幻影の焔~諦めない~
趙雲の瞳には力強い意志が宿る。やるだけ、ではない。必ずやり遂げなければならない。他の人間が死のうと、劉備を亡くす事だけはあってはならないのだから。
劉備を失う――即ち蜀の滅亡である。
姜維は趙雲と曹丕達の元へ戻る。彼らに趙雲へ伝えた事を話し、実行してみようという事になった。だがそれにはまず必要なのは、バイシューである。
「対話は出来ないのか?」
劉禅の不安そうな、それでいて和む声に姜維は不可能ですと言い切る。
「これは私が師事した方から教えられた事ですが、戦には五つの要点があります。戦う、守る、逃げる、降る、死ぬ。核は我々を欺き、戦おうとも、降ろうともしなかった。……核が対話を望んでいれば私達もお互いのために動いたでしょうが。よって対話など無用なのです」
ジエジンの時、元姫は対話を何度も試みた。彼女がこの場に居れば対話をするだろう。だが姜維は彼女のように優しくはない。元々騙されて核探しをさせられている身だ。端から対話などするつもりもないのである。
「姜維……それは、悲しいなあ」
「仕方のない事です」
劉禅の寂しさと哀しみ溢れる表情。姜維は少し胸が痛んだが、危険な目に進む訳にはいかない。姜維は話を終わらせると本題へ戻す。
「まずはバイシューの居場所を突き止める。これに関しては建業内を駆け回るしかない」
「劉禅を餌に使えないのか」
「何度も同じ手に引っ掛かるとも思えん。――だが、何らかの策は必要だ
今までの行動を考えて、恐らくバイシューは知者ではない。ならば姜維でも引っかける事くらいは簡単だろう。しかし、静寂に包まれたこの世界で音は姜維達に味方しない。さて、如何したものか――と姜維は腕を組んだ。
「元姫殿の力があれば、引っ掛かってくれそうだが……」
「そうですね。少しでもあれば引きつけられるはずですが」
趙雲の言葉に同意するも、ないものを強請っても仕方がない。いっそ此処に居る誰かの身体に元姫の力が微力でもあれば――。
いや、ある。あるではないか。
姜維は瞬時に気付き、己の腹部を見つめ手を添える。
あの時、ジエジンと戦った時、元姫に何度も与えられた力。それは生命を活性化し姜維を蘇生した。休養期間中、元姫は核の事を詳しく話してくれた。元姫が与えた力は姜維のものとなり姜維の魂と同化するそうだ。人でありながら核を自在に操れる者なら核を活性化させたり出来るらしい。――もっとも、姜維に与えられた力はただ生命を活性化するだけだが。
これを使えば、元姫を生き返らせる事が出来る。
「……あります、ありますよ。元姫殿の力が」
姜維は全てを説明する。それが出来るのかと劉禅に問われ姜維は曖昧に答えを返した。わからない、だがやってみる価値はあります――と。
「ならば、まずはバイシューを引きつけなければならん。……が、元姫の力があれば可能か」
「ああ。力を使えれば、元姫殿が生きているように見せかけられる」
引っかけの策はあまり得意ではない。空城の計やら伏兵やら。こういうものが得意なのは夏侯覇だが、いない人間の事を考えても仕方がない。
しかし問題はどうやって力を使うか、である。ジエジンの時は元姫の最大支援があったから出来た事。今回は、誰の力もない。
「では、作戦ですが――」
姜維は一つずつ説明し、劉禅と趙雲は散っていく。もちろん、黄皓も一緒だ。今回は劉禅にも少し戦ってもらうかもしれない。曹丕には支援を頼み、彼は姜維とこの場に残る。
「出来るのか、姜維」
「やる。それだけだ。出来ないなんて許されないからな」
「だが最悪の事態も考えておいた方がいいだろう」
「そんなものは訪れない。絶対に」
貴様は相変わらず変わらんな。そんな事を言われるが姜維は聞こえないふりをした。
作戦は大まかにこうだ。元姫の力を使いバイシューを呼び寄せる。そこで劉禅と趙雲が奇襲し、劉禅を狙ったところを姜維と曹丕でバイシューを捕まえる。そしてバイシューの力を介して元姫を蘇生する――。かなり難しくはなるがやらねばならない。
「……姜維、貴様の槍だが何故変貌する?」
「どういう事だ」




