幻影の焔~奪還作戦~
「そのための姜維だろう。呼び寄せるための」
姜維のために呉へ劉備がやって来る。確かに劉備が来ればこの混乱は収まるだろう。劉備はそれを鎮める力を持っている。だが同時に危険が及ぶ。趙雲はそれを理解していた。
「姜維殿が捕まったとなると、最早呉の内情を解決する事態ではありませんね」
「うむ。……如何したものか」
そもそも蔡琰に疑惑が掛からなかったのも不思議だ。彼女は姜維の前に孫権に絡まれていたのだ。毒が入ったあの酒を女官が持ってきたのは彼女が居た時。姜維はそれをただ注いだのみ。それを考えると姜維を嵌めたかったのだろう。その答えは、元姫が知る――か。
「まず我らがやらねばならぬ事は核の排除だろう。さすれば廃立争いも暗殺も止まる。となると一先ずの優先事項は、核の引きつけだ」
「その通りです、子桓様」
扉が開き、元姫が劉禅と共に入ってくる。劉禅の後ろには黄皓が控えていた。元姫は劉禅を連れてやって来ると拱手する。
「ですが、姜維殿も助けなければならない――同時進行でいきます」
「核は判明しているのか?」
曹丕の問いに元姫は首を左右に振る。だが様々な答えは見つかったらしい。
「鄧艾殿と鍾会殿から聞きました。陸遜殿の事。陸遜殿は死を一度賜っているそうです。でも、私達の前に現れ、今まで通り仕事をしている。そして……宴で部屋から出て行く陸遜を趙雲殿と姜維殿、更には魏の鍾会殿に夏侯惇殿、呉では孫権殿の妻・王夫人が目撃しております」
「なら、我々の前に現れた陸遜は……核か」
「核の力でしょう。姜維殿はそれに嵌められた。狙われた」
成都でジエジン――氷の核と戦って、彼は一度死にました。だけれど、私の力で生きながらえた。そのせいで核から「未来を変える事が出来る人間」として狙われるようになってしまった――と元姫は言う。
「それで姜維は狙われたのか、元姫殿」
「はい。ですが、命を心配する必要はありません。劉禅殿が姜維殿の助命を頼みましたから」
牢から出す事は出来ないが助命は考えると孫権殿は仰ったと告げる。流石に他国の将兵を手に掛ける事は出来ないか。
「……核を誘き出すのなら、私を使うとよい。そしてその間にそなたらは姜維を助けるのだ」
囮という事ですかと趙雲が尋ねれば劉禅はいつも通り、間延びした声で肯定の言葉を紡いだ。だが黄皓がそれを否と決定づける。
「いけません、陛下! 御身自ら危険に晒すなど」
「だが、黄皓。姜維を助けねばならぬ。それに、核も回収せねばならぬだろう?」
「姜維は自ら何とかするでしょう。そもそも、あの北伐馬鹿――失礼、姜維は自ら危険に飛び込んだもの。陛下に迷惑をかけるだけの存在。放っておく事が正解です」
黄皓は姜維と敵対している。姜維が嫌いで、姜維もまた黄皓が嫌いだ。だが、今だけはそれを収めて欲しいものだが。趙雲が口を開こうとする前に、曹丕が失笑した。
「宦官が口を出すか。所詮世話係、政治も何もわからぬ宦者は黙っていろ」
曹丕は立ち上がり、黄皓の前へ立っては彼を見下す。小柄な黄皓と、幼い頃から戦場を駆け回っていた曹丕。そして彼は魏の先帝。どちらが勝つのか、明白だ。
「な……ッ私は陛下のために――」
「何が劉禅のためか。自分の出世のためだろう。……劉禅は凡愚などではない。ましてや貴様の手を借りずとも国を動かす事が出来る。貴様が居るからこそ、劉禅が依存するのだ。だから貴様は劉備に評価されなかった」
他国の事情に詳しいとは流石曹丕と言うべきか。曹丕の言葉は間違いではない。黄皓は完全に黙り込んでしまった。
「劉禅の案を採用する。趙雲、貴様は劉禅の護衛だ。蔡琰と元姫は誘き出すための策を展開してもらう。その間に私が姜維を助けに行こう」
「ああ、わかった。だが文帝よ、一人で平気か」
問題ない。曹丕は断言し、それに、と続ける。
「私が行った方が、姜維の神経を逆撫で出来るからな」
曹丕は口角を上げて人相悪く笑みを見せる。法正みたいな性格をしているなと趙雲は少し思う。系統は違うが。だが曹丕が助け出してくれるのなら曹丕に任せよう。
画して、趙雲達の核捕獲作戦が始まる――。




