結晶の囚人~彼女の奸計~
「……元姫殿」
「ああ、もちろん嘘よ。法正殿と私の力は系統が違うし、詳しく知らないとそんな事出来ないわ。劉備殿に心配させる訳いかないでしょう? それに趙雲殿も居た。あの二人を巻き込みたい訳じゃないから」
やはりか。そんな気はした。そう思ったのは元姫がすんなりと話し出したからだ。姜維が核の事を聞いた時は「その時になったら話す」と言い、彼女は大事な事を直前にまでなって話さなかった。劉備が聞いたからというのもあるかもしれないが。
なら、どうやって生き返らせたのか。そんな大がかりな事簡単に出来るはずもない。
「人間には生命力――命の源が元から備わっているの。それを使って、あなたと劉備殿を生かした。それだけよ」
ただし、それには寿命を数年使う事になった。それこそ世界をねじ曲げるような行為。神の筋書き通りの台本を私は書き換え、あなた達を生かしたの――と元姫は豪華な装飾がされた木製の窓から城の外を眺める。
「劉備殿は死んでいなかったから書き換えずに済んだ。けれど、姜維殿、あなたは死んでいた。――いえ、あの時、本来なら死ななければならなかった」
確かに、あの時心臓を潰されたのを感じた。死ぬと思った。いや、実際死んで、気付いたら目が覚めていた。死んだのではないかとか、色々考えた事はあったがあの時に考える暇などなかった。なるほど、寿命を使ったのなら納得が出来る。
「私は神の筋書きに抗い、あなたを生かした。盤上の駒を先に進めるように。それは神への冒涜であり、神器として神への反逆。――でも、これでようやく私の核探しが始まるわ」
「……どういう事だ」
嫌な予感がする。その予感が的中するかのように元姫は色白の顔の上に小さな笑みを漂わせる。そして彼女は告げる。
一ヶ月、私のために動いてくれてありがとう――と。
「あなたはこれから核に狙われる。運命を書き換えた者として。筋書きを書き換えたあなたの血肉を食らえば、核は人として生きる事が出来る。筋書きを書き換えられる」
「お、おい、まさか……ッ!」
「ええ、今更言うけれど、私、このためにあなたを狙ったの。最初から馬鹿を演じて、あなたに力を見せたのよ。ごめんなさいね、騙して」
屈託のない可愛らしい笑顔で告げられ姜維に殺意が芽生える。今、思い出せば、確かに最初からおかしい女だと思った。突然能力を見せられて、捕まえて魏で捕虜とするぞと脅されて、核探しを手伝う事になって。まあ、核を捕まえると決めたのは、皇后のためだが。
完全に、姜維は嵌められたのだ。
「でも安心して、姜維殿。あなたは私と居れば死ぬ事はないし、乗っ取られる事もない。私が守ってあげるから」
「ふ、ざけるなッ! 私は二度と手伝わないぞ!」
寝台の上から吠える。冗談じゃない、これでも忙しい身だ。元姫に付き合っている暇もないし、何より付き合いたくない。彼女に付き合えば何をされるかわかったものではない。
「あら、そう。じゃあ核に殺されてもいいのね? それでいいなら私も構わないのだけれど。核を探す人を新たに見繕えばいいだけだわ。……そうね、知識美人の月英殿とか――」
「ッ……くそ」
月英に手を出されるくらいなら己がやるしかない。彼女に手を出させはしない。姜維は顔を背けると小さく舌打ちをした。此処に月英が居たならば叱られていたところだろうか。元姫は姜維の手を握り締め、微笑みを崩さず告げた。
「じゃ、これからよろしく頼むわね、姜維殿」
「ッ――!」
簀巻きにして魏へ送り返してやりたい。姜維はそんな思いに狩られる。元姫の手を振り払い、頭を抱える。そうだ、元姫が己を利用するのならばこちらも利用してやろう。核を次の戦で使えるように欺いてやろう。ならば、元姫との核探しは蜀のためとなる行為である。元姫か情報も聞きだして、魏をぶっ潰してやる。
これは北伐への足がかりとなる。改めて姜維はそう理解する。
そして姜維の北伐政策は此処から始まる――。
一話完!
バトルがやりたくて書いたら九割バトルじゃねえか!!!!!
テーマは「諦めない心」で書きました。姜維の妄執はいつも通り。
この話は特に演義も正史も関係ない完全オリジナルで書きました。
楊儀をもっと出したかったけど関係のないので削った……。
以下ちょいとした小ネタ
姜維はかなり身軽で地上戦より空中戦が得意。
姜維は詰めが甘いので、戦いながらも劉備に守られている。
元姫は序章から全て仕組んでいた。意外と計算高い。
法正は元姫とはまた違うけど人間ではない。でも神器と近しい関係。




