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姜伯約の北伐政策  作者: はくりなのい
第二章 ジエジンの復活戦術
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結晶の囚人~神の使い達~

■□□■


 ――時は遡り数十分ほど前。

 元姫と劉備は姜維と別れ濃霧の中を進む。晴れない霧、前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかわからない。それでも歩みを止める事は出来なかった。いや、止める事は許されない。姜維の命が二人の肩に掛かっていた。

 姜維から提示された策はこうだ。

 元姫の力で外と連絡を取り、外部の協力も仰いでジエジンを止める。姜維はそれまで囮を担い、元姫と劉備は策の形成に走る。

 確かに外部と繋がれば上手くいくかもしれない。しかし、時間が必要だ。それまで姜維はジエジンの猛攻を防がなければならない。時間が掛かれば姜維の命が危ない。故にあまり時間はかけられない――。

「大丈夫だ、元姫殿」

 不安げな表情をしていたのだろうか。劉備は元姫に慈しみのある微笑みを向ける。その微笑みに少しだけ魅了されてしまった。流石、劉玄徳。神と崇められるお人である。

「すみません、劉備殿……」

「姜維は強い。何度も軍を率いては呉や魏を撃破するような男だ。それに、魏に居た頃、姜維は対蜀漢と言われるほど蜀を撃退していた。あの男が負ける訳がない」

「……はい、わかっています、わかってはいるんです。ですが此処はシージエ。ジエジンの世界です。外で可能であった事も不可能となるでしょう」

 遠くから轟音が聞こえる。戦闘が始まったようだった。振り返れば奥の方だけ霧が晴れている。急がなくては。元姫は足を止め、この辺でいいかと立ち止まる。

「外と通信……――外と、私達を繋ぎます。そうする事で会話が可能となり、外部から連携を頼めるでしょう。もっとも外に私のような存在が居れば簡単に繋ぐ事が出来るのですが、いないので私が自力でこじ開けます」

「ああ、それなら適任が居るぞ」

「……え?」

 元姫は左手を伸ばすと力を使用して外と自分達を繋ごうとした。だが劉備からの予想外の言葉に素早く反応する。劉備は「あまりバレたくはないのだ」と口元に手を添え、少々不満そうに表情を変えた。だが、それなら助かる。

「では、その方を中継として繋ぎます」

 劉備がバレたくはないと言った相手とはどんな人物なのだろうか。協力を仰げたらいいのだが。それとも個人的な理由だろうか。様々な考えが巡るも元姫に悩んでいる暇はなかった。即座に力を発動――する前に、介入された。元姫と劉備の前には巨大な鏡。映し出されたのは人相の悪い男。だが眉目秀麗だ。その辺の女ならすぐに落とせそうなくらいには。そしてその後ろには赤毛の不美人と不満げな槍使い。

『これはこれは劉備様、やっと見つけましたよ』

「げっ、法正ッ……」

『何て顔するんですか。あなたがいない事で隠居した俺達は走らされていたのに。趙雲殿は兵の鍛錬を中断し、月英殿は劉禅殿の補佐を離れ、こうやって皆で町を駆け回っていたのですが? それなのに我が君はまるで迷惑とでも言わんばかりな顔をして……。ああ、俺は悲しいですよ、劉備様』

「いや、法正、今はそういう話をしている場合ではないのだ」

 法正。劉備が軍事の面で信頼し、信用している男だ。若くして病を患ったとかで魏の曹丕が魏帝になった歳に隠居した。だが、その後は隠居を決めたため劉備の補佐だけを行い、劉備に策を提示し続けたとか。

 しかし、何故、法正が? 気になるのはそこである。

 無礼だと思うが、元姫は劉備と法正の会話に割って入り法正達へ挨拶を済ます。法正が表情を不満げに変えたのは見ない事にした。そういう人間だからだ。そして状況を全て説明し、法正は「なるほど」と一言漏らした。

