幻影の焔~失われた命~
「アニキッ!」
元姫が奉考を抑え、姜維は男の首の胸倉を掴んでは吹っ飛ばす。すれば弓を構えた酒場の客達。先ほど姜維が助けた女も弓を構えていた。机を立てては壁代わりにし弓を避ける。
「な、何すかこれッ!」
「狙われたのは奉考殿よ」
「俺……?」
「情報を私達に喋ったあなたを消しに来たというところかしら。――姜維殿」
姜維は上から跳んできた矢を手で払いながら考える。
「元姫殿、あなたは奉考を連れて店の外へ。私が引きつけよう」
元姫に任せておけば、まあ死ぬ事はないだろう。姜維は瞬時に机の後ろから出れば匕首を懐から取り出し敵へと向かっていく。殺し――たら外交上問題が生じる。気絶で済ませるか。だがそれが一番難しいというものである。敵の懐に入り鳩尾に拳を叩き込み、意識を落としていく。五人ほど意識を落とせば、彼らは抵抗を止め、突然地面に崩れて気絶してしまった。
何だ、この奇妙さは。既視感があるような、そうでもないような――。いや、今は元姫達だ。姜維は右肩に刺さった矢を抜き去り、その場を後にした。
店を出てとりあえず東へと走る。何処に元姫が居るのかわからないが、彼女の方から見つけてくれるだろう――と思った矢先、突然民の家から出て来た元姫と奉考。合流し一緒に郊外へ向かう。
「とりあえず奉考、貴様はこのまま陸家に向かい状況を説明しろ。陸家なら匿ってくれるだろう」
「わかりやした。じゃあアニキ達も気をつけ――」
目の前が赤に染まった。頬に赤がこびりつく。血だ。何故。姜維は元姫に腕を引かれ止まった。そして立ち止まってわかった。糸だ。鋭利な糸が伸ばされている。それもこんな、民も暮らしている都市の中で。そのせいで、前を走っていた奉考の首は胴体から離れたのだ。
「――敵は随分と上手ね。気配すら感じられない」
「ああ。それに……町中に仕掛けるほどの技術」
転がった奉考の胴体。姜維は役人を呼んで彼らに託し、その場を後にする。そして城を目指す。目的は生前の奉考が言っていた通り「孫魯班」――彼女に会う事である。彼女なら、何かを知っている。奉考の言葉を信じる。そして彼女から情報を貰いこの政争を止める事が奉考への手向けだ。




