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26 撃退

 突如として俺たちの前に現れた金髪の男。

 その男を見て、紫音が嫌そうな顔をしていた。


「知り合いか?」

「はい。わたくしは普段、魔術師であることを隠して普通の学校に通っているんですが……そこの同級生なんです」

「運命がどうこう言ってるが、そういう関係ではないんだよな?」

「も、もちろんです!」


 となると、一方的に絡まれているといった感じか。

 追い払うのは簡単だが、別の場所で接点があるなら、あまり乱暴にするのもあれだ。

 どうしたもんかと頭を抱えていると、男は少し苛立った表情で俺を見た。


「ところで、君は一体誰だい? 紫音は僕のものだ。彼女に気安く話しかけないでもらえるかな?」

「紫音はものじゃないし、ましてやお前のなんかじゃない。思い違いをするな」

「なんだとぉ……?」


 紫音がもの扱いされたことに対し、思わず苛立ちを覚えてそう忠告する。

 男の眉がピクリと動いたかと思えば、敵意を隠そうともせず俺を睨みつけてくる。

 そして。


「舐めた口をきいてんじゃねえ!」


 そう叫びながら、俺に殴りかかってきた。

 周辺で俺たちの様子をうかがっていた野次馬たちが、「きゃあ」と悲鳴を上げる。

 だが俺や紫音は動揺しなかった。

 当然だ。その動きはあまりに遅すぎた。


 スッとスライドして拳を躱した俺は、そのまま男の手首を掴む。

 そして相手の勢いを利用するようにして投げた。

 男には何が起きたか理解することもできなかっただろう。


「ガハッ!」


 背中から床に叩きつけられた男が、苦しそうな声を上げる。


「てめぇ! 誰に手を出したか分かってんの――」


 立ち上がりながら、俺に向けて食い下がってくる男。

 しかしその言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 俺が軽い殺気を男に放ったからだ。


「どうした? 最後まで言わないのか?」

「ひ、ひぃっ! くるな!」


 一歩足を踏み出すと、男はその場に尻餅をつき後ずさる。

 あまりにも哀れだった。俺は一つため息をつき、殺気を消す。

 すると、


「う、うわあぁぁぁっ!」


 俺を恐れるようにして、全速力で逃げていくのだった。


 その後ろ姿を見ながら、俺はやってしまったと思った。

 穏便に済ませるつもりが、つい怒りをぶつけてしまったと。


 少し気まずさを覚えながら、俺は紫音を見る。


「悪い、紫音。やりすぎた。紫音に迷惑がかかるかもしれない」


 そう謝ると、紫音は目を丸くした後、微笑みを浮かべる。


「いえ、謝る必要はありません。アルスくんが怒ってくれて、わたくしはすごく嬉しかったです」

「紫音……」


 紫音の優しさに心打たれていた次の瞬間。

 周囲にいた者たちがパチパチと拍手を始めた。



「すげぇ! なんだ今の動き!」

「彼女を守るために戦う彼氏なんて素敵!」

「ああ、良いものを見せてもらった!」

「「――――――ッ」」



 想像以上に注目を集めてしまっていた。

 俺と紫音は顔を見合わせた後、顔を赤く染め、急ぎ足でその場から去るのだった。

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