『劉備様を囮にしなかったところは褒めてやるよ。姜維は三分の二殺しだけどな。王元姫殿、あなたへの報復は考えといてやる』

『殿、元姫殿、我々に出来る事なら何でも行いましょう。関羽殿や張飛殿、馬超殿達も手伝うと現在成都城へ滞在しておりますゆえ』

 眉目秀麗な槍使い、趙雲は法正を押し退け拱手する。二人の関係が僅かにわかった気がした。協力が居るのはありがたい。

「ありがとうございます。私達の目標ですが哀姫様を助ける事、核を捕らえる事です。前者はもちろん後者は核を倒さなければ成し得ません。更に言えばこの世界――氷の核、ジエジンが作り出したシージエ(世界)は彼に味方します」

『……つまりその世界では劣勢を強いられるという事でしょうか』

「流石月英殿、その通りです」

 知識美のある月英。諸葛孔明の妻である彼女は大方理解しているようだ。

 このシージエではジエジンに世界が味方する。姜維は劣勢を強いられているだろう。姜維だからすぐに倒される事はないだろうが、嫌な予感は少しずつ、胸に不安を抱えていた。

『となると俺達はそのシージエをぶち壊す役目という訳か』

「はい。シージエは外部から力で介入される事によって壊れます。この世界を安定させているのはジエジン自身。ジエジンの精神とも言えます。外部と内部の攻撃、二方面から攻めれば……勝機は見えるかと」

『……戦と同じだ。どっちかが撃破されれば作戦は崩れる。つまり、俺達がシージエを破るには今戦っている姜維が負けたら終わる。この作戦は、あいつの囮で決まる』

 確かにその通りだ。元姫は一度だけ目を閉じ瞼の裏に一人で奮闘する「彼」を見る。囮を担ってくれたのも、策を提示してくれたのも、きっと元姫を、劉備を、守るため。一人で抱え、一人で背負い込んだのだ。ああ、本当に不器用で真面目で――。だからこそ元姫は彼を選んだのだ。

『――元姫殿、大丈夫だ』

 趙雲は先ほど劉備が告げた言葉と同じ言葉を告げた。古い付き合いなら思考も似てくるのだろうか。

『姜維を信じればいい。私達は私達の出来る事をやろう。それが今、最善の道だ。哀姫殿を助けるにも時間がもうそれほど残されていないだろう』

 哀姫はジエジンに飲み込まれている。取り返すにはかなり弱らせないと不可能だろう。そして彼女がジエジンの力に耐えきれる時間もあと僅か。急がねばならない。

「……はい。では、まずはシージエの壊し方は、法正殿、お任せ致します。私の力に介入したあなたなら壊し方くらい存じているかと」

 聡明な女も考え物だな。法正は軽く頭を掻きながらそう漏らした。

『俺のやり方でいいんだな』

「はい、構いません。私達はその間、ジエジンを弱らせます」

『了解、今すぐ行う。――ああ、元姫殿一つ忠告しておく』

 挨拶をして通信を切ろうとした元姫だが、法正に止められ首を傾げる。法正は劉備に一度視線を移した後、口を開いた。

『――俺の劉備様に怪我でもさせてみろ、女でも容赦しない』

『おい、誰がお前の劉備様だ。私達の、だろう』

『誰のお陰で漢中取れたと思ってるんですか、趙雲殿』

『何十年前の話だ! 今更盛り返すな』

『おや、どこぞの将軍は大した功績もありませんでしたね』

『いいだろう、法正殿。今すぐそこに――』

 大丈夫だろうか、本当に。

 元姫は一抹の不安を抱えながらも通信を切ろうとしたが、苦笑した月英に「しっかり行いますので、ご心配なく。劉備様をお任せ致しますね」とだけ告げられ通信を切った。あの二人のところに月英が居る事を感謝しなくてはならない。

「……す、すまぬ」

 先ほどから黙っていた劉備は申し訳なさそうな、困り果てたような表情を見せた。呆れにも、諦めにも似た顔である。おや、珍しい。元姫は少し驚いた。「悪い奴じゃないのだ」と彼らを庇おうとする姿に少し笑みが漏れた。

「劉備殿、知っています。でなければ法正殿達――いえ、法正殿は動いてくれなかったでしょうし。感謝しています」

 遠くに氷の――塊が見えた。様々な氷が飛び交っている。あれは姜維が戦っている辺りか。劉備も同じく視線の先に氷の塊を視界に入れていた。急いだ方が良さそうか。元姫は劉備と視線を合わせ、頷くように合図をするとそちらへ向かって駆けていく。


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