穂花へ
僕には幽霊が見える。
「ねぇ、ねっ!私の事今も好き?」
「うん。好きだよ」
そう答える僕の目の前には、白い肌に艶のある黒い髪が綺麗な彼女がいる。
自分から聞いてきたのに、照れた様にはにかんで笑う彼女はとても可愛い。
「じゃあいつ結婚する?」
「僕はまだ17歳だよ」
「むぅー。そこは、18歳になるまで待ってくれ。って言う所でしょ」
「まだまだ先の話じゃないか」
「あら。三ヶ月なんてあっという間よ」
宙でクルリと回転して得意げに胸を張る彼女に、僕はやや呆れ気味に返事をした。
「何処で僕の誕生日を調べたんだよ」
すると、彼女は落胆する様に肩を落とした。
「ごめんね。気持ち悪かったよね?私舞い上がっちゃって、気が早っちゃった」
僕は彼女の表情に、慌てて被りを振った。
「さっきも言ったけど、僕は穂花の事が好きだ。穂花は穂花らしくいてくれ」
「私らしく?」
言葉の意味が分からないと言いたげな声音で、彼女は僕の目をじっと見つめた。
「そんなの無理だよ。私はもう、君が知ってる私じゃないんだよ。君に触れたいって、気持ちが騒ぐの」
そう言った彼女の目は儚げに潤んでいた。
だけど、僕は耐えきれずに吹き出す。
「ごめん。だけど穂花は何も変わってないよ」
クスクスと小さく笑い声をこぼした僕を、彼女は目を丸く見開いてキョトンと見つめてくる。
「だって僕の知ってる穂花は良く笑って、良く無茶を言って、良く後悔して、良く一人で悩んでる。穂花は紛れもなく、今も昔も穂花だよ」
僕は彼女に笑いかけた。
「それに僕も穂花に触れたいって、気持ちが騒いでるよ」
はにかむ僕。
彼女の顔は耳まで真っ赤に染まって、ポロポロと潤んだ瞳から涙が溢れている。
「僕が18歳になるまで、待ってくれるかな?」
不安な表情で僕が言う。
「……はいっ。君の事が好きだから、私はいつまでも待ってるよ?」
彼女は向日葵の様に綺麗な笑顔を、僕に向けてくれた。
僕には幽霊が見える。
それも、幸せそうに笑う可愛い彼女の幽霊が。