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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
序章 戦場に帰す
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操者の陰謀~乱世の片隅~

章を二回ずつに更新

相変わらずぐだってます

謎いっぱい、キャラいっぱい

 不可侵条約を結びましょう。

 そう言ったのはいつだったか。気が遠くなるほどでもないが、相当昔だった気がする。魏の大将軍たる司馬昭が提案し、劉禅に約束を取り付け、断る呉を武力で押さえつけては結ばせたのだ。三国の発展のために。

 侵略せず、お互い助け合い、危機が迫れば参じる。

 これを破った時、二国が前と後ろを突く。この大陸に建つ三国の運命は正に同じだ。

 だが不可侵条約は過去に一度破られている。

 天水の四姓の一つ、姜維によって。

 しかし、それも蜀が領地を魏へ戻す事によって姜維の処断はなくなった。蜀としても姜維のような名将を亡くすのは惜しい――のではなく、今後のために置いておきたいのだ。

 そして現在、魏は蜀と争っていた。司馬昭は曹叡からそれを命じられ、兄の司馬師と共に出陣している。

「どう見えますか、子元兄様」

 魏軍本陣内。司馬昭は司馬師と共に机を見つめていた。正確には机の上にある地図だが。そこには筆で様々な文字が書かれている。現在の蜀の状況である。「そうだな」と司馬師は腕を組んで考え込む素振りを見せた。

「こちらとして兵の数は多くない。いつものような小競り合いならまだいいが」

 小競り合いは不可侵条約を結んでから度々起こっている事だ。不可侵に納得しない兵士達が起こしている。姜維が不可侵を破ったのも、兵士達の不満を国内へ向けないために一度戦をして兵の不満を外へ向ける事を考えたのだろう。あの少年はそういう性格だ。

 しかし、今回は違う。

「先鋒の姜維に我が軍は破られているか。士気は向こうが高く、更にこちらは馬鹿将軍が山頂に布陣し、孤立している……水路を断たれる前に周辺の蜀軍を撃退せねばならぬな」

「しかし、蜀帝がこれを、昭烈帝(劉備)が見過ごすとも思えませんが」

「ああ、だからこそ真意を確かめなければならぬ。我らは帝のためにも、乱世へ戻す事はあってはならぬのだからな」

 鼎立の時代、乱世はもう遠い昔の事だ。曹操や劉備達からしたら、戦は懐かしいものだろう。昔は争い続けた彼らも、今では月に一度会っては飲み交わし、お泊まり会なるものを開いては余生を漫喫している。元々曹操が劉備を気に入っているというのもあるが。

「じゃ、この司馬昭様が様子見してきますよ。伯約(姜維)にもちょっと話を聞いてきましょう」

 どうせ伯約とは顔見知りですしと司馬昭は司馬師に告げ立ち上がる。姜維は元々魏の人間だ。昔から顔見知りで仲が良かった。今はもちろん、言うまでも無い。

「子上、貴様の意見も聞きたい」

「そうですね……自分は、何か……別のものを感じますね。例えば……」

「陰謀、か?」

 それに近い何かですが、と司馬昭は再び木製の椅子に座り直した。

「理由としては伯約が戦を仕掛けるという事は現段階でないと言ってもいいです。蜀は先日の呉の政争を魏と――文帝(曹丕)や蔡文姫殿達と共に処理していますし、お互いがお互いに恩義がある。それに現在、魏蜀の役人達は兄様も知る通り、呉の国力回復に尽力しています。互いを攻める事は難しいでしょう」

 それに以前不可侵を破った事もあり、姜維は内部で警戒されているはずだ。だからこそ姜維は成都の守りに就いている。内政を学ばせたい蜀の意向なのかわからないが。

「次、伯約が不可侵を破る時は、鼎立が崩れる時でしょう。今はその時ではありません。じゃあ呉か、と思いますが、それこそ有り得ない」

「政争の痛手は大きかったようだからな」

「ええ。だから、疑問が残るんですよね」と司馬昭は机に顎を乗せて脱力する。目の前の司馬師に右脚を蹴られたため、即座に背を正した。

「ま、それも、いずれ判明するでしょうし……使者として指揮官に会ってきます」

 司馬昭はそれだけ言い残し、数人の兵士だけを連れて陣から去って行く。

 戦場に帰すか、平穏に帰すか――それは司馬昭の手にかかっていた。だが夜明けは近いのもまた事実である。ただ、乱世に戻らない事だけを願う。

 それが父の愛した人の願いだからだ。


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