幻影の焔~確信する心~
姜維は曹丕の質問の意味がわからず左へ軽く首を傾げた。曹丕は姜維の持つ槍を指す。
「貴様を助ける際、蛇のようにうねった。逆巻いたように」
「蛇――……ああ、あれか」
姜維はすぐに思い出した。ジエジンを討ち取る際、元姫に授けられた力だ。槍が形を変えた事によってジエジンを討ち取れたが、何故そんな形をするのか姜維もわかっていない。姜維は曹丕へ簡単に説明する。彼の言いたい事はわかっていた。伊達に何年も一緒に暮らしていた訳ではない。
「だが、私の意志でこの槍は姿を変えない。何度も試しているが不可能だった」
ジエジンを討ち取ってから槍は姿を変えてくれない。元姫の力が残っていないのかと思っていたが曹丕の言葉を聞く限りそうではない。
「なら、何故私の時は変わったのだ」
「私に聞くな。何か、理由があるはずだ。……あの時、私は、ただジエジンを――核を討ち取るために必死だった。蜀を、守るために」
そう、必死だった。満身創痍で、死にかけていた。元姫も、劉備も誰もがあの時死ぬのではないかと思っていた。それでも諦められなかった。蜀のため、劉備のため、劉禅のため――そして、元姫のため。
姜維の原動力はいつでも誰かのため、だったのだ。
瞬間、槍が淡い緑の光に包まれ、姿を変える。反りのある、細い妙な剣に変わり姜維と曹丕はお互いを見据える。
「何だ、出来るではないか」
少し見下すように告げられるも姜維は否定しなかった。自分ではないからだ。だが、構わない。反応したのなら、後はおびき寄せるだけ。姜維に巻き付くように、巻いた槍――もとい剣は神々しさを増す。これだけで、バイシューは釣れない。
ならば。
姜維は剣で自らの脇腹を斬った。剣には血液がこびりつき地面に血液が滴る。これで、引きつけられてくれたのなら――。
「そこか」
曹丕は即座に振り向くと携えていた剣を後ろへ突きつけた。剣からは血が伝い、何かを貫通していた。影が、ゆっくり姿を現す。黒い漢服を身につけ、髪を左右側頭部で纏めた美しい女性だった。
「ぐ、何故……っ」
女性、バイシューの胸から曹丕は剣を引き抜く。彼は何も答えず、姜維へ視線を送った。姜維は前からバイシューの右腕を掴み、剣で彼女の腕を巻き付ける。
「これで、捕まえたつもりかしら? 元姫殿の力を使って誘き出したのはいいけれど、肝心の彼女が死んでいては意味ありませんわ」
「死んではいない、生きている――と言ったら?」
「……わたくしを欺けるとでも? 核であるわたくしは何でもわかる。そう、例えば――後ろからの奇襲とか」
顔だけをバイシューは後ろへ振り向かせる。そこには趙雲、そして劉禅。劉禅に伸ばされる左手を趙雲は斬り落とし、劉禅への危害を防ぐ。反撃はしてこない。やはり読み通りだと確信する。
「それでも、貴様は我らに勝つ事は不可能だ」
曹丕の言葉にバイシューは黙り込んだ。力が使えない事を理解しているからだ。彼女は口角を上げ、小さく笑みを見せた。
「ふ、ふふ、わたくしの勝利は決まっていますのよ。あなた達以外の人間は死んだ。元姫はもういない。あなた方がわたくしに勝つ事は有り得ませんの。……それなのに、勝利を確信するなんて――甘いですわ!」
「――いいや、勝てる。勝てるぞ、バイシュー」
姜維はバイシューの腕を掴む手に力を込める。彼女の骨が軋むが気にしない。ただ油断させるためのものだ。
「武力など、意味を成さないのはご存じでしょうに。それとも奇襲をまたしますの?」
趙雲に斬り落とされたバイシューの腕からは血が流れていく。それすら気にしない彼女は、やっぱり核である。だから姜維も、誰も、手加減はしない。
「私達は元姫殿さえ生きていれば勝てる。彼女の力が貴様を封じるのに必要だからだ。すぐに蘇生が出来ないのなら、力を使えばいい。元姫殿の力を」
「ッ、まさか――っ!」




