表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第三章 曹子桓の知謀
75/141

幻影の焔~核という存在~

 了解した。それだけを伝えて、姜維は民の前へ出る。民は獲物を見つけた獣のように目を光らせれば即座に姜維を追いかけてくる。指定した地点へ誘導し、バイシューを囲む。劉禅に引きつけられるバイシューは姜維達が逃げているようにしか見えないだろう。バイシューの誘導は趙雲が劉禅についているから大丈夫だろう。逃げ回り、馬の疲弊が見えてきた頃、元姫から連絡が入る。劉禅に引きつけられたと。姜維は即座に劉禅を中心とし、自らを餌として民で壁を形成する。都市内であるためか、民も広がる事は出来ない。それが役に立ったようだった。

 瞬間、目に見えた薄い白壁は姜維と民を分かつ。月光にあたって輝きを増している。分かたれた民達は、意識を失ったかのようにその場に崩れ落ちた。

 劉禅の元へ向かえば、そこに立っていたのは。

「孫魯班――」

「まさか、わたくしが騙されるなんて。でも、この作戦は失敗ですわよ」

 魯班は後ろから劉禅の首に腕をかけている。だが姜維は焦りも何もしなかった。何故ならば、彼女へ穿つ刃は残しているからだ。

「さあ、どうだろうか」

「あなたもわたくしも動けない。あなたが動けば劉禅も、孫魯班も殺して差し上げますわ」

「ああ、私は動けない」

 魯班――もとい、バイシューは焦りもしない姜維に疑問を抱いたようだ。眉間に皺を寄せる。これが姜維だけならば疑問も抱かなかっただろう。だが趙雲すら焦りを見せない。それに違和感を抱いたようだ。

「私の刃はまだ折れていないぞ、バイシュー」

「何――」

 背後からの気配。振り向くバイシュー。だが間に合わない。背後から、元姫の力で空間を裂いてやって来た曹丕は剣をバイシューの胸元へと突き立てる。鮮血が舞い、バイシューは曹丕によって地面へ拘束された。劉禅は解放され、姜維の元へ戻ってくる。

「な、ん……ッ」

「私の存在を忘れていたか、侮っていたか。……私はこれでも姜維より、趙雲より戦場暮らしが長くてな。奇襲は得意だ」

 繋ぎ止めた。捕まえた。これでバイシューは動けないだろう。しかし、それは姜維達とて同じ。硬直状態――今を表わすならばそれが相応だろう。

 そんな状況であるのに、バイシューは顔を血液に汚されながら高らかに嗤う。嫌な予感がする。脳内の元姫からバイシューを回収しようとしている事が伝えられた。

「へえ、流石、魏王の息子……――なら、その身体合うかもしれませんわね」

「何――ッ」

 バイシューは曹丕へ手を伸ばし、彼の首を掴む。だが何かで弾かれたようにバイシューの手が吹っ飛び、手首から切断された。人では有り得ない力――恐らく元姫が何か施したのだろう。バイシューは痛みに悶えつつ、曹丕に狙いを定め反対の腕を振り上げ、姜維は彼の元へ向かい、首根っこを掴んで引き離した。頬が掠り、焼けたような臭いと、焦げた右頬からは血が滴る。バイシューは立ち上がり姜維達を見据える。

「わたくしを、このような策で……貶めようだなんて――甘いですわ!」

 バイシューは口角を釣り上げ、魯班の面影すらない顔を歪ませる。

「蜀の猛将よ、魏の帝王よ、打ち震えなさい。わたくしこそ、核として君臨するに値する核なのですわ。――絶望を見せてあげましょう」

 高らかに突き上げられたバイシューの腕。その手からは光が放たれる。それは建業の上空に放たれた。

「っ……何だ……」

 目の前に、バイシューは居なかった。その場から消えていた。逃げた。元姫が張った白い壁も消え去っている。姜維は舌打ちを零す。

 だが、それ以上に気になったのは静寂。静かすぎる。あまりにも、静かだ。まるで世界から生物が消えたような、静寂に包まれている。元姫からの連絡も入って来なかった。

「逃したか」

 姜維は舌打ちを零す。元姫との連絡も取れない。彼女がこちらへ言葉を伝えてくれなければ、こちらから話す事は出来ない。更にバイシューの場所も突き止められる事が出来るのは彼女のみ。一旦撤退がいいだろうかと姜維は考える。

「にしても……静かすぎるな。先ほど奴が何かをしていたが、それのせいだろう」

 趙雲の言葉に姜維達は頷き、姜維は劉禅を見つめる。この状況で劉禅を此処に居させるのも危険だ。一度建業城に戻る――方がいいだろうか。

「しかし、元姫が何の反応もないのが気になるな」

 曹丕の言葉は尤もだった。何かあったのではないかと間延びした声で告げる劉禅に、姜維は一抹の不安を抱く。それを見抜いたのか趙雲は「じゃあ」と言葉を切り出す。

「では、私が見てこよう。姜維と曹丕は劉禅殿を頼んだぞ」

「承知致しました」

 そう告げて走り去っていく趙雲。さて、如何したものか――姜維は腕を組み劉禅に視線を向ける。彼はこんな時でも表情一つ変えず、周囲を見回し景色を愉しんでいた。剛胆なのか、ただの世間知らずなのか――よくわからないお方である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