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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第三章 曹子桓の知謀
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幻影の焔~神器~

「用意出来る訳ありませんわ。元姫を蘇生するとでも言うのかしら。そんな力、あなた達には存在しなくてよ。たとえ、元姫の力を持っていてもわたくしに勝つなんて、甘いですわ!」

 自身の勝利を確信しているバイシューは曹丕へ得意げな笑みを見せた。慢心している今が好機か。通じるかはわからない――だが、やってみるしかない。それしか道はなかった。

 姜維は握り締めている槍へ力を込める。瞬間、槍の姿は変貌する。うねる蛇のような、刃が巻いたような、奇妙な剣に。元姫はこれを「日本刀」と言っていたか。姿を変えた剣――もとい日本刀は姜維の腹を貫いているバイシューの腕を斬り飛ばした。

「っ、ぐ、あ……ッ、その刀、ッ」

 バイシューが後退し、その場に膝をつく。血の拘束が緩んでは曹丕が劉禅を助け出した。劉禅の手を取り、こちらへ戻って来ては曹丕自らの後ろへ。

「バイシューよ、私達が何も変えられぬと言ったな。貴様に負けると」

「っ、それが、どうしたんですの、っ」

「私は死さえも変えた。ならば死すら操る事など容易いものだ。――そう、元姫殿の死さえ、私は変えてみせる」

 戯言ですわね。バイシューはそう吐き捨て立ち上がる。やれるものならやってみろとでも言わんばかりに。だから姜維は、賭けた。己の元姫に、己の力に。蛇のようにうねる日本刀を握り締め、願う。

 あの過去を全て――「無かった事」にすると。建業の人々が死んだ出来事を消し去る。そのための代償は何処かで負わねばならないだろうが、今はただ過去を改変してみせる。

 理に、神に逆らってみせる。

「そんな事、出来る訳ありませんわ! 強がりもいい加減止めた方がよくってよ」

 瞬間、刀から光りの粒が大量に霧散する。周囲一帯に円を描くように光の粒は舞い、篝火のように揺れていた。命の灯火のように。それが一気に弾け飛び、一帯に星々が輝く。夜に包まれたようだった。

 しかし、それだけだ。何も起こらない。

 失敗した――姜維の顔に焦りが見えた。それをわかっていたのかバイシューは笑みを浮かべ、高らかに嗤った。

「ふ、ほら、何も起こらない。諦める事が賢明ですわよ」

「っ、くそ」

「でも、まあ、わたくしを追い詰めた事は褒めてあげますわ」

 逃げられる、また、逃げられる。現在、バイシューは大がかりな力は使えないが、多少の力なら可能だ。長距離逃げられなくとも、短距離なら一瞬で移動してしまうだろう。それだけでも姜維達にとっては大きな痛手だ。

 バイシューの身体から炎が噴き出し彼女の身体は薄く、空気に溶けていく。此処で逃せば彼女は警戒し捕まえられない。姜維と曹丕、趙雲は透けるバイシューに手を伸ばす――。

「残念、このまま建業が滅ぶのを見ているがいいわ」

「――そうね、私としてもこのまま滅ぶのは面白くないもの」

 聞こえた空からの声。目視出来なくなったバイシューはうめき声を上げて姿を現した。その身には氷の刃が無数に突き刺さっている。これは、ジエジンの技だ。

「姜維殿は私が選び、私が託した核を屠る者。あなた如きに負けるはずがないでしょう? 未来を書き換えた、死すら乗り越えた彼は――核の敵として立ち塞がるのだから」

 突如、隣には見慣れた姿が見えた。意思を込めた漆黒の瞳に、闇より深い髪。容姿端麗な顔の上に少しの優しさを滲ませた表情。

 神の代行者、神器――王元姫。


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