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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
終章 劉玄徳と人間
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幻影の焔~次なる地は、曹魏~

「ダメよ、姜維殿。陸遜殿の事は、後処理は私達に任せて。気になる事があるでしょうけれど」

「……陸遜はまだ、何か隠している……そんな気がするんだ。元姫殿、私は彼にもう一度会わなければならない。彼の中にはまだ――」

 元姫に人差し指で唇を押さえられ、寝台へ倒された。長い髪が舞い、寝台の上に散らばる。いいから、あなたの仕事は今休む事よ。そんな事を言われ、姜維は寝台に沈む。元姫が居る間、この部屋から出られる事は無さそうだ。仕方なく、今回だけはそれに甘んじる事にした。

「姜維殿、私、実は後悔していたの」

 元姫は近くに置かれていた木製の豪華な椅子を寝台の横に持ってきては腰掛ける。彼女の言葉の意味がわからず「どういう事だ」と姜維は問い返した。

「あなたを、選んでしまった事。……数ヶ月前、あなたと天水で、あなたの母君の墓前で会ったのは私が全て仕組んだ事。でも、今になって思うわ。あなたの人生を歪めて良かったのかと」

 確かに騙されて核を探す手伝いをする事になった。もちろん最初は嫌だったが、今ではそれが日常となっているため手伝っている。元姫はその代わりに姜維の護衛をもう一人の護衛と共にしてくれているし、仕事を手伝ってくれている。今のところ不満は――あるときはあるが、もうそれもどうでもいい事だ。

「姜維殿、本当なら私は……別の人物を核探しとして当てる予定だった。でも、その人物は病に蝕まれていた。刹那の命に私は同情したの。そんな時、ちょうど蜀からあなたが来た。蜀の人間なら構わないと思ってしまった」

 ごめんなさい。頭を下げて謝罪される。だが今更の事である。姜維は元姫に頭を上げさせる。騙された事は変わりないが、彼女と居て別に楽しくなかった訳ではないのだから。

「今更だ。それに、最後まで付き合うと決めたからな」

「姜維殿――」

「それに、私もあなたに助けられている。それは変わりの無い事実だ」

 いつも助かっている、ありがとう。

 今まで口にしなかった言葉を口にしてみた。すれば少し俯いていた元姫はすぐに顔を上げた。

「そうよね、そう思えばそうだったわ。今更謝る事もなかったわね、先ほどの言葉訂正させて頂くわね」

 前言撤回、やっぱりこの女嫌いだ。姜維は何かを言おうと口を開くが、それを遮るかのように扉が開いた。夏侯覇である。手には竹簡を一つ持っていた。ああ、そうだ、やるべき事を思いだした。姜維は痛みを耐え寝台から起き上がり、夏侯覇へ向けて恐ろしいほどの綺麗な笑みを見せる。

「夏侯覇殿、少しお話があるのですがいいですか?」

「ひえ……ッ、わ、悪い、俺、用事を思い出したぜ……っ」

 姜維は元姫の制止も聞かず、足を踏ん張っては立ち上がり、夏侯覇が背を向けたのを確認しその背中に跳び蹴りを食らわせた。後ろから彼へ跨がれば顎の下で両手を組み合わせて引っ張る。骨が軋む音が響くも姜維は気にしない。こんな事で倒れるような男ではないのは、姜維が誰よりも知っている。

「誰が、友達出来ないって?」

「あああああああッ! 痛だだだだだだッ!」

「あと貴様は親友ではない。私の便利な小間使いだ。いいな?」

「わかった、わかったから! ほら、文帝から竹簡を貰ってきッぁアアアアアッ!」

 叫び声が聞こえなくなり姜維は彼を解放する。地面に倒れ伏す夏侯覇から竹簡を奪い、立ち上がってはそれを読む。そして、小さく口角を上げた。顔には出ていなかったが。

「核の可能性あり。魏の宮中内部――」

 姜維はその竹簡を片手で捻り潰す。次の舞台は、曹魏。ついに本拠地へ戻る時がやって来たか。姜維にとっての故郷で、憎き相手で、そして大切な人々が住む曹魏。

 次もまた荒れそうだ――。姜維は日が落ちていく空を、漆黒の瞳で見つめていた。


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