結晶の囚人~戦いの後~
「いいですか、全く無理をし過ぎです! 本当に! 劉備様もですよ!」
あれから一ヶ月。姜維と劉備は未だに寝台の上であった。元姫はすぐに復活したらしく、姜維達の治療に奔走してくれたそうだ。まあ、彼女は神器であるため仕方ないとも言えるが。だが、姜維と劉備は一週間、二週間経っても目を醒まさなかった。起きた時、法正にぶん殴られたのは未だに納得がいかない。劉備は一週間ほど前に目を醒まし、他の臣下からたっぷりと叱られたらしいが。
そして今、姜維と劉備は月英から雷のような怒りを受けている。かれこれ三時間だ。元姫は寝台の傍で薬を調合しているのに何も言ってくれず、護衛の趙雲に至っては槍を持ったまま部屋の入口に立ったまま目を伏せている。
「あの、月英殿、その……」
「口答え無用! 姜維殿、私はあなたや劉備様が憎くて怒っているのではありません! 心配して怒っているのです! 確かに私達は老衰で死にませんし、心臓を刺されないと死にません。だからと言って、無茶をしていい訳ではないのです。――法正殿があなたを殴った意味を理解してくださいね」
そう言って月英は怒りながら踵を返し部屋から出て行く。趙雲は何も言わず、ただその場に立っていた。この部屋に劉備が居るからだろう。臨時休養室として使用されているこの部屋。普段は劉禅が側室と遊ぶのに使っているのだが、今だけは姜維達に貸し与えてくれていた。
「……ま、まあ、月英の言う通りではあるのだ」
劉備は寝台の枕を背もたれにしながら苦笑する。そういえば以前、諸葛亮が「月英は本気で怒ると怖いです」と青ざめた顔で言っていたのを思い出した。この事か、と姜維は思い出し劉備に釣られて苦笑する。
「それより、気になったのだが……元姫殿」
「はい、何ですか?」
「どうやって、私達を此処まで回復したのだ? あの時、姜維は死んでいたし、私も死ぬ寸前だった。胸を氷の触手で刺されて……」
そういえばそうだ。姜維も、劉備も、死ぬはずだった。それを此処まで回復し、復活させた。死んでいてもおかしくはないはず。姜維に至っては心臓を潰されていた。なのに、まるで時間が巻き戻ったみたいに回復している。
「あの時、あの空間に満ちていた法正殿の力を使ったのです。少々骨が折れましたが」
劉備は感心したような声を漏らす。元姫ならもっと瞬時に出来そうだと思ったが万能ではないらしい。頭の中を覗いたみたいに彼女は「万能じゃないわよ」と姜維に告げた。だが――すんなりと話し出す彼女に姜維は違和感を抱く。
「なるほど……法正も知らないところで役に立ったと聞いたら元姫殿に報復しようとするだろうなあ」
「遠慮したいですね。それより劉備殿の方が法正殿にお叱りを受けるのでは?」
「……ああ、思い出したら気分が滅入ってきた……」
劉備は深く溜め息を吐いては頭を垂れる。姜維が目を醒ますまで法正は劉備の所に来ては何も言わずただ彼を睨み付けていたらしい。劉備にそんな事が出来るのは法正か、古参の将兵だけだ。そして法正の説教は長いのだとか。元姫は調合し終えた薬を姜維と劉備に手渡す。
「む、そろそろか。では私は華佗先生のところへ行ってくる。姜維、しっかりと休むのだぞ」
劉備は寝台から下りては入口前に居る趙雲を引き連れて部屋を出て行く。それを確認すれば姜維は元姫に目を向けた。




