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25 デート

 紫音が連れて来てくれたショッピングモールという場所はかなり凄かった。


 まず、人について。

 全員が貴族なのかと思えるほど整った服装をしているが、紫音に聞いたところ、どうやらこの国ではあれが普通の恰好らしい。


 そして建物についても。

 こちらについては、もはや俺の想像をはるかに上回っていた。

 自動で動く扉に階段、どれだけ高名な鍛冶師が作ったのか透き通る透明な壁。

 このどれもが魔力を使用していないというのだから驚きだ。


「アルスくん、すごく驚いているんですね」

「ああ。とんでもないぞこれは。ここが異世界だってことを、改めて思い知らされた気分だ」


 素直にそう答えると、紫音はくすくすと笑う。

 とはいえ馬鹿にされているのではなく、微笑ましいといった感じだ。

 なんだか少しだけ気恥ずかしさを覚えるが、紫音が笑ってくれるのならそれでもいいかと思う自分がいることに驚いた。



 その後、とりあえずは目的地を決めることなくショッピングモールの中を歩いていると、周囲が俺たちを見て何かを呟いていた。



「見て、あの二人! すごい美男美女のカップル!」

「男の人は海外の方なのかな? 女の子はまさに大和なでしこって感じで綺麗だけど。凄くお似合いね」

「くそっ! 一度でもいいからあんな可愛い子とデートしてみたかった!」



 どうやら、変な注目を集めてしまっているみたいだ。

 人目を避けた方がいいだろうか?

 そう思い紫音に視線を向けると、彼女は両手を頬に当てて顔を赤くしていた。


「そ、そんな。お似合いのカップルだなんて……わたくしたちはまだそんな関係じゃないのに……」


 ふむ、どうやら自分の世界に入り込んでしまっているようだ。

 というか、「まだ」ときたか。


 ……やっぱり、そういうことなんだろうな。


 ここ数日、同じ時間を過ごす中で、紫音の気持ちにはなんとなく気付いていた。

 もちろん、自分自身の気持ちにも。

 ただ、その想いを伝えるにはいくつかの障害がある。


 紫音の実家である一ノ瀬家は名家だという。

 そんな家の娘と、俺のような異世界からやってきた不審な男が一緒になれるなどありえない。

 向こうの世界で、家のしがらみによって実らなかった恋を幾つも見てきた。


 だからだろうか。

 この期に及んで、俺はまだ紫音に自分の想いを伝える気はなかった。

 自分に、誰かを幸せにできる力があるとは思っていないから。


 と。そんな風に、似合わないことを考えていた時だった。


「おや? 紫音じゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だね。やっぱり俺たちは運命の糸で結ばれているんだよ!」

「……は?」

「……うわぁ」


 突如として、俺たちの前に金髪の男が現れて、紫音に向かってそう告げたのだった。

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[一言] 勇者の顔はアメリカ系ですか?
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