幻影の焔~幼き日の羨望~
姜維は歌妓の踊りに合わせて乗せられる音楽に言葉を混じらせる。
「策が? あの場に居たのは私達だけですよ。その後に曹叡殿や鄧艾殿と鍾会殿、それに馬超殿、馬岱殿に話しはしましたが」
「呉の人間には?」
「手伝いも必要ですから、陸遜殿と練師殿にお願い致しました」
呉の人間に話したのはバレないためである。そのため、一応頼れる人間二人に頼んだ。そのお陰で呉の人間にバレる事はない。姜維と趙雲の傍に佇む女官や侍女、歌妓も練師に仕える女性達だったりする。そのため彼女達は全て知っている――かは不明だが、酒を注ぎはするが下手に関わろうとはしなかった。蔡琰との会話も聞き流してくれている。
「何処かから漏れた……と考えるのが妥当でしょうか」
「そうですね。……姜維、あなたがもし敵ならどうしますか?」
難しい質問だった。姜維は口元に手を添え考える。己が敵であるなら、恐らく――。姜維が口を開く前に、蔡琰は姜維の杯に酒を注ぎながら言葉を紡いだ。
「私がもし……劉禅殿や曹叡殿を狙う立場であるならまず情報を引き出します。そのためには魏や蜀内部に入り込むか、信を得なければなりません。それか、信を得ている者と繋がるでしょう。そして、信を得ている人物を欺き情報を得る――そっちの方が確実でしょうか」
「では蔡琰殿は……伯言殿と練師殿が騙されたと?」
それはわかりません、と蔡琰は首を左右に振り酒を満たした酒器を腰ほどまでしかない小さな机――案へ置いた。
「ですが、可能性はあるでしょう。呉の人間と言っても所詮は敵と同じ。私は練師殿や陸遜殿を信じている訳ではありませんから」
「随分と冷たいですね、蔡琰殿」
「当たり前でしょう。子桓殿やあなた、それに元姫殿、劉備殿に諸葛亮殿、劉禅殿、陛下――私は大切な人を傷付けられて許すほど優しくはありませんよ」
昔から官吏達の子供を世話する侍女として動いていた蔡琰の性格は、姜維もよく知っている。ただ優しいだけではない、ただ強いだけではない。彼女は奥に潜めた強さがある。
「それに、私は優しくありませんよ、姜維」
「そうですね。あなたは昔から厳しかった。でも、誰もがあなたに憧れた」
「そういえば、昔は私に結婚を申し込んでくれましたね、姜維。恥ずかしそうに百合の花を渡して来たあなたを今でも鮮明に覚えていますよ」
「ッ、そ、それは忘れてください!」
一気に顔が紅に染められる。手で口を隠し小さく笑う蔡琰。ああ、本当に意地悪だ。だからこそ幼い頃は彼女に惹かれたのだろうが。
そんな時に蔡琰の後ろに一人の男がやって来た。武官の服装を纏った男、夏侯覇は室内で演奏される音楽に声を乗せ話し出す。
「陛下、蔡琰殿。陸丞相(陸遜)が陛下とお話がしたいと面会を望んでいますが、如何致しますか」




