幻影の焔~禍根~
「元姫殿……――遅いぞ、全く」
姜維は少し嬉しさを含ませて告げる。元姫は珍しく驚いた表情を見せた後「それに関しては謝るわ」と告げた。彼女は氷の剣を手に持ったままバイシューを見下ろした。
「何、で……ッ」
「私が生きているのかって? 先ほどの力は発動していた。姜維殿が行った書き換えの術は。それは、姜維殿が術に慣れていないから効果が現れるまで少しの時間を要する。……それにあなたは気付けなかった。それが理由」
元姫はバイシューへ剣を向ける。彼女はもう抵抗すらしない。いや、出来ないのだろう。
「バイシュー、私と再契約しましょう。あなたの願いを出来るだけ叶える。だからあなたも、この中華の、中国大陸の人民を安んじて頂戴」
そうすればあなたは一つの命として生きる事が出来る。元姫はそんな交渉を提案し、左手をバイシューへ伸ばした。だが彼女は元姫の申し出を吐き捨てる。
「情けなど無用ですわ! さっさとわたくしを回収なさい。わたくしはあなたに、姜維達に負けた。それだけですわ」
「生きたいのでしょう。ならば、私と――」
「あなたとわたくしの道は違いますわ。わたくしは天下泰平を望んではいません。わたくしが望むのはただわたくし達の生命の確立。そのためならば国さえ傾けますわ」
交渉は不要。出来ないのだと察した元姫は少し寂しそうな顔をした。彼女とて不本意なのだろう。こうやって、回収して、核の個性を消す事が。
核は回収されれば性格も意思も何もかも消え去るらしい。元々神器の能力だ、彼らは個人ではない。そのため消えるのだ。元姫は強く瞳を閉じ、覚悟を決めた。バイシューに意思を感じたのだろう。核としての意思を。
「わたくしは、諦めませんわ。何度でも蘇ってみせる。何度でも」
バイシューの負け惜しみのような言葉を耳に入れ、元姫は氷の剣を振り上げる。が、バイシューは自ら炎となりその場から消え去った。
そして建業には音が戻る。活気が戻る。人々が動き出す。鳥が羽ばたき、民が行き交い、民の声が響き渡る。賑やかな都市、建業――。止まっていた時間が動き出す。
これにて、建業での戦いは終わりを告げた。




