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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第三章 曹子桓の知謀
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幻影の焔~神の死、世界の死、そして~

「姜維、核とは奇妙なものだなあ」

「え、はい。我々の想像以上のものですから」

「こんなに世界から音を消す事が可能なのか。ふむ、少し恐ろしいぞ」

 恐ろしいなんて顔を浮かべず、僅かに微笑みを漂わせた劉禅は「子桓殿もそう思うか?」と暢気に曹丕へ話しかけていた。

「世界から音をとは、劉禅、貴様は面白い言い方をする」

「そうか? 私は思ったまま言っただけなのだがなあ」

「だが、まあ、貴様の言い方も強ち間違いでは――」

 曹丕は言葉を止めて腕を組んでは、引っかかりを感じているように目線を下へ落とす。姜維も曹丕同様引っかかりを感じていた。

 世界から音が消えた。劉禅の言葉に引っ掛かる。いくら静かであろうとも、人が生活をしていれば音が聞こえるし、鳥や家畜の音は耳に入る。更にバイシューが操っていた民は建業に住まう全ての民ではない。ならば音は聞こえて当たり前なのだ。

「……まさかッ」

 姜維は曹丕に劉禅を託しその場を離れ駆け出した。調べるまでもなく、姜維の目に入ったものは倒れ伏す民だ。家畜も、馬も、生き物さえ地に倒れ伏している。心臓は動いていない、息をしていない。何だ、何だ、これは。世界に己らだけが取り残された感覚――姜維は母親が殺された頃の孤独を思い出した。

 何故、自分達だけが生きている。先ほど同様考えるまでもなかった。元姫の壁だ。彼女は劉禅に釣られたバイシューを捕らえるために、壁を張っていた。囲むように張っていて、姜維達はその中に居たから助かったのだ。

 ならば、元姫達は。

「姜維!」

「趙雲殿……」

 馬を乗ってこちらへ駆けてくる趙雲。何故その馬が生きているのかなど些細な事だ。趙雲は言いにくそうな顔で、目を伏せて告げる。

「建業城に居る人々は……殿も、元姫殿も、孔明殿も……死んでいた」

 原因はわかる、バイシュー以外にいない。だが劉備が死んだ、その事実は姜維の胸に突き刺さる。希望がない訳じゃない、殺された訳でもない。バイシューの仕業なら命すら取り返せるはずだ。

「……建業だけですか?」

「ああ、そのようだ。建業の守備を預かっている、建業前の兵士達は無事だった。ただ城門を閉じ、外部との接触を断っている事からバイシューは初めから建業内の命を奪うつもりだったのだろう」

 建業は城郭都市である。中華の殆どが城郭都市であり成都も城郭都市だ。それ故に都市の外に兵士を配置する。それが好機となった。建業城門の兵士は生きている。つまり、建業内に居た人間だけが死に絶えたという事。

「つまり、我々は嵌められたという事ですか」

「ああ、そういう事になるだろうな。そして、これは予想だが……殿を狙っていたという事は、もしかしたら――」

 口に出すのも憚られるような、非常に悔しそうな表情を漂わせる趙雲。姜維はそんな事も気にせず、口から吐き出した。

「劉備様を殺すためだけに建業は用意された舞台――という事ですね」

「む……、ああ。だがこれだけの数の人間を殺すのだ。バイシューもそれなりの力が必要となるはず。そして、今までこのような事をして来なかった事を考えれば……」

 ――力がなく、出来なかった。

 姜維は答えを口に出す。それは正解だった。もし、それが本当なら、今バイシューは力が残されていない。つまり今が好機。バイシューを捕まえるのなら今しかない。

 だがどうやって捕らえる。

 元姫も死に、残っている人間は姜維達のみ。借りに見つけ出せたとしてもバイシューを回収する事は出来ない。となると優先順位としては生き返らせる方法だが、そんな奇跡は起こらない――。いや、可能か。

 バイシューの力を使って元姫を蘇生すればいい。それが――出来れば、だが可能性に賭けるしかない。そうしなければ、建業の時間は止まったままなのだ。

「……趙雲殿、まずはバイシューを見つけ出します。その後、バイシューの力を利用出来たら利用して元姫殿を蘇生――。そして、元姫殿に蘇生して貰えばそれで建業の人々も助かるかと」

 元姫が出来るのかはわからないが、核のせいで失われた命ならばどうにかしようと考えるはずだ。彼女の事だ、必ず助けるだろう。その点に至っては心配していない。不安をあえて挙げるならば呉内に情報が広がり、反乱の意志を持つ者が生まれないかくらいか。

「やるだけ、やってみよう」


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