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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第四章 陸伯言の決断
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幻影の焔~静寂なる世界~

蔡琰の言葉に「ええ」と済ました顔で頷く諸葛亮。姜維は口元に手を添えて頭を回した。ただ護衛するだけでは意味がない。核が影響していない今、呉は本気で狙いに来るだろう。なら、護衛は無用。となると武器となるのは――。

「姜維、何か策があるのですね」

「はい、孔明様」

 姜維は少し俯かせていた顔を上げ口元から手を離す。

「祝宴で襲われる事は明白。ならば、私と趙雲殿で身代わりを致します。私が主公の、趙雲殿が曹叡殿の身代わりを」

「なるほど、背丈も同じくらい――……では姜維、今から身長を八尺(一八五センチ)くらいまで伸ばして来てください。呉には拷問道具もありま――」

 横から劉備が諸葛亮の頭を叩き彼は羽扇を床に落とした。「我が君、冗談ですよ。ただのお茶目じゃないですか」と諸葛亮は言うが劉備は彼を静かに睨んでいた。

「姜維殿、身代わりなんてすぐにバレるんじゃないのかしら」

「問題はない。他国の皇帝に近寄るなど、無礼な事はしないだろう。一定の距離はある。それに襲われても私と趙雲殿なら、退けられる。――この作戦がバレなければ、だがな」

 姜維は窓の外を眺める。外は日が落ち深淵に包まれている。烏の囀り、虫の鳴き声が耳に入り込んでくる。

「では、私と曹叡殿は姜維と趙雲のふりをすればいいのか?」

 驚くような劉禅の発言に姜維は両手を左右に振って否定した。

「いえ、滅相もございません! 危険過ぎますので、お二方には部屋での滞在を。曹丕、貴様は主公達の護衛を頼む」

 何かあった時、蔡琰や元姫では守られない。ある程度牽制が利く曹丕がいいだろう。曹丕は頷き了承する。

「私と我が君は呉からお呼ばれしていますので、呉の注目を引きつけましょう。蔡文姫殿、王元姫殿には姜維達の護衛を頼みます」

 では、準備を始めましょうか。諸葛亮の一言で各々覚悟を決める。策は決まった。後は実行に移すだけ――だが上手くいくようなものでもない。失敗は許されない。失敗即ち劉禅と曹叡の喪失。国家の均衡が崩れる事。乱世へ戻る事を意味する。それは願ったり叶ったりだが、劉禅が、劉備がそれを望まないのならば姜維もそれを望まない。必ず二人を守ってみせよう。

 闇夜に紛れて姜維達は密かに動き出す。未来を守るため――ではない。均衡を崩さないために。それは未来に繋がるのか、はたまた過去を打ち破るのか。



■■■■


 明後日、平和記念祝宴会場――。豪勢な食事、歌妓達による歌と踊り、傍には酒を注ぐ女達。皇帝も楽ではないなと姜維は思った。珍しく髪を弁で纏め、皇帝の衣服を纏う。近付かぬ限り誰も姜維だと気付かない。そのために姜維の傍には蔡琰が呉の女性のふりをして酒を注いでいる。趙雲の傍には元姫が。

「……バレていないみたいですね」

「はい。ですが、あまり疑い深く見ないように。皇帝たる者、皇帝らしく堂々としているものですよ、姜維」

 流石、曹丕の世話係をやって来ただけはある。姜維は口答えをする暇もなく視線を蔡琰へ戻した。広い会場、中心で歌妓達が踊り、歌い、それを眺めつつ酒を飲むふりをする。口につけるだけつけて、蔡琰へ渡すと彼女はそれを飲み干した。残っていては怪しまれるからだ。

 前夜祭の宴と違って、近くに孫権が座っている事はない。室内の奥、少し間隔を開けて孫権が腰掛け、その両隣には孫権の側室・歩練師と正室の潘淑が静かに座っている。そしてまた間隔を開けて座るのは孫家の面々と魏呉蜀の役人達である。劉備達は孫家と離れ蜀の役人の中に紛れ込んでいた。

「姜維、今はまだ大丈夫でしょう。いざとなれば私があなたを守ります」

 そう告げて蔡琰は視線を後ろへ向ける。そこには姜維の槍を持つ馬岱が護衛に徹していた。彼は姜維の槍を持つ役を担ったらしい。ちなみに趙雲の槍を持つ役目は馬超が担っている。

「ですが、嵐の前の静けさを感じますね」

 蔡琰の言葉に姜維は心中で同意した。騒ぎ一つ、違和感一つ何もない。暗殺の護衛は何度も担った事がある。魏でも曹操の護衛や師事した郭嘉、荀彧や司馬懿の護衛も担っていた。その時は暗殺の前の違和感が肌に突き刺さっていた。殺気、人の気配、敵意――戦に慣れている人間なら誰でもわかるものだ。下級兵士でもそれは理解出来る。

 が、今回、何もない。蔡琰はそれを言っているのだ。

「……蔡琰殿、策が割れているという事はありませんか?」


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