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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
序章 天水は本日も快晴也
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結晶の囚人~奇妙な女性~

序章 彼と彼女の共同戦略


 空は快晴。雲一つない空だ。見知った空だ。乗ってきた愛馬は気持ちよさそうに、この間の戦で火計の被害に遭った大木の下で眠り込んでいる。傍にある死体の腐臭が少し患わしそうだが、戦場を駆ける愛馬は慣れたものだろう。ああ、帰ったらまずは陛下に報告して、それから軍備を整えて――と現実から目を逸らしていた至高は、凛とした、暖かみのある、そして何処か意志のこもった声で引き戻された。

「私、カミサマなの」

 母の墓前の前で、目の前の美しく品のある佇まいをする女性はそう告げた。

 まるで人形、創作品と見まがうほどの美しさを持つ美貌。黒曜石の瞳に、絹糸のような白色の髪は後頭部で煌びやかな髪飾りを使い一つに纏められている。纏う服は、高級な布を何枚も貼り付けたような膝下辺りまでの服だ。それだけで彼女が名家の息女という事がわかる。だが青年は彼女を知っていた。名前だけだが。

「……はあ、そうですか」

 此処で「ええ!? カミサマ!? あのカミサマですか!?」とか「いや、何言ってるんですか? 馬鹿なんですか?」とか言えたらまだ会話は続くというものなのだが、如何せんこういう会話はした事がなかった。そもそも、青年は武官であり、ほぼ戦の中で過ごしているような男であった。気の利かせた会話が出来ず、目の前の女性が黙り込んだのを首を傾げて彼女を見つめる。

「もっと驚いて欲しいものだけど」

「あ、ああ、すみません……えっと……あ、わかりました」

「何が?」

「あなたと会った事は秘密に致します。正室の居る妻が見知らぬ男と、こんな場所で会うなど……不埒以外の何者でもありませんから」

 女性はこの大陸に鼎立している三国でも名は轟いていた。才女であり、献身的な慎ましい女。更に今の夫の偉業を支えているのはこの女性とも言われている。だが、どうしたのだろうか。女性は額に手を添えて「違う、そうじゃない」と言葉を漏らした。

「――私はカミサマなの。あなたに見られた以上、あなたに知られた以上、私はあなたを自由にする訳にはいかないわ」

 一歩青年に詰め寄り、女性は腰に手を添えてじっとこちらを見上げ、薄い紅が塗られた唇を開き語り出した。

「……私はカミサマ――そう言ったけれど、別世界で人間として生を受け、死んだの。その時は魔術――……この世界で言えば仙人だけが使える神通力を使える人間、というところかしら」

「へえ、それは凄いお話ですね」

「……信じていないわね、仕方のない人」

 この手だけは使いたくなかったのだけれど。

女性はそう告げて青年の一つに纏められている茶色の髪を掴み、引き寄せた。青年は痛みの声を僅かに漏らし、視界一面には女性の顔が眼前に迫る。そして――額に軽く口づけられた。すれば突然視界は暗転し、青年はその場に崩れるように倒れそうになる。小柄な女性に前から支えられ、半ば彼女に身体を預ける形となった。

 脳内に様々な情報が入り込む。まるで走馬燈のように次々と、記憶の濁流のように、何億、何百、何万と過ぎ去る日々のようだった。そして、青年は理解した。

 彼女がカミサマだという事を。


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