新しい杖
食堂の端っこ。そこで猫のキグルミを着た俺は、アクセルだけに報告する。「あ、あのね…。わ、私の杖が盗まれちゃったみたいなの!」と。
「な、何だとっ!? ギルド内でか? ゆ、許さんぞっ!!! 見つけ出し、殺してくれるわっ!」と血管がブチ切れるほど激怒したアクセルの腕を引っ張る。
「い、良いのです。わ、私の杖で、その人が…少しでも幸せになれるのなら…。それに、犯人探しはしたくないのです」と泣きながら訴える。勿論、泣いているのは、天使の杖のイメージ映像だ。
「ニ、ニーナちゃん…君は、本当に天使だ…」とアクセルは号泣する。
ふむ。これで俺が杖を持っていなくても、怪しまれることはない。
「よ、よし! お、俺が、新しい杖を買ってあげよう!!」涙と鼻水まみれの汚いアクセルは、俺の腕を掴むと、ギルドを出て武器屋を目指す。
「ま、まだ…お店も開店前ですね」そりゃそうだろう? 朝6時だもん。それよりお腹減ったな…。
ドンドンドン! 「おい、オヤジ!! 開けろっ! 俺だ! アクセルだ!!」とドアを叩く。
すると店の中から、「何だよ、煩い…。お、おはようございますっ!! アクセル様。こんな早くから、如何なさいましたか? ま、まさか…うちの新人が何か…ヘマでも??」
アクセルの顔を見るなり、態度を急変させた店主。そうだよ、こいつは俺に、武器に触ることすら許さなかった、最低の商売人だ。
「うむ。一大事だ。このニーナの杖が盗まれてしまってな。大至急、代わりの杖が必要になったのだ。朝早くて申し訳ないが、店にある杖を見せてもらいたい」
チラリと猫のキグルミを着た俺を一瞥する店主、俺がアクセルのお気に入りだと察して、「それは大変でしたね。今すぐ、店を開けますので!!!」と開店準備を始める。
俺とアクセルで、杖を見ていると、店主が奥から秘蔵の杖を三本取り出してきた。
・清流の杖 … 前人未到の渓谷に流れる清らかな水のように魔力を聖属性に変換する
・星屑の杖 … 古代帝国に落ちた星の欠片を高密度の魔力で圧縮した軌跡の杖
・紅き宝石の杖 … 魔法の杖と言うより装飾品であり、その財力を証明する杖
「ニーナ様には、この三本の杖が、よくお似合いかと…」ニヤリと笑う店主。
「そうだな…どれが良い?」とアクセルが聞いてきた。
「い、いえ…。こ、こんな…効果な杖、わ、私は、まだLv1です。そこのバーゲンセールの杖で、十分です」一応、質素倹約なロリっ子を演出しないとね!
「ふふ、ニーナは本当にキャワワだな。いいかい? 我がファイブスターにいれば、嫌でも高Lvになるんだ。そのとき結局、これらの杖を買うことになるんだよ。今買っても同じさ。そうだなぁ、清流の杖にしよう。これを買おう」
「毎度ありがとうございます! 76,000,000バールでございます」
はいっ!? 何その値段??? 5バールあれば、一日暮らしていけるのだ。驚きを通り越して、また聖水を漏らしそうになる。
アクセルは、しばらく固まっていた俺の頭を、ポンポンと叩く。「どうした? ほら、誰かに何かをもらったら、何て言うのかな?」と聞いてきた。
キモい…。でも…。財力だけは素直にすごいと思った。
「あ、ありがとうございます。アクセルさん」