 研究所に向かう時、ジーンとフルナゼーノが途中から一緒に通っていることをアレンはよく知っている。しかしそれはこっそりと尾行したからこそ知っていることなのだ。

 そんなことがばれたらどうなるか、そんな予測が一瞬の内にアレンの頭の内を駆け巡り、反射的に言い訳をしようとしたのだが何とかそれを思いとどまった。

 そしてフルナゼーノと同じような不思議そうな表情を作ってアレンが聞き返す。


「いや、婚約者なんだからそのぐらいするだろ。2人で仲良さそうに歩いてるのを俺も目にしたこともあるし、普段からそんな感じじゃねえのかと思っただけなんだが」

「あっ、見られてたんですね。そういえば本屋でお会いしたこともありましたし」

「そうそう。結構あの本屋、冒険者向けの本の品揃えがいいんだよな」


 瞬時に赤くなった頬を隠すように両手で押さえながら恥ずかしがるフルナゼーノを眺め、アレンが話題を逸らしつつ笑う。

 考えてみればアレンがジーンの後をつけたのはイセリアから聞いた謎の追跡者の話を確かめるためであり、なんら恥じることはないと気づいたからだ。ただ、そのことをむやみに知らせてフルナゼーノを不安がらせる必要はないと考え、少し言い方は変えていたが。

 可愛らしく照れ続けるフルナゼーノを眺めていたアレンが、ふと本屋の話題と目の前の光景からあることを思い出す。


「前に本屋で会ったときにお願いした魔道具の店の紹介ってしてもらってもいいか? ジーンがあんな感じだし、ちょっと暇になっちまってな。フーノの時間があるときでいいんだが」

「いいですよ。でもちょっと今は来週の学会で発表する先生のお手伝いをしてるので、午後遅くになってしま……えっとお義兄さん、今暇って言いましたよね」

「おう。ジーンの食事の世話くらいしか今のところ予定はないな」

「すみません。お義兄さんにこんなことをお願いしてしまうのは申し訳ないんですが、助けてくれませんか?」


 はしっ、とアレンの服を掴み、上目遣いで必死に訴え始めたフルナゼーノの姿に嫌な予感を覚えつつアレンが続きを促すと、フルナゼーノはとても言いにくそうにしながらぽつりぽつりと事情を話し始めた。


「私の師事している研究所の先生はとても優秀な方なんです。でもちょっとした悪癖がありまして、なんと言いますか、部屋中に研究について書かれた紙が散らばっているんです。必要なもの必要じゃないものごちゃ混ぜの状態で」

「はぁ?」

「いえ、普段は違うんですよ。物静かで穏やかな先生なんです。ただ学会前などの追い込み時期になると人が変わってしまうんです。突然、書いていた論文をばら撒いてみたり、切り刻んだりして」

「とりあえず、教会か医者に連れて行ったらどうだ?」


 あまりにも気違いじみたその内容に、アレンが思わず素でそう答える。部屋が汚い程度であればジーンのこともあり理解は出来たのだが、そのフルナゼーノが師事する先生の行動はあまりにおかしすぎた。

 少なくともジーンは研究に関する部分についてはしっかりとしており、研究に使う部屋はアレンが掃除する必要などないほどしっかりと整頓されているのだ。

 その先生とやらの態度ははっきりいってアレンの理解の範疇を超えていた。


「新しい良さそうな理論を思いつくと、机をまっさらにしたくなるんだそうです」

「いや、そう言われるとわからなくもない気もするが、さすがにやりすぎだろ。しかし助けて欲しいってのはもしかして……」

「はい、その紙を回収して整理して欲しいんです。先生にとっては途中で止めてしまった理論でも、他の人からすれば十分に価値があるものなんです。皆で出来る限り謝礼も払います。

ジーン君の部屋をこんなにきれいにしたお義兄さんの腕を見込んでぜひ!」


 自らの掃除の腕を買われて助けを求めたとはっきりと言われ、アレンが苦笑する。

 なぜ部外者で魔道具の知識もない俺にそんなことを、とアレンは疑問に思ったが、逆にそういう存在だからこそ情報漏えいの観点から見て頼まれたのかもと考えを改める。

 ぜひ、とは言うもののフルナゼーノの表情からは強制するような雰囲気は全く感じられず、本当に困っているんで出来たらお願いしたいというような懇願だけがうかがえた。


(そういや、学生も学生で発表があるってジーンが言ってたな。手伝いで自分の研究する時間が削られるのは厳しいよな)


 そんなことを思い出し、アレンが小さく息を吐く。その態度に断られると思ったのか、しょんぼりと肩を落としたフルナゼーノへアレンが歯を見せながら笑いかける。


「まあ、俺に出来る範囲でいいなら構わないぞ。報酬はとっておきの良い魔道具屋を紹介してくれ。ちょっと懐が寂しくなってきたから割引交渉できる店だとありがたいな」

「ほ、本当ですか。お義兄さんが思っているより、きっとひどいですよ」

「教え子にそこまで言われるってすげえな。とはいえ何とかなるだろ」


 完全に安請け合いであることはアレン自身にもわかっていたが、それでもジーンと暮らしていた経験、そしてなによりレベルアップにより上がったステータスさえあれば大抵のことはどうにかなるはずだとアレンは考えていた。

 フルナゼーノの肩をポンポンと叩き、アレンが笑みを深める。


「ジーンがなんとか人並みに生活できていたのは、フーノがたまにここに来て世話してくれていたからだろ。その恩を返したいし、なにより大切な将来の義妹の頼みでもあるしな」

「お義兄さん……ありがとうございます」

「気にすんなって。さて、行こうぜ。フーノの研究所ってどっちだ?」

「案内します」


 赤くなった頬を隠すように歩き始めたアレンを、フルナゼーノが走って追い抜いていく。そしてまぶしい笑顔を浮かべながらアレンの方を振り返り……そして足を絡まらせて転んだ。

 べちゃっ、という音と共に体ごと地面にダイブしたフルナゼーノの姿に苦笑いを浮かべつつ、アレンは愛すべき義妹を助けるべく足早に近づいていったのだった。

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[一言] 可愛いけど、このエルフ、メシマズ嫁なんだよなぁ…
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