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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第一章 劉玄徳の防衛戦線
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結晶の囚人~罪科の禍根~

「……それより、元姫殿。あなたが蜀に来て一ヶ月経つが」

「そうね、それくらいかしら。だいぶ慣れたわ」

「私はあなたに協力させられる事になったが、核の事だとか詳しい事を聞いていない」

 元姫と出会ったのは一ヶ月前、たまたま忍んで母の墓参りに来ていた時だ。その時に妙な力を見せられ――というより完全に元姫の勘違いで巻き込まれ、彼女に協力する事になってしまった。蜀へやって来た彼女は劉禅の信頼を得て、諸葛亮の邸宅に居候している。家などの手配は劉備がやってくれたようだ。

「ええ、話していないもの。今話してもいいけれど信じられない事ばかりになる。だから核と対峙してから話すつもりでいるわ」

「今更、驚くものもあるものか。あなたという存在が不可思議なのに」

 元姫は饅頭を食べ終えれば「それもそうね」と口元についた饅頭の欠片を赤い唇で舐め取る。姜維は一口だけかじった饅頭を元姫に渡し、彼女は饅頭をかじった。

「私は神器――神の代行者。魔が差して刺激的な世界を求めた。そして得たのは“王元姫”という人間の人生。でも力を持つ人間など、隠し通せる訳もなく、私は世界に私の力……核を少しずつバラ撒いた――。私は平和を得たけど、核は色んなものに取り憑いて悪さをし始めた。……というところまで説明したかしら」

 一ヶ月も前だからすっかり忘れていた。確かそんな話をされたなと姜維は思い出した。あの時は突拍子もない事をされたりとあまり信じていなかったが、いざ思い出すと確かにあれは現実だ。

「核は実体を持たない。空気や原子――そういうものと同じね。私以外には見えないわ。でも核にはそれぞれ意志がある。特徴で行動は推測出来る」

「人と似たようなものか」

 姜維の言葉に元姫は頷き肯定する。

「そうね。彼らは何にでも取り憑く事が出来る。水、建物、太陽――文字通り何でも可能なのよ。……物なら私一人で止められる。太陽や惑星に取り憑こうものなら、私は赤子の手を捻るより簡単に止められるわ。けれど、人なら……そうはいかない」

「何故? 太陽を止める方が難しいと思うが」

「人は……殺せないでしょう。殺したくないもの」

 皇帝に取り憑いたらあなただって殺せないでしょう、姜維殿。

 そう問われ姜維は黙り込んだ。確かに、その通り。劉禅に取り憑かれたら出す術もない。

「だからといって放置でもしておけば核は暴走をし始める。私は……乱世が此処まで極めるまで、気付けなかった」

 後漢の衰退を招いたのは己のせいだと元姫は嘆く。核を放置し、核から背を向けていた己のせいだと。そんな彼女に手を伸ばし、姜維は彼女の頭に触れようとしたが彼女が既婚者な事を思いだして手を引いた。

「……とりあえず、止めればいいのだろう。今回は協力しよう、だが、次は協力しない。私はこれでも忙しい。あなたに協力する人材なら引退した趙雲殿や関羽殿などがいいだろう。彼らなら無償で協力してくれる」

「あなたは利益がないと協力してくれないのね」

「もちろんだ。……人助けに理由が必要か問う輩が居るが私は必要だと思っている人間だからな。もちろん、それが民であれば助けよう。同じ主に仕える者ならそれも助けよう。だがあなたを助ける必要性は全く感じられない」

「姜維殿、私姜維殿のそういう人間らしくて冷徹なところ好きよ。でも、安心して頂戴。あなたは私に協力する事になる。嫌でもね」

 黒曜石の瞳で真っ直ぐ見つめてくるものだから、少し怯んでしまった。まるで見通されているみたいに。

「……で、核を今のまま放置しておけばどうなるのだ?」

「滅ぶわ。蜀漢も、曹魏も、孫呉も。中国大陸は消えてなくなるでしょうね。更にお隣の倭国もそう。そして全世界――この地球は滅んでいくわね」

 だから早急に核を集めないといけないの。自分のせいだとわかっているから余計にね。誰かが死ぬ世の中なんて早く終わらせなくては――。元姫は饅頭を食べ終え、口を拭う。

「なら、どうやって核を探す?」

「それは私が探知機……――核が近くにあればある程度わかるの。居場所の確定は出来ないけれど、範囲はある程度狭める事が可能よ」

「こう、あなたの力で何とか出来ないのか?」

「私は仙人でも魔術師でもないの。無理よ。神の代行者と言っても、今私は些細な力しか持たない、ちょっと強い人間程度。……それに出来るならやっているわ」

 それもそうか、と姜維は元姫の言葉に納得する。と、なるとやはり情報を求めて探し回るしかないだろうか。何とも非効的な探し方だが致し方ない。いっそ劉禅に協力して貰うかと考える。

「……核のある場所には事件がある。事件のあった場所を調べるといいかもしれないわね」

「だが蜀内部とは限らないだろう?」

「ええ。蜀の外となると……私はともかくあなたは難しいでしょうね、移動するのは」

 戦となれば可能だが、戦でないのなら基本的に成都の守備に就いているため難しい。だが核の話が本当であるのなら、元姫一人じゃ解決は不可能だろう。

「そうだな、私は成都に配置されているため移動は難しい。その時は、私の部下を手配しよう。何かと協力してくれるはずだ」

 あなたじゃないとダメなのに。

 そんな呟きは聞かない事にした。面倒な事に巻き込まれたくないからだ。となると一先ず辺りの村で聞き込みをしてみるかと考えた。

「とりあえず聞き込みでもしてみるか、元姫殿。成都の民は情報通だ。事件があればすぐに広まる。……それに事件などは滅多に起こらないから余計に見つけやすいかもしれないぞ」

「そうね。情報を集めて、そこから範囲を絞っていけばいいかもしれないわ。……こういう時に携帯とかパソコンが欲しくなるわね」

 聞いた事のない単語に姜維は首を傾げるも、元姫は「独り言よ」と話を終わらせた。とりあえず聞き込みをするか、という事で姜維は元姫を連れて成都の城壁前で守備をしている門番に聞いてみた。

「ああ、それなら最近妙な噂がありますよ、姜維様」

「妙な噂?」

「はい。コレが出るそうで……」

 そう言って門番は両腕を軽く上げて手から力を抜き、だらりと垂らす。まるで殭屍だ。

「……殭屍チャンスー?」

「そうです。元々以前から失踪した女の話やら、神隠しにあった将軍の話などの噂は出ていたのですが、ここ最近頻繁に殭屍の噂が広まっていまして。以前は夜な夜な徘徊して変死体を晒すという事が多かったのですが、今は昼夜問わず徘徊しては人を襲って、食い散らかして死ぬとか何とか」

「現場を見た人は?」

 目撃している民が増えているので、聞けば詳しい事はわかると思いますよと門番は言う。だがその事件を解決したい訳じゃない。核が見つかればいいのだ。元姫に視線を向け、民に聞いてみるかと彼女に問いかける。

「現場に行ってみましょう、姜維殿」

「ああ、現場なら都市内の東にある薬師の家の裏側です」

「ありがとう、行ってみるわ」

 踵を返し門番に言われた通りの場所を目指す。核の可能性はあるのかと尋ねれば元姫は何とも言えないと返答した。

「まだ核の気配もないわ。力がない以上、広範囲の核を感じ取れる訳じゃないから……」

「つまり、他の核を見つけるためにも、一つくらいは核を回収しなければならないという事だな」

「そうね。そうすれば少しは見つけられるかしら」


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