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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第一章 姜伯約の見解
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幻影の焔~新たな道~

「……核の気配は?」

「今のところ感じられない。隠すのが上手い核も居るわ。だからそっちの線も探ってみたいのよ。もし、核であるのなら、この政争も全て……」

「核のせいか」

 そうであるとは言い切れない。だが、元姫が陸遜にいつから孫権がおかしくなったのか聞いた理由はそれかと納得した。元姫が示した酒場へ姜維達は足を運ぶ。中は平民、それ以下の身分を持つ者が集まっていた。低価格の店だろうと判断する。

「核なら……正当な理由が出来るか」

「ええ、私が核を解放したのが早くても十年以上も前、遅くても五年前……つまり、孫権殿がおかしくなった時期が合うのならば、その可能性も無きにしも非ず」

「またジエジンのような核か?」

 運ばれて来た酒を手に取り姜維は一口飲む。

「ちょうどいいわね、核の種類について説明するわ。……核は色々あるけれど、大まかに三つ。ジエジンのような戦闘系、頭を使って相手を惑わす知者系、そして人を使い人の内部から操る支援系。戦闘系は説明要らないわね」

「後者二つは戦闘とはどう違う?」

「知者は力を使わず人間と同じように己の知力だけで戦う。戦闘は苦手ね。支援系は何かを使い惑わす。可能性があるとしたら……後者かしら」

 もし、孫家の中に潜り込んでいるのならば非常に厄介。彼らの行動で一つの国家が潰れるかもしれない――と呟き、元姫は運ばれて来た食事を受け取った。

「調べていけばわかるだろう。核が絡んでいるとしたら早く調査したいところではあるが」

「そうね。まずはやるべき事を成しましょう」

「ああ。だがこの酒場でどう情報を見つける?」

 姜維は酒場全体を見回した。姜維達とは到底近しい身分ではない者達が集まり、日々の疲れを癒している。時間的に今は客も少なく、情報が集まると思えない。

「姜維殿は私の相手をしてくれるだけでいいわ。私、これでも大勢の声から情報を聞くのは得意なの。司馬家の女は聡明なだけじゃダメなのよ」

 そういうものなのか。姜維はよくわからないため聞く事はしなかった。肉饅頭を手に取ってはかじり、つまらなさそうに店を見回し酒場内の声に耳を澄ませる。世間的な話、国の話、他国の話――どれも有益そうな情報ではない。が、姜維は一人の客に目が入った。

「窓際の席の男。豪族だろう」

 明らかに他とは違う。身なりを変えていてもわかる。相当な官位を持つ役人だ。作法が平民とは思えない。姜維や元姫も作法は習っているが、変装しているため作法を崩して食事をしている。だが、あの男は違う。呉が紛れ込ませている将兵か何かだろうか。

「――はあ? ちょっとくらい、良いじゃねえか」

「お、おやめくださいましっ」

「俺を誰だと思ってんだ? あの孫覇様に仕えている男だぜ?」

「す、すみません、お許しを……ッ」

 聞こえた騒ぎに目を向ける。すれば一人の婦人が酔っ払いの男に絡まれていた。腕を掴まれ、席から立たされては首筋に顔を寄せられる。彼の仲間と思われる男達も、何もせずただ笑って見ていた。これだから、こういう酒場は。姜維は溜め息を吐き立ち上がる。元姫が止めるのも聞かず、そちらへ歩み寄っていくと婦人の手を掴んでいる右手に手刀を落とした。

「痛ってえっ! なっ、何だ、クソガキッ!」

「失礼。あまりにも見苦しいものでな。食事くらいまともに出来んのか。これでは孫覇の名も知れたものだ」

「テメェ、俺の主君が誰だと思ってんだ!? 孫権様から寵愛を受けている孫覇様だぞ!? 俺に狼藉を働くとどうなるか――っ痛ってててててッ!」

 姜維は男の右腕を掴み後ろへ捻り上げる。こんな男、片手一本で足りる。

「嘘もいい加減にした方がいい。本当に孫覇に仕えているのなら姓名で呼んだりはしない。役人にあるまじき言動、行動。――貴様、孫和派か?」

 太子やその皇子が主君の場合、許されない限り姓名で呼んだりはしない。失礼にあたるからだ。呼ぶなら「若」や「若君」などが妥当だろう。この男が許されていると思えなかった。だからカマをかけてみた。孫和派ではないかと。

「な、ッ、なら、テメェは孫覇の――」

「違う。だが、無関係ではない。……貴様は色々知っているようだな。喋ってもらおうか」

「だ、れがテメェみたいな若造に喋るかッ!」

 男は姜維の腕を振り切り、仲間と共に姜維へ殴りかかる。姜維は上空へ飛び上がると、一回転して二人の男には両足で踵落とし、中年の男には拳を顔面に叩き込み着地する。男の仲間はその場に失神し倒れ、姜維は地面に着地する。

「さあ、まだやるか? 私なら貴様を一秒で倒せるが」

「上等だ! テメェなんかに負けて溜まるか! この田舎者がっ!」

 拳を振り上げられる。姜維は男の顔面を掴みそのまま地面へ叩きつけた。そして懐から取り出した匕首を相手の首筋へ突きつける。

「まだ向かってくるというのなら、このまま殺してもいいが」

「はっ、やれるものならやってみろよ」

「そうか、わかった」

「え、ちょ、嘘――痛ってええああああああッ!」

 匕首で男の首筋を刺した。もちろん冗談である。姜維ならこのまま首を落とせたが、男からの情報が欲しい。そのため刺した。死なない程度に、だ。男は涙目になりながら「ごめんなさい! すみません!」と謝罪し、姜維は手を引いた。

「知っている情報、吐いてもらおうか」


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