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レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活  作者: ジルコ
第三章 悩める冒険者の万能生活
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第18話 村への帰還

 ライオネルとアレンが合流し、戦いの最中ではあるがほんの少しナジームやピートが表情を和らげる。しかしそれは一瞬のことであり、すぐにその表情は引き締められた。

 目の前で戦っていた数人は、ライオネルによって背後から切り伏せられて倒れているが、それでもまだまだ周囲にはかなりの数の不審者が残っているはずだからだ。


「ライ。奴らは武器に毒を塗っている。ナジームと共に防御に専念して。アレンはその人をここまで連れてきて、それ以降は僕たちの護衛を」

「わかった」

「おう」


 ピートの指示にライオネルとアレンが即座に応答し、それぞれが配置へとついて戦いに備えた。しかしそれ以上不審者たちの応援がやってくることはなく、遠巻きに見ていた者たちは森へとその姿を消していった。

 背後から回られ襲われるということを警戒してアレンは視線を周囲へと向け、耳を澄ませていたがなにも感じることはなかった。


「退いたか?」

「かもね。ライ、悪いけど倒した奴らの確認をしてくれる? ナジームはその援護を」


 アレンの呟きに律儀に返した後にされたピートの指示に従い、ライオネルとナジームが倒した不審者たちに近づいていく。そしてライオネルが確認を行い、すぐに首を横に振った。


「死んでるな」

「チッ、無力化を優先したとはいえ致命傷じゃない奴もいたと思ったんだが」

「ナジーム、代わるからこいつを見てみろ」


 そう言って下がって警戒を始めたライオネルに代わり、ナジームが目の前の不審者をしっかりと見て「げっ」と短く声に出して表情を歪める。

 目の前の不審者の右肩と両太ももには、その装備の隙間を縫うようにしてピートが放った矢が突き刺さっていた。しかし出血はそれほどでもなく、それだけでは致命傷にならないのは明らかだった。

 なにより、その不審者は口から血を流しながら死んでいた。


「マジかよ」

「思った以上に厄介な状況の可能性が高いな。ナジーム、死体をアイテムバッグに収容してくれ。俺は警戒を続ける」

「俺かよ。仕方ねえ。早くしないとゴブリンが襲ってきそうだしな」


 アレンの撒いた煙玉から噴き出した煙にまかれて混乱しているような声をあげるゴブリンたちの方へとちらっとナジームは視線を向け、そして不審者たちの死体を次々とマジックバッグに収納していく。

 そしてそれを終えた2人は即座にアレンたちのもとへと戻り軽く状況を説明すると、これ以上の厄介ごとを避けるために即座に森から出ることにしたのだった。





 なんとか何事もなく森を抜けることができたアレンたちは、ふもとの村へと戻ると村長に事の次第を説明した。

 自分の職務を全うするため死体の確認を行った村長が卒倒しかけるということもあったが、金級冒険者パーティである『ライオネル』が証言したということも大きかったのか疑われるようなこともなく納得はしてもらえた。

 納得はしてもらえたのだが……


「正直に言って、儂らの手には負えません。ゴブリンの集落があったというだけでも頭を抱えるくらいの問題ですし」

「だろうな」


 困り顔でそんなことを言う村長に、代表で話していたライオネルが同情したような目を向ける。

 ドゥル山脈を越える通り道となっているため少々発展しているとはいえ、ここはあくまで村なのだ。

 森から出てくるモンスターなどに対抗するための施設もあり、村人の中にもそれなりの戦力になる者はいるが、やはり普段からモンスターと戦っている本職の冒険者に比べれば見劣りするのは明らかだった。


 期待に満ちた目をライオネルへと向ける村長の姿に、ライオネルの頬がピクリと動く。

 それが何を意味しているか察しながらも、それ以上のことをライオネルは言おうとはしなかった。


 斜め横からそれを見ていたアレンは苦笑し、チラリとイセリアへと視線を向ける。

 それに気づいたイセリアがしばらく考えるような様子を見せ、そして小さくうなずくのを確認したアレンは口を挟むことにした。


「じいさんには俺から言っておくから、しばらくこの村に留まったらどうだ?」

「しかし、依頼が……」


 そう言いながらも苦渋の表情を見せるライオネルに、アレンが気楽な様子で言葉を続ける。


「気になるんだろ。この村のことが。それに死体を抱えたまま動いたら、それを取り返すために奴らが襲ってくるって可能性もあるだろ。日程に余裕はあるし、依頼を安全にこなすことを考えれば悪くない選択肢だと思うぜ」

「ギデオンさんであれば笑って許してくださると思いますよ。ポーションの研究に使えるような空き家でも用意していただければむしろ喜んで」

「そ、それであれば数か月前に町に出ていった者が住んでいた家があります。村で管理しているのですぐにでも使えるように準備をさせていただきますので、なにとぞ」


 アレンとイセリアの言葉を聞き必死の表情をしながら見つめてくる村長の姿に、ライオネルが眉根を寄せる。

 そして隣に立つナジームとピートへと視線をやり、二人がうなずいたのを確認すると身近な者にしかわからない程度に頬を緩めながら口を開いた。


「……わかった。だが先に依頼人の承諾を得てから返事をさせてもらう」

「おぉ、ありがとうございます、ありがとうございます!」


 村長に熱烈に手を握られたライオネルが困った顔を浮かべながらも、どこかホッとした様子で息を吐く姿を眺めながらアレンが小さく笑う。そんなアレンの姿を見ていたイセリアが柔らかく微笑んでいることに気づかないまま。





 村長の家から出て宿に帰ったアレンたちは、ギデオンに経緯を伝えて村への滞在延長の許可を取った。

 ギデオンは怒るどころか空き家を確保したことに歓喜し、さっそく出かけようとするのを止めるのに苦労したくらいだった。まだ家の掃除などが済んでいないからとアレンが言ってなんとか納得させたが。


 そして貸し切った宿の食堂において、村に残っていた魔法使いのパーシーや神官のトリンとも情報の共有を終えたのだが……


「それで私はどうしたらいいと思いますか? いえ、皆さんにどうにかしてほしいというわけではなくて、あくまで参考にお聞きしたいのですが」


 そう切り出したセリオノーラに皆が一様に沈黙する。情報を整理する中でもちろんセリオノーラの事情についても皆は知っていた。

 とは言えその情報は限りなく少なかったが。


 ヴェルダナムカ大樹林にあるエルフの集落に住んでいたというセリオノーラは、集落の外に木の実を採りに行ったときに何者かに襲われたらしかった。


 らしい、というのはセリオノーラ自身はその姿を全く見ておらず、途中で幾度かぼんやりと意識は戻ったような気もするがそれが夢だったかもわからないという状態だったからだ。

 そしてはっきりと意識を取り戻した時にはゴブリンたちに運ばれている最中だったというのだ。


 そりゃあいきなりあんな状況だと気づいたら必死で悲鳴をあげるよな、と考えつつアレンはライオネルの様子をうかがう。

 セリオノーラだけでなく、皆の視線を受けたライオネルは迷いのない口調で話し始めた。


「もちろんこのまま置いていくなどということはしないつもりだから安心してほしい。とはいえ俺たちもまだ先行きが見えていない状況だ。この村に留まる数日間のうちにより良い方法を探そう」

「そんな、助けていただいたライオネル様にそこまでしていただくわけには……」


 ライオネルの手を取って感動した様子で目を潤ませながら、小さく首を横に振って遠慮するセリオノーラの姿に、徐々にではあるがライオネルの頬が赤くなっていく。

 その反応を面白く見ていたアレンだったが、ニコリと笑顔を浮かべるイセリアにとんとんと肩を叩かれ傍観するのを止めて助け舟を出すことにした。


「気にすんなって。名前にノーラってつくんだからセリオノーラはリサナノーラの部族の一員だろ。俺やライオネル、そしてこいつらもリサナノーラには昔世話になったんだ」

「リサナノーラ叔母様のお知り合いでしたか」

「うわっ、あの容姿で叔母さんなんだな。リサナノーラって」


 エルフの名前の後半部分は部族名を表すことをアレン自身、リサナノーラから聞いており、さらに言えば顔がそっくりだったことからしても二人は親族ではないかと予想していたのだが、さすがに10代に見える姿で叔母さんと呼ばれたことにアレンが衝撃を受ける。

 しかしその衝撃は次に投下される爆弾に比べれば些細なことだった。


「もう100年近くも帰ってきていないんで、叔母様の旦那さんがちょっと寂しがっているんですよ」


 ゴンっ、という机に頭を打ちつける音が食堂に響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ百年単位で家に帰らない人だから、人妻でも火遊びで人の一生分くらいは隣にいてくれそうではある。一生童貞で終わりそうだけど
[一言] まぁ人妻って色っぽいもんな。 知らんけど
[一言] 100年以上帰ってないことを知ってるってことは、この人もそれだけの年なんだね
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