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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第三章 王元姫の奪還戦線
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結晶の囚人~復活の糸口~

「じゃあな、元姫」

 さよならだ。

 剣が振り下ろされる。厭だ、厭だ、厭だ。元姫は最後の足掻きを決行する。力を込めて、最後の力で、その剣に手を伸ばす。希望なんてない、こんな状況で頭は回らない。それならば最後に足掻くだけ。

 だが天は、神は、見放さなかった。

 寸前、眼球に届く数センチの距離で剣が折れた。切っ先は遥か後方へ跳んでいく。目の前には一つの背中。血塗れで、重傷を超えた背中。血に汚れた長髪を揺らす背中は槍でジエジンの身体を貫く。

「元姫殿ッ!」

 氷柱を根元から壊され氷柱は霧散し、元姫は暖かなぬくもりに抱えられ地に下ろされる。劉備だ。彼は酷く申し訳なさそうに、今にも泣きそうな顔で元姫を見つめていた。

 何で、こうも二人は来て欲しい時に助けてくれるのだろう。

 まるで正義、英雄だ。元姫は小さく微笑み「大丈夫です」と告げては己の胸に手を乗せ、傷を塞いでいく。これで死ぬ心配はなくなった。力も、彼らが来たならば大丈夫だ。

 姜維はジエジンの身体を槍から引き抜き床へ叩きつけるように放り投げる。そして、酷く怜悧に、ジエジンを見つめていた。

「な、貴様ら、一体どうや、って……ッ」

「こんな氷の糸で、私達を縛れるとでも思ったか。……簡単な事だ、元姫殿が貴様を引きつけてくれている間、私達は貴様に見つからないよう静かに抜け出した。ただ己の肉で氷の糸を千切っただけだがな」

 つまり無理矢理引っ張りあの拘束を抜け出した。その証拠に二人からは血が溢れている。元姫は身体を起こすと近くに居た劉備の血を力で止める。姜維にも触れようとしたが結構だと断られてしまった。

「私も貴様を称えよう、ジエジン。だが私は元姫殿のように甘くはないし、劉備様のように優しくはない。――皇后の身体だからと言って私が貴様の心臓を狙えないと思わぬ事だ」

「りゅ、劉禅の、妻だぞ!?」

「そうだな。それがどうした。皇后などまた立てれば良い」

 恐怖を感じたのだろう。ジエジンから血の気が引いていく。左右の壁が介入によって割れた。成都の景色が瞳に映し出される。

「く、っそッ!」

 ジエジンは周囲一帯を濃霧で深くし姿を隠す。誰も追う事はしなかった。だけど、これで決まる。哀姫を助けられる――。

「……劉備様すみません、先ほどの発言は――」

「劉禅が聞けば悲しむだろうなあ」

「その、本心ではありません! ジエジンを惑わすためでして!」

「うむ、わかっている。案ずるな」

 姜維は安堵した息を撫で下ろし、姜維は元姫を鋭く見つめる。

「元姫殿、囮にして申し訳ない。ああでもしなくては私達が気付かれる危険があった」

「ええ、構わないわ。それより、哀姫殿を助ける方法なのだけれど……」

 元姫はその方法を二人へ話す。二人は少し難しそうな顔をした。

「哀姫様の中にあるジエジンの源を取り出す……か」

「ええ。それをするには私の探知が必要。今、私の中の力だけでは探知は出来ないけれど、介入によって満ちている法正殿の力を使えば可能よ。でもその間、ジエジンを追い詰める役が必要となる」

「わかった。私が担う」

 姜維は間を入れずその大任を負った。確かに姜維が適任だろう。ジエジンが哀姫を手放した時、劉備では身体を狙われる可能性がある。

「探知の間、私は何も出来ないので……劉備殿、お願い出来ますか」

「うむ、元姫殿を守ればよいのだな。了解した」

 これで役目は決まった。最初と同じだが、状況は違う。すぐにシージエも壊れるだろう。今が好機。新たなシージエを作らせないためにもすぐに追い詰めなくては。

そして早速行動に移すため、元姫は探知を始める。拱手するように反対の手で片方の拳を包み込む。拱手とは手が逆だが。休む暇なんてないし、それを敵に与えるつもりもない。そう、勝利は確定。そう決まっているのだから。

「――北東四十五度!」

 元姫の戦いは始まったばかりだ。


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