操者の陰謀~見えるは、影~
「な……ッ、姜維殿! 今兵を退くなど正気ですが! やっと敵本陣を包囲出来ているというのに! 彼らを討ち果たせば――」
「山頂に布陣すれば誰でも包囲出来る。水路を断ち、孤立させればいいのだからな。とにかく、黄皓、貴様は軍事の事などこれっぽっちも知らないのだから、貴様は黙っていろ」
あと我らは戦をしに来たのではないぞ、と一言注釈しておいた。奇妙な事件、それは何処かで既視感があった。ここ最近平穏だったためか、何だか忘れているような――。
「そういや奇妙な事件って数ヶ月前、成都で起こった事件に似てるような……」
あの時、劉備様や姜将軍達が大怪我して帰って来て大変だったっけ。と夏侯覇は口元に人差し指を添えて口に出した。
数ヶ月前、成都を騒がせた事件。姜維の人生が変わる事となった事件。核――ジエジンである。姜維は元姫の罠に嵌まり、彼女のために核を探す事となった。確かに、夏侯覇の言う通り、今回の事は奇妙だ。そしてその奇妙さは何処か核に似ている。
「核か」
姜維と司馬昭は声を揃えてそう告げた。核?何すか、それ。夏侯覇は疑問を示し、黄皓はわかるように説明をしろという視線を司馬昭に送っている。司馬昭が知っている理由は、彼が司馬一族であるからだ。元姫は核の事で司馬一族から追われている――らしいが、状況など姜維は詳しく知らない。元姫からは軽くしか聞いていないからだ。
しかし核となると急いで止めなければならない。止めなければ、三国の均衡は崩れ去るからだ。核はそれほどに脅威となっている。
「確証は……ないが可能性はあるな」
調べてみる価値はある。脅威は腕を組み、司馬昭に視線を向けて頷く。核でなくとも、調査しないと終わらないのだ。
「じゃ、とりあえず蜀の方で調べてくれよ。魏の方でも調べてみるからよ」
「司馬昭殿、先ほどから話が見えないのだが、説明していただけないのですか?」
黄皓は怒りを見せ司馬昭に迫る。だが司馬昭は言う気すらないようだ。いや、説明をどうしたらいいものか。黄皓は一応、核の存在を認識しているがそれが「核」だという事は知らないだろう。誰かが説明していたら楽なのだが。また夏侯覇も然りだ。夏侯覇の場合は、ただ事件として概要は知っている、というレベルだが。
「あー……説明するの難しいんだよなあ……」
どうしたものかと司馬昭は少し口角を引き上げては右頬を指で数回掻いた。そんな時だった、蜀軍の伝令が飛び込んで来たのは。
「伝令! 呉が天蕩山を急襲! また合肥が呉によって攻められている模様!」
「何だって!?」
天蕩山、漢中にある山の一つである。それは戦での要所となる。陣を見渡せるなどその他優位にも立てる場所である。そこを襲われるのは痛い。それ以前に呉が何故蜀を襲うのか、だ。呉は政争が終わって落ち着きを取り戻していない。太子廃立争いを繰り広げた呉は、孫権が引退、二人の太子は処罰され幼い皇帝が帝位に就いたばかりである。
それなのに蜀を襲い、魏を攻める。如何にも信じがたい事態である。
「どうなってんだ、全く」
「司馬昭殿、まずは全軍の撤退を。維、お前は天蕩山の呉軍を撃退しなさい。合肥には俺の部隊が先行して行きましょう」
司馬昭の傍に控えていた男がそう告げ、姜維も司馬昭も頷く。今はそれが最善か。一先ず司馬昭との話し合いは終え、彼は陣幕から去り、姜維は夏侯覇に命じて天蕩山への援軍として彼を送る。
「ふ、ふん、やっと呉が姿を現したか! 伝令よ、呉軍はどれほどだ?」
「それが二万程度ではないかと……」
「貴様伝令だろう。自分の仕事くらいしっかりと全うせい」
伝令は謝罪しながら姜維へ視線を送る。助けを求めている視線に姜維は溜め息を吐いた。そんな事のために居るのではないのだが。
「三方面から挟撃する。山道を通って騎馬隊で呉軍の襲撃を。夏侯覇の部隊が先鋒として向かっているから、きっと兵力には問題ない。馬超殿、趙雲殿、張飛殿に伝達を」
「はっ」




