21 魔力感知
「ま、ままま、魔力をですか!?」
「……? ああ、そうだが。それがどうかしたのか?」
「い、いえ、何と言いますか……」
答えにくい話題なのか、紫音は口を閉ざす。
「何か都合が悪い理由があるんだったらやめとくけど」
「っ、いいえ! ぜひやってください! 覚悟はできました!」
何を覚悟したのかはわからないが、そこには触れない方がいいのだろう。
とにかく、俺は紫音に魔法を使うコツを教えることにした。
俺は右手を紫音に差し出す。
それを見た紫音はビクッと体を震わせた。
「魔力を注ぐには、肌と肌を触れ合わせる必要がある。紫音の手を握ってもいいか?」
「も、もちろんです」
紫音は恐る恐ると言った様子で俺の手を握る。
さっきは元気いっぱいで勢いよく握っていたのに、随分な変わりようだ。
「――――ッ」
ただ、それは俺も同じだった。
柔らかく、きめ細やかな紫音の手。
改めてその感触を意識すると、少しだけ鼓動が早くなる。
だが、これはあくまで魔法の使い方を教える過程での出来事なんだ。
俺は一度深呼吸した後、さっそく始めることにした。
「本来ならば、夫婦でしか行わないはずの行為を、今からアルスくんとするだなんて……」
「じゃあ、そろそろ始めるか」
「っ、は、はい!」
何かをぼそぼそと呟いていた紫音に向けてそう言った後、俺は魔力を流し始める。
「あっ、これは……」
「分かるか? 自分の中に他人の魔力が入ってくる感覚が」
「は、はい」
それが分かるなら話は早い。
他人の魔力という異物が魔力に入ってくることによって、本来自分が保有している魔力がさらに際立つのだ。
その魔力を自由自在に操ることこそ、魔法を使うための条件だ。
「なら、次は自分の魔力に意識を集中させるんだ。普段よりも際立って感じるはずだ」
「……わかりました。これですね」
「そうだ。普段、紫音はその魔力のうちの表面しか使用できていない。今、本質を掴むんだ」
「はい!」
それから10分ほどかけて、魔力の存在を紫音に知覚させる。
紫音が集中するのはもちろんだが、俺もかなり集中していた。
この方法は、相当うまくやらないと魔力が混ざり合って大変なことになる。
だが、俺なら問題なくやりとげられる。
「よし、そろそろいいか。魔力を止めるぞ」
「……はい」
「っ、大丈夫か!?」
集中力が切れたのか、ぐたりと倒れる紫音。
俺はその体をしっかりと支えた。
「自分の魔力を認識するというのは、想像以上に大変な行為だったんですね」
「ああ。でも、よく頑張ったな、紫音」
「えへへ……ありがとうございます、アルスくん」
「――――ッ」
疲れ切ったせいか、いつもより子供っぽい笑みで礼を言う紫音。
どうしてだろうか。
その笑顔を見て、俺は自分の心臓の鼓動が一気に早まったことを理解するのだった。