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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第三章 曹子桓の知謀
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幻影の焔~動き出す罠~

 我ら。

曹丕は練師の発言に疑問を持つ。己だけなら彼女は「我」と言うだろう。核が複数居ると仮定して、それもおかしくはないが、核が連携し共同でこの呉を陥れようとしているならば、である。だが、元姫はそんな事一つも言っておらず、更に彼女はそんな素振りも見せていない。彼女が嘘を吐いている可能性だが、今の状況で嘘を吐く理由もない。更に彼女は聡明で真面目な淑女だ。そんな馬鹿げた事はしない。

つまり、核は個人個人で自由に動いているという事である。

ならば我らという発言は些かおかしい。そこから考えられる事は――。

「だから私を殺し、その血肉を食らおうと。――は、馬鹿らしいな!」

 姜維は練師を一蹴する。左手で顔を覆うと珍しく、笑った。何かに取り憑かれたように。

「ならば奪い取ってみるがいい。この妄執の身体を」

「おい、姜維」

 曹丕はすかさず言葉を突っ込んだ。姜維は視線だけを曹丕に向ける。曹丕は彼の右肩に手を置き、言葉を紡いだ。

「奴は一人ではない。仲間……とは少し違うだろうが、自ら動かせる手足がいる」

「手足……つまり、陸遜の贋物の時のようなものか」

「かもしれんな」

 気をつけるに超した事はない。一先ず練師を捕縛するのが先だろう。曹丕が剣を抜いた時だった。練師が一瞬で消えた。目の前からまるで妖術のように。曹丕は姜維から離れ振り返る。陸遜の後ろに、練師は立っていた。彼女を視界に入れる前の陸遜へ、腕を振り上げ、何かを成そうとしている。間に合わない――。

「曹丕、借りるぞ」

「何――っぐ」

 姜維に背中を踏まれ足場とされる。曹丕はその場に少しよろめいた。曹丕の背中を壁として飛び上がった姜維は陸遜と練師へ向かい、陸遜の胸倉を掴んでは曹丕の方へ押し退ければ、練師へ槍を振るう。が、練師が瞬時に気を落としたため寸前で攻撃を止め、着地が取れなかったのか彼女の胸へなだれ込むように彼女と共にそのまま地へ倒れ伏す。姜維は練師の胸に手を添え立ち上がり、彼女を陸遜に任せた。

「逃げたか。元姫殿達と合流するぞ、曹丕。陸遜殿は練師殿を頼む」

「はい、承知致しました。……呉を、頼みます」

「――ああ」

 本意では無いだろう、呉をどうこうする次元などもうとうに過ぎてしまった。姜維も、誰もがそれを感じているだろう。曹丕は走り出した姜維に着いて、走る。呉を守るためではない、均衡のためではない、魏国のために――呉を核から守ってみせる。


■■■■


「元姫殿」

 姜維は、建業城内の南側へ曹丕と共に向かう。そこに元姫と蔡琰が居ると途中で会った馬岱に聞いたからだ。激励を貰ってそちらへ向かえば、二人は呉の将兵に追い詰められていた。見つかったのか、劉禅達の策は意味がなかったのか――と思ったが様子がおかしい。姜維と曹丕は将兵達へ突っ込めば一撃で薙ぎ払う。

「姜維殿……、子桓様」

 元姫は一瞬嬉しそうな顔をした後、すぐに表情をいつもの涼やかな顔に戻した。呉の将兵達はその場に崩れ、練師の時のように意識を失ってしまった。

「元姫、これはどういう事だ」

「は、子桓様。核は呉の中枢まで入り込んでいます」

 元姫は拱手し、軽く頭を下げてから語り出す。

「私と文姫殿は核を誘き出すため、劉備殿や諸葛亮殿にも手伝って頂き核の温床となる人間を用意致しました。今回の核――バイシューは支援型。操作系。……姜維殿は薄々わかっていると思うけれど、人を操り、操作する。呉の問題はバイシューが原因だと思います」

 操作系。非戦闘系の核であり、主に人や物を使い操る。傀儡や殭屍もこれらに入るらしい。そしてこの操作系は戦闘系よりも恐ろしい。戦闘系――ジエジンのように直接攻撃を加えて来る事はないが、人に取り憑けば最後、周囲の人間に化けたり、取り憑き、人を陥れていく。人の内側に隠れているため滅多に気付かない。気付いた時にはもう深いところまで入り込んでいた――なんて事は当たり前らしい。それが今回の呉なのだろう。

「なるほど。つまり、練師も陸遜も……この将兵達、そして孫権や他の孫家は全員バイシューの被害に遭ったという事か」

「はい。そしてその被害は呉の将兵も、孫家も、飲み込んでいます」

「取り除く方法は」

「バイシューを見つけ出し、私が力を使い回収するしかありません」

 他に方法はありません。断言する元姫に曹丕は難しそうな顔をし、眉間に皺を寄せると腕を組み直した。

「そこで現在、申し訳ないのですが劉備殿に餌の役割をして頂いております」

 核には共通の弱点がある。それは身体を持たぬ事。彼らは身体を求め、奔走する。身体は何でもいいという訳ではない。核と波長が合う魂でなければダメなのだ。その点、ジエジンの時は哀姫と波長が合ったのだろう。

「劉備殿の波長はどんな核とでも合う――そこで、彼を使い、バイシューをおびき寄せる。そして私達がバイシューを回収する」

「だがそう、上手くいくとも思えないが」

 姜維は腰に腕を沿えて周囲に倒れる呉の将兵を一瞥した。


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